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祭の準備と音楽と

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祭の準備と音楽と

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ちんどんや

「…………………………」
 村の出口。祭の準備、その視察としてユニコーンの住処の次に来た場所で、ミナホは絶句する。
「…………ちんどん屋さんですか?」
「おー、ジャパニーズ『ちんどんや』知ってるなんて素晴らしいね!」
 やっとのことで声を振り絞って出したミナホに、ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)は嬉しそうに言う。
「祭の広告にいい方法があると聞いてましたけどまさかちんどん屋さんなんて……」
「インパクト最高ネ!」
 ロレンツォの言葉をミナホは否定出来ない。このパラミタにおいてちんどん屋は恐ろしいほど目立つだろう。広告と言わずそれだけで立派な見世物だ。……どういった意味で見世物になるかは言及しない。
「はぁ……どっちか言うと音楽祭のステージ出させてもらうほうがありがたいんやけどなぁ」
 ロレンツォの後に並んでいるうちの1人大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)はそう言ってため息をつく。
「今更文句言うのはなしネ。、アノ事、レイチェルにばらすアルよ?」
「だからあの事ってなんやねん」
 よく分からないけど危険を感じてちんどんやを手伝っている泰輔だった。
「……まぁ、ちんどん屋言うんも日本でももう珍しいもんやし、悪ぅないかもな」
 そんな骨董商売知ってるロレンツォは本当に何者なんだと同時に泰輔は思う。

「早速となり街に宣伝行ってくるネ! ミュージック・フェスティバルいっぱい知ってもらうヨ」
「……はい。頑張ってきてください」
 一瞬遅れてそう返すミナホ。奇天烈な格好でとなり街へと向かうちんどん屋集団を見て一言。
「…………私はなにか取り返しの付かないことを見逃してしまったんじゃ……」
 そうは言っても後の祭り。ロレンツォ率いるちんどん屋は出発した後だった。


 ニルミナス街道の先にある街。そこを派手な格好をした集団が音を鳴らしながら歩いていた。もちろんロレンツォたちのちんどん屋だ。
「―――♪」
 先頭を歩くのはロレンツォだ。鼻歌交じりに太鼓をどんちゃん鳴らして歩く。格好は見ていた目が痛くなる。
「うぅ……これはなんか違う気が……って、今更よね。パートナーなんだし」
 愚痴を言いながら開き直ってきたのはアリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)だ。パートナーであるロレンツォが日本好きで音楽好きだというのは知っているが、それでもこのちんどんやというのは派手で珍妙で目立つため恥ずかしい。が、既に開き直りの境地に達しようとしていた。
「よくわかんないけど、この鉦(かね)……チャンチキっていうのかしら? これを、調子よく鳴らして踊りながら行けばいいのね!」
 宣言通り調子よく鳴らして踊り始めるアリアンナ。開き直りというかもはやヤケになっている。
「とざい! とーざーい!」
 そう言ってビラを巻きながら祭の宣伝を始めるのはレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)だ。
(……うぅ……なんだか、恥ずかしいんですけど)
 始める前、顔にピエロのような化粧をして誰だか分からないから大丈夫かなぁと思ってしまったレイチェルだが、実際に始めてみるとやっぱり恥ずかしい。
(それにこんなにビラを撒いて怒られないんでしょうか?)
 ちなみにこの街の街長である女性にミナホはこの後怒られるわけだが、それはまた別の話。
「とざい、とーざーい!」
 一口上終え、もう一度宣伝を始めるレイチェル。今度はアリアンナも一緒に言ってくれるらしく、そのテンションに巻き込まれてヤケになっていく。
 その後を泰輔はトランペットでちんどんやの曲をチャルメラ風に吹いて歩く。開始前に軽く愚痴っていた割りには始めると結構ノリノリで吹いている。
 ちんどんやの行列。その一番後ろをアコーディオンを引きながら歩くのはフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)だ。タキシードに蝶ネクタイ。そんな格好のフランツは常識的に見れば一番まともなのにこの行列の中では逆に浮いている。というよりちんどんやの鳴らす曲に対して致命的に合わない。
(うん、こういう音楽も面白いと思うよ)
 宣伝効果としても間違ってないとフランツは思う。
(でも、素直に弾いてるだけってのもつまらないかな)
 トランペットを吹く泰輔を無理やりリードして、ジャズっぽくアレンジした「魔王」を演奏し始めるフランツ。それに泰輔ものっかかり「魔王」が演奏されていく。
「♪ おっとーさん、おとうさん、みえーなーいのー」
 もうちんどんやというかただのキテレツ集団である。
(まったくもう……だから、付き合う友は選べ、と泰輔には言うてあるのに!)
 前に繰り広げられる珍妙な光景に頭が痛くなっているのは讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)だ。黒子の格好で泰輔たちのあとをつけ、ビラをあちこちに貼り付けていたりする。
「ちょっと、あなた。このビラ……というより、あれは何の騒ぎですの?」
 街を歩く黒子というある意味ちんどんやより奇妙な存在に恐れもなく話しかける女性。この街の街長だ。
「ちんどんやというものらしいのだよ。ニルミナスの祭の宣伝をしているのだ」
「あぁ……あのお気楽残念娘の村の……。わたくしそう言った宣伝をすると報告受けてないのだけれど」
(……そういえば泰輔に、あらかじめ許可をもらうように言われていたのだよ)
 すっかり忘れていた顕仁。正直なところ、この派手で珍妙な行為に乗り気じゃない顕仁は、これに限らず仕事が雑だった。
「まぁいいわ。そちらの村長にはこちらから抗議を入れておきます。あなたたちは街を一周りしたら素直に帰りなさい。ビラに関しては後日また改めて貼りに来ること」
「? 今すぐやめさせないのであるか?」
「宣伝の仕方はともかく内容は特に問題ありませんわ。きちんと手順を踏めば特に問題視することはありませんもの」
「そうであるか」
 そう素直に頷いている顕仁。ただ、心のなかでは
(この黒子の衣装では、我の美貌に見惚れさせることが出来ぬ。ええい、もったいない、もったいない!)
 仕事本当にどうでもいいらしい。

 そんなこんなで黒子置いてけぼりで進んでいくちんどんや。珍妙な音楽からもとの奇妙な音楽へと回帰してまた街を歩く。その奇妙な調べは少しだけ心躍り、ほんの少しだけ寂しく、微かに懐かしさを感じるものだった。