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リアクション
ミナホ・リリィ
「はわ……アテナ、だいじょーぶ?」
アテナと瑛菜の泊まっている部屋。その窓際に座り外を見つめているアテナにエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)はそう心配そうに声をかける。
「大丈夫だよ。エリー。別に体調崩してるとかじゃないから」
「ぅゅ……でも、アテナいつもよりげんきない、の」
「本当に大丈夫だよ。少し……本当に少しだけ悩んでるだけだから」
心を閉じこもらせるようにアテナは言う。その様子にエリシュカは悲しくなる。
「うゅっ、ぅゅっ……アテナが、げんんきないと、エリーもかなしい、の」
その悲しみを溢れさせるようにエリシュカは涙を流してそう言う。
「エリー……ごめんって言えばいいのかな? それともありがとうって言えばいいのかな? よく分かんないよ」
ただ、エリーに涙を流させたことに胸を痛めているのだけはアテナにもはっきりとわかっていた。
「はわ、もっていてくるしいヒミツなら、いっしょにわけあえば、くるしいのもはんぶんこ、なの!アテナのなやみ、ききたい、の」
涙を拭き、アテナを元気づけるように言うエリシュカ。
「……そう、だね。エリーなら……」
そう言って意を決するようにアテナはエリシュカに向き合う。
「これは、アテナと瑛菜おねーちゃんがこの村に初めてきた時の話なんだけど――」
街道づくりのためにニルミナスへと訪れていた瑛菜とアテナ。その下見として二人は森を軽く散策していた二人は怪我をしている女性を見つける。
女性の怪我は結構大きく、応急処置をしようにも二人は治療系のスキルに長けてはいないし、手持ちの道具では十分な治療ができそうにない。村に運ぼうにも大雨が降り始め二人で運ぶのは危険な状況。
仕方なく瑛菜とアテナは別れ、瑛菜は女性の傍に、アテナは村へと助けを呼びに行くことにする。
その村へと行く途中、大雨のせいか道に迷ってしまったアテナ。そこに声をかける深くフードを被った人。
『くすくす……うっとうしい雨ね』
雨音で耳が痛いくらいの中、その声は不思議とアテナの耳に届いた。
「あの! 村ってどっちの方向なのかな!?」
雨に負けないように大きな声でアテナはフードの人に聞く。
『向こうだけれど……この雨じゃまた迷ってしまうんじゃないかしら』
「でも、急がないと――」
アテナはフードの人に事情を説明する。
『くすくす……やはり契約者というのは何時の時代も愚かしい。自らの行動が正しいと迷いなく動き、目的を成就させる。そのずっと先にある結末を理解できずに』
「?……」
『けれど、今回はその先も正しいのかしら。それとも私も契約者と一緒で愚かなのかしら』
アテナなどいないかのようにフードの人は一人話していく。
『くすくす……どうでもいいわね。愚かでもなんでも。ただ私は気まぐれで愚かな契約者を助けましょう』
その言葉の数秒後に大雨は嘘のように晴れる。
「もしかしてあなたが……?」
天候を操作することは別に不可能ではない。一部の種族や契約者は限定的ではあるが天候を操作する力を持つ。
『くすくす……どうかしら? それよりも急がなくてはいけないのでは?』
そう言ってフードの人はアテナに背を向けて歩き出す。
「あの、名前だけでも教えてくれないかな?」
それだけでも聞いておきたいとアテナはフードの人に問いかける。
『ミナホ』
「――多分、あのフードの人が粛正の魔女なんだと思う」
今までの話を聞くと間違いないとアテナは言う。
「うゅ……しゅくせいのまじょが、みなほ?」
「わかんない。ずっとミナホちゃんは何の力もないって思ってたから、あのフードの人とミナホちゃんは関係ないって思ってた。でも……」
ミナホには力があった。フードの人と変わらないくらい訳の分からない力が。
同じ名前、理解できない力。無関係であるはずがないとアテナは思う。
「ありがとうエリー。すっごく話したらすごく楽になったよ」
「うゅ……やくにたてたなら、うれしい、の」
そうしてアテナはこの村で久方ぶりに笑うのだった。
「―――――――♪――♪」
村の未開発地域。他の場所よりも少しだけ高い位置にある丘にミナホの歌声が響く。お世辞にも上手いとはいえないその歌声は小さく風に乗って空へと飛んでいく。
「悲しい歌ね、ミナホ」
ミナホの歌が止まった所でルカルカ・ルー(るかるか・るー)は声をかける。
「ルカルカさん……こんな所でどうしたんですか?」
「ミナホが休憩時間どこ行くのかなって気になって。……歌の練習してたのね」
「はい……やっぱり下手ですよね」
「まぁ、お世辞にも上手いとは言えないけど……綺麗な声だったわよ」
それよりもとルカルカは言う。
「なんで、そんなに悲しい曲を歌ってるの? ミナホにはもっと明るいというか頭が軽そうな曲が似合うんじゃないかしら」
「師匠が歌っていた曲なんです」
「師匠って、歌の? いつの間にできたの?」
「ついこの間です」
「ふーん……でも、どうしてそんな悲しそうな曲を歌う人を師匠に?」
「確かに悲しい曲だと思いますけど……それ以上にやさしい曲だと私は思ったんです」
だからその歌を悲しくも優しく歌うその人に弟子入りを志願してしまったと。
「そっか。それで、ミナホの歌の師匠ってどんな人なの?」
「………………綺麗な人……だったような気が……」
曖昧にいうミナホ。
「いや、もっと詳しい容姿とか…………」
「すごく綺麗な人でした」
「……もうそれでいいわ」
例の記憶障害だろうかとルカルカは思う。だとしたらこれ以上聞いても仕方ないだろう。
「歌の練習付き合うわ。といっても明るい感じの曲でだけど」
「ありがとうございます。私も師匠の曲はまだ早いような気がしてたんです」
こうしてミナホはルカルカと一緒に休憩時間を歌の練習で過ごした。
「忙しい中、時間を割いてもらって申し訳ない」
村長の部屋。つまりミナホの部屋でその主であるミナホは面会を行なっていた。相手は契約者とそのパートナーの三人、佐野 和輝(さの・かずき)、アニス・パラス(あにす・ぱらす)、スフィア・ホーク(すふぃあ・ほーく)だ。
「それで、話というのは何でしょう」
「ああ、俺が担当しているこの村の情報設備の整備についてだ。前村長とも話し合っているが、村長とも話しておいたほうがいいかと思って、こうして時間を取らせてもらった」
「そういうことですか。改まってお話というから緊張しました。リコールされるんじゃないかなーとか」
「今のところ、そういう話はたまにしか出てこないから安心してほしい」
「リコール話されてるんですか!?」
「……話を戻していいだろうか?」
「……すごく気になりますが、和輝さんも暇じゃないですしね。情報関係のお話、お願いします」
そうして始まる和輝の説明。すらすらと出てくる話は確かにどこかでミナホにしなければならなかった話だが、別にいま、祭りの準備で忙しいこの時期にする話ではない。
(『ミナホ=粛正の魔女』か、突拍子もない妄言と言えばソレまでだが火の無いところには煙は立たないとも言う……)
そう思った和輝は粛正の魔女と接触のある存在としてこうして探りを入れているのだった。
(魔女の配下として動いてはいるが、未だあのフードの下は見たことがないからな……)
だからこそ情報から判断していくしかなかった。
(うーん、『皆』はどうして粛正の魔女関係になったら黙っちゃうんだろう?)
和輝の隣でスフィアを抱きながらそう思うのはアニスだ。その感受性の高さから地霊達に話を聞くが、ミナホが粛正の魔女かという問には全く答えない。
(でも、なんだろう? 村長から『皆』と同じ雰囲気を感じるというか……)
正確には『皆』の中で一番優しくしてくれる『皆』と同じ雰囲気をアニスはミナホから感じていた。
「(ね、スフィアは何か気づいたことない?)」
小さな声で腕の中にいるスフィアに聞くアニス。
「村長の体重が初見時より増加していますね」
ピギッ
と音を立てて固まるミナホ。
「(しーっ、ダメだよスフィア。女の人に体重増えてるなんて言ったら)」
「いえ、増えているといっても500グラム――」
「……ミナホさん? 話を続けてもいいでしょうか?」
「………………あ、はい。えーっと……ダイエットの話でしたっけ?」
「違います……頼まれて探していたミナスですが、今のところ手がかりは見つかっていません」
「はい?……ミナスってミナス像のミナスですか?」
本当に何の話かとミナホは首を傾げる。
「間違えました。これは違う人に頼まれたことでした」
「はぁ……なんだか気になりますが……とりあえずダイエットの話に戻しましょうか」
「スフィア、村長にあやまんないとダメかも」
「よく分かりませんが人間の女性というのは複雑怪奇ですね」
アニスとスフィアの漫才を横目に和輝は思う。
(……少なくとも、村長自身の意識が粛正の魔女と同一ということは無さそうだ)
もしも演技で完全に使い分けているのならどうしようもないが、村長にしても粛正の魔女にしても演技が上手なタイプではないと和輝は判断している。逆にそういうタイプであれば行動が読みやすいとも。
(あるとしたら二重人格といったところか……だとすればこれ以上話しても進展はないな)
そう和輝は判断する。
「それじゃあ村長。祭の準備頑張ってください」
話を終えてアニススフィアともども和輝は部屋を出る。
「……逆に村長は――」
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