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【アガルタ】宇宙(そら)の彼方で待つ者

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【アガルタ】宇宙(そら)の彼方で待つ者
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■最速を出す条件■


 弐号を護衛するといっても、ただ守ればいいという話ではなかった。
 緊急の救助へ向かっている今、進路を変更して時間をロスするわけにはいかない。つまり、弐号の進路を妨げる障害をすべて取り除く必要がある。

「ルカ。右上の凹んでいる箇所を狙え」
「分かったわ!」

 眼前に迫った巨大な岩。それに照準を向けていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)に、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)からの指示が飛ぶ。ルカルカの放った一撃は、見事にその位置を貫き、一撃で岩を粉々にした。
 司令室にて、リカイン同様土星くんから講義を受けたダリルは、土星くんの補助をリカインと2人でしていた。土星くんには操縦に集中してもらうためだ。
 ちらとダリルが土星くんを見やれば、ずっと浮かんでいた苦悶の表情はもうない。一時は教えるために負担が増えてしまったが、ニルヴァーナ知識や機晶技術など、持っているものを総動員して理解を早め、少しは楽にさせることができたようだ。
 すぐさま眼前の機械に視線を戻したダリルは、障害物となりえそうなものをとらえ、またイコン隊への援護を正確に、素早くルカルカに伝える。
 隣の席では、リカインも同じようにどこかへ情報を伝えている。
「障害物数4。撃ち落せ。外すな。必ず落せ」
「私もプロよ。任せて!」
「ブレスを放とうとしてるわ。当たれば弐号もただではすまない。口を射抜いて」
「分かったよ。僕たちに任せて」
 新たに迫った障害の接近を告げれば、すぐさま返ってくる力強い言葉。ダリルはその言葉を疑うことなく、レーダーに目を向けた。

「……え、うそ?」
「どうした?」

 そのとき、リカインが驚きの声を上げた。土星くんの目が開く。
 リカインが目にしていたのは、土星くんが作った、スークシュマ・レーダー。先ほどまでは赤い救難信号が光り輝いていたレーダーには、いまや土星くんの位置を示す反応しかなかった。
 土星くんが驚いていないところを見ると、予期していたのだろう。

『やっぱり切れたか』
「どういうこと?」
『緊急信号は、エネルギーを食う。それにあれだけ強い反応やったら、回路にもダメージが行ったかもしれん』
「……さらに急ぐ必要がある、ということか」
 そこまでして発しなければならなかったとすれば、コールドスリープに問題があったと言うことだろう。

『コールドスリープも万全やない。なんせ一万年前から使っとるんや。限界がきとってもおかしくない』

 一万年。
 その数字を告げる際に土星くんの顔が一瞬歪んだ。彼はその時、住民をすべて失い、眠りについていた。だが、先ほどまで信号を発していたスークシュマは、ずっと起きていた。
 どれだけ辛いことなのか。想像を絶する。

『大丈夫よ、コーン。他の事はルカたちに任せて。あなたは真っ直ぐ進むことだけ考えて』
『ルカっ娘……すまん。少し速度をあげるで』
 通信から聞こえたルカルカの声に、土星くんは再び目を瞑った。言葉通り、弐号の速度が上がる。
 その前に、ダリルが機械を操作。内部環境を整えたおかげで中に影響はない。リカインもすぐに外のイコン隊に告げていたため、大きな混乱はなかった。

『ダリル!』
「分かっている」
 ルカルカの声が飛ぶ前から、ダリルは計算を始めていた。要救助者たちの居場所を。
 元々スークシュマ・レーダーはかなり大雑把なものだった。ニルヴァーナの技術者がいればもっと高性能なものが作れただろうが、土星くんにはそこまでが限界だったようなので致し方ない。
 しかしそれでも、得られる情報はないよりはマシだ。反応の方角や強さなどから、より正確な位置をさぐる。
 その分、指示や情報の伝達が遅れてしまうが、そこはリカインがカバーする。

「右から敵が接近中。数は3体。左前方に障害物1と敵2」
『了解だよ! 右の敵はボクたちに任せて』
『ほほお。これがカ・イ・カ・ン♪ というものかの』
『ミア……古いよ、それ』
『う、うるさいの』
『左の障害物は任せて。敵の方は』
『私たちがなんとかするネ』
『障害物を破壊後、補給に戻る援護を頼める?』
『うん、分かった』

 より迅速に動くため、皆が皆。自分に出来ることをしていた。

 限界のぎりぎりまで。


* * *


 ここで少し時間を遡ろう。
 土星くんたちが出発した後、物資輸送を買って出たリネンは、すぐにユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)に連絡を取る。もうすでに準備は始めているはずだった。
「支援の話が通ったわ。すぐに物資が届くはずよ。イーリの準備はどう?」
『受け入れ態勢はすでに整ってるわよ』
「それはよかったわ。私は他の準備があるから任せるわね」
 電話の向こうで頷いたヘリワードが『他の準備?』とたずね返す。リネンはただ「ちょっと、ね」と言うだけだった。

「まあいいわ。じゃあ、またあとで」
 電話を切ったヘリワードに、アイランド・イーリの操縦者、ユーベルが話しかける。
「リネンからかしら?」
「ええ。無事に話が通ったそうよ。もうすぐ物資が届くはず。
 ああ、それと土星くんたちはもう出発したみたいね」
「彼らはどれぐらい物資をつめたと?」
「行きは問題ない程度らしいわ」
「ならあたしたちも急がなくてはいけませんね」
 2人が真剣な顔で話し合っていると、外から声がかけられた。どうやら早速物資が届いたらしい。
「さすがハーリー。仕事が早いわね」
 苦笑気味なヘリワードの言葉だったが、目は真剣そのもの。一足早く出発できても、帰ってこれなければ意味がない。自分たちも急ぐ必要がある。
 次々と運ばれてくる物資――これはアガルタの税金ではなく、イキモ・ノスキーダを中心とした支援団体の出資で賄われているようだ――を、効率よくつんでいく。

「時間との勝負よ! 気を抜かないで」

 不測の事態にも対応できるよう、多めに。しかし素早く。ヘリワードは従者や団員の手など、使える手をすべて使い、驚くべき速さでつみ終えたのだった。


* * *


 アイランド・イーリが出発する少し前。創世学園にいたシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は、土星くんの話をパートナーのサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)から聞き、こぶしを握り締めた。
「そうか。ラクシュミ以外でニルヴァーナ人の生き残りが」
「そうみたいだね……どうする?」
 問い返すサビクだが、もう答えを知っている口ぶりだった。
 シリウスがにっと笑う。

「なら、絶対助けないとな!」
「そういうと思ったよ」
 ため息をつくサビクだが、特に反対というわけでもないようだ。ちょうど整備を終えた愛機、シュヴェルト13へと躊躇なく足を運ぶ。

「義を見てせざるは勇なきなり……って柄じゃないけどね。
 あの子のためにも頑張ってみようか……!」
「おう!」

 サビクがメイン、シリウスがサブパイロット席に座る。
 話を聞いて2人の脳裏に浮かんだ人物は同じだ。
 そして2人は土星くんたちを追いかけて飛び立った。


* * *


 一方、土星くんたちは焦りを見せていた。
 ただでさえ移動しながらの戦闘。敵――魔物たちはいくら倒してもきりがない。急がなくてはならないと言う緊迫感もあいまって、疲労が溜まっていく。
 土星くんは悩んだ。
 道をそれて敵をまく。もしくは速度を落として戦いに集中し敵を倒してから進むか。それともこのままか。
 安全面を考慮すればこのままという選択肢はすぐに消え、土星くんは目を開けた。

 そんな土星くんの耳に、通信が入る。

『ニルヴァーナ創世学園のシリウスだ。これより貴艦を援護する。……ここは任せろ!』
『こちら【『シャーウッドの森』空賊団】、アイランド・イーリ! 助けにきたわよ!』
 シリウスと、ヘリワードの声だ。
 実はアイランド・イーリ。途中でシリウスたちと合流し、目的が同じと分かったため、共にやってきたのだ。

『進路はこちらで確保する。キミたちは全力で前進するんだ』
『ってことで、後ろの敵は任せな! 救助は、頼んだぜ』

 シリウスとサビクは、挨拶もそこそこに。すぐさま戦闘に加わる。
 異界を自由に動き回りながら、ライフルで敵をけん制。動きが止まったところで、他の仲間が止めを刺した。
 シリウスが周囲にいる敵の数や方角を確認する。とりあえず弐号の進路をふさいでいる敵――障害物は除く――は今のところいないようだ。サビクにそう告げる。
 なら、

「キミたちはここで通行止めだ。落ちてもらう」

 サビクは敵へ向けて、躊躇なくライフルを放った。


 こうして弐号は、大勢の協力のおかげで、なんとか進路を変えずに可能な限り最速で目的地にたどり着けたのだった。