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リアクション
ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は、水雷龍ハイドロルクスブレードドラゴンに騎乗して急ぎ空京大学を目指していた。
パニックに陥っている空京を救うため、ゲームの開発者に何とかして貰おう、という魂胆だ。ちなみに今日は、パートナーの御神楽 陽太(みかぐら・ようた)とは別行動だ。
ノーンが今召喚出来るのは桜井 静香(さくらい・しずか)型のホログラム。正直、戦闘には全く向いていない。攻撃スキルは何一つ無いし、武器すら所持していないのだ。ゲーム中であれば回復役として役には立つのだが、この状況では、静香ひとり召喚したところでザコホログラムの一人も倒せないだろう。
暴れて居るホログラム達と戦闘するよりも、調査を行った方がまだ役に立てそうだという判断だ。
なお、空京大学を選んだ理由は「こんなに凄いゲームを作れる人は頭が良いだろう。頭が良い人が集まるところと言えば、大学である」という連想ゲームの結果である。
空京大学に到着すると、ノーンはドラゴンの背から飛び降りて、建物内へ飛び込む。
「あっ、でも私ゲーム作った人のこと知らない……ナビ子ちゃん、何か知らない?」
ノーンは大学内を走り回りながら、ナビゲーションAIに問いかける。
――アプリの制作者は、Mr.チェアマンです、マスター。
「……チェアマン、って確か『エライ人』って意味だよね……偽名っぽいなぁ……」
うう、と頭を抱えながらも、ノーンは片っ端から研究室の扉を開けて回る。
そして、半分の部屋では驚かれ、半分の部屋では怒られた。
「やっぱり、顔も知らない人を野生の勘だけで探すのは無理だったかぁ……でも、怪しいことしてそうな人も居なかったし。やっぱり、見当違いだったみたい……」
ノーンはションボリと肩を落として、空京大学を後にした。
「フッ……チートで人の心を弄ぶとは許せん! ハッカーの本気を見せてやる!」
湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)は静かにブチ切れていた。
どれほどDSSをやりこんでも、目当てのキャラクターが出てこないのだ。
――単純にそれは彼の運が悪いというだけなのだが。本人はすっかり、ゲーム制作者の陰謀だと思い込んでいる。
と言うわけで凶司は、空京のパニックとは全く関係無くゲームの制作者を探していた。
とりあえずは通信経路の解析などを、ユビキタスを使って蒼空学園のコンピューターに行わせる。そちらは総当たり作業になるので、結果が出るまでそのまま放置。
凶司自身は、逆アセンブル――ゼロとイチだけで書かれたプログラムを人間が解るプログラム言語に置き換える行為――したソースコードと睨めっこして、プログラムのクセなどの情報を取り出そうと試みている。
「相手の情報機器に、気付かれずにソフトをインストールしてしまう」ようなまねごとが出来る相手だ、通信経路の解析などは偽装されている可能性が高いが、プログラムの組み方、記述の仕方のクセはそうそう誤魔化せるものではない。
凶司はずらっと並んだ半角英数字にどんどん目を通していく。
「Mr.CHAIRMAN……ふざけたコード書きやがって」
逆アセンブルで取り出したソースコードは非常に複雑怪奇な書き方をされて居た。さっと目を通した範囲だけでも、もっと簡潔かつ効率的な書き方をいくらでも思いつく。
「ここはifではなくwhileを使うべきだろ……なんだこの無駄な関数は……」
わざと読み解きにくくして居るのか、はたまたチェアマンという男のプログラム技術が低いのか、プログラムには無駄が多かった。こちらの処理の結果があちらで吐き出されてまた戻ってくる。使わない関数が定義されている。ぐちゃぐちゃに絡まったスパゲティのようなコード。
やはり解読されないようにするためのものか、とも思ったが、使われている言語はごく一般的なもの。面倒臭いだけで何が書いてあるのかは理解出来る。おまけに、あちらこちらには説明用のコメントが、過剰な程に入っている。解読させないようにしているとは考えにくい。
だが、プログラム技術の未熟な者が、たった一人でこれだけのプログラムが組めるとは到底考えられない。
「やはり、このスパゲティコードは意図的なものか……?」
悩んでいる間に学園のコンピューターから解析が終わった旨の通知が来たが、やはりそちらはハズレのようだ。このぐちゃぐちゃのコード、その中にヒントがあるのだろうか。
膨大な行数のコードを、何度も何度も見返しながら凶司は考える。
不要な遠回り。不要な関数。不要なコメント。不要なものが多すぎるコード。
わざと入れられた不要な要素。
「ということは、その不要な要素は……必要な要素……?」
凶司は発想を逆転させる。プログラムには関係無いが、制作者に取っては必要な要素。そこに何か――何か。
「……あっ……!」
凶司は突然気が付いた。
これだけ膨大な行数のコードなのに。
「MRCHAIRMAN」の各文字で始まる行が、十行ちょうどしかないのだ。
しかも、上からMで始まる行、Rで始まる行……という順に並んでいる。
そして、それぞれの行は極端に短い。
「これを、繋げれば……!」
それぞれの行の内容をコピー&ペーストしてつなぎ合わせる。すると――
「たすけて」
短い一言の後、空京内と思われる住所が現れる。
「セラフ、行くぞ!」
凶司はパートナーのセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)を呼びつけ、読み解いた住所へと急いだ。
一番は勿論、チート行為を断罪するため。それから少しだけ、「たすけて」が気になって。
「……技術は、凄いんだけどねぇ……なんていうか、ダメなのよねぇ……」
ここまで凶司の様子を黙って見詰めていたセラフは、はあ、とため息を吐いて首を振った。それから、凶司の背中を追って走り出す。
幸い、示された場所はそう遠くなかった。二人は街中で暴れて居るホログラム達と遭遇すること無く、目的の場所へ到達することができた(もちろん道中では騒ぎ声や爆発の音などは聞こえてきたが、自分には関係の無いことだと判断したらしい)。I
そこにあったのは一見普通の、三階建ての商業ビル。だが、テナントはほとんど入っておらず、かといって募集中の広告も出ていない。街中の景色に紛れてしまえばただの寂れたビルだが、これだけを切り取って詳細に眺めると、どこか怪しい。
「いくぞ」
凶司が先陣を切って突入する。
一階には喫茶店らしき店舗が入っていて、二階には事務所が一つだけ。三階は空っぽ。
とりあえず上から順番に空いている部屋を覗き、それで何も無ければ事務所と店舗を調査することにして、二人は階段を駆け上がっていく。
一階から二階へ、三階へ――と。
三階へ続く階段の踊り場に、人影があった。
思わず二人が足を止めると、人影はハッとした顔でこちらを振り向く。男だ。
「なっ、何の用だ!」
「人を探してる。巫山戯たプログラマーだ。知らないか」
Mr.チェアマンの事で頭がいっぱいの凶司は、いつもの対外的な柔和な姿勢を忘れて、淡々と男に問いかける。
その凶司の言葉に、あからさまに男の顔色が変わった。
「てっ、テメェ、なんでそれを知っている……! クソッ」
男は携帯電話を取り出すと、素早くそれを操作する。
すると、小さな画面が光り輝き――理子型のホログラムが姿を現した。
「な……っ?!」
なんだ、と凶司は今更ながらその姿に驚き、言葉を失う。
「はいはい。行くわよ、コール――ベルネッサ!」
すっかり混乱している凶司を差し置いて、セラフは自らの銃型HCを操作すると引き金を引く。光の帯が地面に突き刺さり、ベルネッサ・ローザフレック(べるねっさ・ろーざふれっく)型のホログラムが姿を現した。
「な――っ! おいっ、セラフ、それっ……!」
「何かしら?」
ずっと手に入れたかったキャラクターを、パートナーがちゃっかり所持していたことに、凶司は驚きと不満と羨望と、色々入り交じった声を上げる。
それにしれっとした顔で答えると、セラフはベルネッサ・ホログラムに指示を出す。
「近づくと不利よ。距離を取って射撃で攻撃!」
ベルネッサ型と理子型では力の差は歴然で、形勢は圧倒的にこちらに有利だ。
「ほら、腰抜かしてないで、あいつとっ捕まえて」
「誰が腰を抜かした、だれがっ」
次々起こった出来事に驚いていたのは事実だが、腰が抜けた訳では無い。凶司は悪態をつきながら、ホログラム同士の戦闘に目を奪われている男に近づく。全くこちらには気を配っていないようだったので、体当たりをかましてみたら男はあっさりと吹き飛んだ。
思った以上にあっけない捕り物に、凶司はむしろ驚いてしまう。
男から携帯を取り上げて電源を切ってしまうと、理子型のホログラムはフッと消えた。
「どうやら、例のプログラマーはこの先みたいだな」
男を縛り上げて、三階へと向かう。
階段を上った先は、短い廊下の左右に四つの扉が並んで居た。警戒しながら一つずつ開けていくと、そのうちの一つの中に――
赤い椅子に縛り付けられた男性の姿があった。
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