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【逢魔ヶ丘】魔鎧探偵の多忙な2日間:1日目

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【逢魔ヶ丘】魔鎧探偵の多忙な2日間:1日目

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第8章 夜を走れば


 白林館の地下室で契約者たちが明日に向けての話し合いをしている頃、キオネはひとり、空京警察に借りた超高速小型飛空艇で、タシガンから空京への帰路を急いでいた。
 皆には、事務所で急用ができたので、一晩でとんぼ返りすると言ってある。





 スカシェンが関わっていると判明した直後、キオネの携帯電話にメールを送ってきたのは――
(……!? 卯雪さん!?)
 あの、弁当屋のアルバイト、綾遠 卯雪(あやとお・うゆき)からだった。以前、仕事がらみで彼女に頼み込んで弁当配送のアルバイトをさせてもらったことがあり、その時にその事務的な事情を盾にして頼み込んで交わした番号、そしてアドレスである。普段、弁当を買いに行ってもいつも長々と彼女と話をしようとするキオネを、卯雪はいつも鬱陶しげに、面倒くさそうにあしらっていたものだが。


『こんな遅い時間に非常識だとは分かっています、御免なさい。
 けれど、頼みたいことがあるのです。
 魔鎧が絡むことだから、他に頼みに行けるところが分からなくて。
 聞いてもらえるなら、返信ください』 


 送られてきたのはメールだったが、キオネはひとり離れて、通話で卯雪に返事をしていた。
 話はどうやら込み入っているようで、しかも卯雪の口ぶりでは、滅多な人には聞かれたくない内容のようだった。いつもの彼女のことを思えば、このような形でキオネを頼ってくるのは、彼女にとっての緊急事態なのだろうと容易に察せられた。
 取り敢えず事務所で話を聞くことにし、卯雪には事務所近くのカフェで待っているよう指示して、こうして飛空艇を走らせているのである。





 暗い、夜のシャンバラ大荒野西部。
 ふと、誰かから聞いた――荒野にあった闇商人のアジトが一夜で何者かに壊滅させられたという――噂話が脳裏を掠めた。

「!!」

 前方にある岩山の上に、人影があった。
 真っ黒い影で、それが誰なのか、風体は分からない。だが、大きな剣を構えているのが見えた。
 緊張が走ったのは、一瞬のこと。
 その刀の形と、近付いて詳しく見えてきた輪郭とでそれが誰なのかを察したキオネは、飛空艇を止め、降りた。




「夜の荒野とは、また飛空艇のドライブには格好のシチュエーションね」

 キオネが近付いてもまだ大剣を油断なく構えたまま、人影――魔鎧・刀姫カーリアが、冷えた声を突きつけた。
「相変わらず物騒な……」
 キオネの顔つきは心なしか、いつもとは違う。呑気そうな、さえない表情を崩さないまま、しかし常にはない固いものを秘めたその顔には、思わぬ冴えた精悍さが垣間見える。
「けど、前より少し小さくなったんじゃない? その刃。
 呪いって、結晶にすると消耗するものなのかな」
 カーリアの、生真面目な狩人のような表情は変わらない。

「まさか……カーリア」
「何?」
「最近、荒野の闇商人のアジトを一人でぶっ叩いたりした?」
「――はっ? 闇商人? あたしが何のためにそんなことやるのよ?」
「……デスヨネー……(出来ないとは言わないんだ)」


「明日、スカシェンが例の館に行くのよね」
「……多分ね。君はどうする気なんだ?」
「奴の動向とか、コクビャクの狙いがどうとか、正直あたしにはど―でもいい話なんだけど。
 でも、それがはっきりしないと、どうやらあたしの知りたいものも見つけられそうにない。
 厄介よね。ゴールの山頂は見えてるのに延々遠回りさせられる、山ん中の道歩いてるような気分よ」
 カーリアは小さく笑い……それから、強い眼差しでキオネを見据えた。

「コクビャクは『エズネル』を必死で探している。
 その理由は、あたしには分からない。
 あたしに分かるのはただ、あの子の居場所をあんたが知らないはずがないってこと。
 そして今現在あの子があんたと一緒にいないなら――代わりにヒエロといる確率が高いってこと」





「単刀直入に訊く――エズネルはどこにいるの?」







「いないよ。彼女はもう、どこにもいない」




 キオネの言葉を聞いて、カーリアはふうっと息を吐き、華奢な腕に不似合いな大剣をすうっと下ろした。
「あんたねぇ」
 呆れきったような声だった。
「……そんなのがコクビャクに通用すると思ってるの?」



「あっちには、スカシェンが与してるのよ。
 高名な職人の工房で学んだもの、とやらがあるのかないのかは知んないけど、あいつがヒエロの工房にいたことがあるのは事実。
 それも、『炎華氷玲』が仕上がる時期の前後にね。
 あたしが何言いたいか分かってるわよね?」




「そのスカシェンを擁して、コクビャク側に事情が分かってないはずがない。
 守護天使エズネルがもうこの世には存在しないって事実くらい、とっくにばれてるはず。

 ――それでも、あいつらは『エズネル』を求めてる。意味分かる?」






「奴らが求めているのは肩書や属性なんか関係ない、あの子自身。
 それが守護天使エズネルだろうが、魔鎧ペコラ・ネーラだろうが、呼び名なんてどっちでもいい、ってことよ」



      ≪2日目に続く≫

担当マスターより

▼担当マスター

YAM

▼マスターコメント

参加してくださいました皆様、お疲れ様でした。
後半がやや駆け足な展開になってしまった気がしますが、申し訳ないです。
これまでのコクビャク絡みの事件で出た情報を収束させつつある……つもりなのですが、気が付くと何気にまた別の情報が出てきてしまっているこのシリーズ。かなり参加者様の頭を混乱させてしまっているのでは……。重ね重ね申し訳ないです。マスターページなどでまとめを出しますので、そちらも確認していただけるとありがたいです。
1日目の主な結果は、次の通りです。

*白林館制圧は成功。コクビャク側スタッフは全員拘束され、地下室にまとめて監禁。
 また、この件がコクビャク本部に報告された様子はない。

*参加者は、メレインデとクローリナ以外、この会の真相に気付いてはいない(契約者の参加者はこの限りではない)。
 翌日の教室は問題なく開催されるとこの時点ではまだ思っている。

*翌日の教室の講師は魔鎧職人スカシェン・キーディソンであると判明。

*明日、『船』で魂と「灰」なるものが届けられる、と、本部より連絡があったことが明らかに。

今回はまだ事件の途中なので、称号は(いつもほぼ活動記録的なものになるので)、特に内容上つけておきたいごく一部の方のみとさせていただきました。ご了承ください。
それでは、2日目にまたお会いできれば幸いです。ありがとうございました。