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一寸先は死亡フラグ

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一寸先は死亡フラグ

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DIE7章 A.大参事だ

――少し前に話は遡る。

 ホテルのとある広間。普段なら何かしらの催しに使われるであろう広いスペースだが、今日は何もないのか寂しくがらんとしている。
 その場所に、奴らはいた。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)……ではなく白衣の怪盗、『怪盗ハデス』!」
 白衣を翻し、ハデスがいつもとは違う口上を述べると部下のノーマルやらエリートに加え、ポムクルタイプまで一体何処まで増えるんやと言いたくなる【戦闘員】達が喝采する。
「今回はこのホテルにあるといわれる宝石、『人魚の涙』を頂く! 警備を固めているだろうが、この怪盗には無駄な事よ! 探偵には挑戦状を送ったであろうな!?」
 ハデスに言われた【戦闘員】達が、一瞬「え?」という反応をしたが、すぐに「あ、ああうんうん!」と首を縦に振る。これきっと送ってないパターンのやつや。けどハデスは満足げに頷く。
「くくく、準備は万端と言うわけだな!」
 万端というわけではない。
「ならばこれから行動を開始する! 行くぞ!」
「やめてください兄さん!」
 白衣を翻したハデスに高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が叫ぶ。
「私の……私の病気の治療費の為に犯罪に手を染めるだなんて止めてください!」
 一瞬足を止めるハデスであったが、ちらりと咲耶を見ると直ぐに「行くぞ」と【戦闘員】に告げる。
「兄さん行かないで! 兄さん! 兄さぁぁぁん!」

「……何やってんだ?」

 その様子を見ていた斎賀 昌毅(さいが・まさき)が思わず声をかけると「ぬぉぉぅ!?」「ひゃあ!?」とハデスと咲耶が悲鳴を上げた。

――ハデスは今回、咲耶や【戦闘員】達を連れ社員旅行に来ていた。悪の組織なのに社員旅行があったりと福利厚生が充実いるらしい。
 だが今回の事件に巻き込まれ、解決どころか次々と被害者が増えていっているという情報が入るだけ。
 そこでハデスは考えた。
「これは典型的な被害者的巻き込まれ方……そう! 被害者としての死亡フラグが立つのは、通りすがりで事件に巻き込まれるからだ! それを回避するためには、レギュラーポジションになればよい! 助手? 確かにこの天才的頭脳を使えば容易いことだが、悪の組織としてはライバルポジションに着くべきよ! では探偵のライバルと言えば何か……そう、怪盗だ!」
 こうして、ハデスは怪盗となるべく行動を開始したのであった。

「と、いうわけで俺は今は天才科学者ではなく白衣の怪盗であるのだ!」
 説明を終え、ドヤ顔で声高に叫ぶハデスに「あ、ああ……」と昌毅が何とも言えない表情になる。
「私は怪盗よりも知り合いの発明家ポジションの方が合っていると思ったんですけどね」
 咲耶が小さく溜息を吐く。
「何を言う! 怪盗の方が格好いいではないか!」
 ハデスがポーズを決めて叫ぶ。だが待ってほしい、発明家ポジションでも黒幕という裏の顔gいやなんでもない。
「というわけで、私も『病弱な妹』というポジションでお手伝いを。兄さんだけだと単なる雑魚キャラ扱いでフラグ回収しかねませんし」
 咲耶が仕方ない、というような表情を浮かべる。
「……ところで、こんな所で何をなさっていたのですか?」
「はっ!? まさか……この怪盗ハデスを捕まえに来たのか!?」
「ないない。単純に迷い込んだだけだ。まぁ俺も巻き込まれたわけなんだがな」

――昌毅はこのホテルの近くでイコプラ大会がある、という話を聞き出場の為にカスケードと阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)を連れて宿泊していた。
 だが事件に巻き込まれ、事情を聞いた昌毅は「こりゃ典型的な死亡フラグだ」と、大人しくやり過ごそうと考えていた。
 しかしカスケードは外へ雪かきに逝き、那由他はというと、
「にししし、犯人がわかってしまったのだよ。しかし那由他は別に犯人を明かす事など望んでいないのだよ……積む物を積んでくれたら黙っていてやってもいいのだよ」
と何やら犯人を強請ることを目論んでいるようであった。だがこれも典型的なフラグである。昌毅が止めようとしたが、
「伊達に那由他も契約者をやっていないのだよ。準備は万端なのだよ!」
と部屋を改造し、迎撃用装備を備え付けてしまったのだ。

「……結果、犯人どころか俺まで入れなくなっちまってな、宿の中を探検がてら安全な場所探してたら見つけちまったってわけだ」
 そう言う昌毅に、咲耶が「あなたも大変なんですね……」と同情する様に言う。
「フハハハ! ならば手伝うがいい! 丁度今『人魚の涙』を盗みに行くところだったのだ!」
 ハデスが高らかに笑うが、そもそも『人魚の涙』なんてこのホテルには無い。
「そんな明らかに死亡が目に見えているようなことやらんわ! 俺はこのまま生き残るんだ! イコプラ大会出るまで死ねるかよ!」
 昌毅は首を横に振って拒否する。おいしっかりフラグ建てんな。
「フハハハ! 死にたくないのであれば尚更我らの手伝いをした方がいいではないか! さっきも言ったろう? レギュラーポジションになれば死ぬことはない――」
 そこでハデスの言葉が途切れた。何処かで発生した爆風が、彼らを襲ったのである。
 探偵のライバルになれば死を免れるかも。確かにそうかもしれない。
 だが今回はあくまでハデス達は探偵たちにとってのモブキャラなのは避けようがない事実。何をしたところでライバルキャラにはなれないのである。そもそも死ににくいだけで殺す時はさくっと殺すのがあの探偵たちである。
 その事に気付かぬまま、吹き飛ばされたハデス達は瓦礫の中で意識を失うのであった。

     * * *

――同時刻。
「ふっふっふ……後は犯人さんが賢い選択をするのを待つだけなのだよ」
 那由他は部屋でほくそ笑んでいた。
 犯人が分かった、という那由他は犯人に「黙って欲しけりゃわかるな? 言わせんな恥ずかしい」という所謂強請りを行っていたのだ。ちなみに犯人(と那由他が考えている人物)に直接告げたのではなく、ホテルのわかりやすい所にビラを置いたのである。しかも複数。
 そんな事をしたら普通に考えて襲撃されるだろうが、その辺りも那由他は考えていた。
「襲撃にも備えて準備は万端なのだよ。那由他も伊達に契約者はやっていないのだよ!」
 部屋に迎撃用の装備を備えていたのだ。罠やら何やら、至る所に設置されてある。その結果昌毅まで入れなくなってしまったのだが。
「来るなら来いなのだよ……っと、ちょっと念の為確認するのだよ」
 そう言うと那由他は設置した物を調べ始める。
「……おや? こんな物あったっけ?」
 調べる内に、見覚えのない物がちらほらと見つかった。勿論設置したのは那由他なのだが、至る所に色々置いたので本人も把握しきれていないらしい。
「うーむ、何だか怪しいのだよ。ちょっと調べて……」

「あーけーてー」

 何処に何を設置したのかを調べなおそうとした時、外から声が聞こえた。
「ぬ、こんな時間に誰か来たのだよ?」
 那由他が眉を顰める。誰かが訪ねてくるには遅い時間だ。
 声は女性のもの。昌毅やカスケードではない。
 普通に考えれば怪しい。出ない、という選択肢を選ぶはずだが、
「はいはーい、誰なのだよー?」
那由他は普通ではなかった。

       *  

「あーけーてー」
 扉をノックして天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)が呼びかける。すると扉の奥から何やら動く気配がする。
 結奈が待っていると、やがてガチャリと音を立てて扉が開いた。
「おお、遅かったのう」
 現れたのは、パンドラ・コリンズ(ぱんどら・こりんず)である。
「随分と遠くまでジュースを買いに行ったようじゃのう? それとも迷ったのかの?」
 結奈が手に持ったジュースを見て、パンドラはからかう様に言う。
「違うよー……ぱーちゃん聞いてよ」
 少し疲れたような表情で結奈が言う。

 結奈とパンドラは、他の者と同様に旅行に来ていた。事件の事も知ってはいたが、自分達には関係ないとのんびりと過ごしていたのであった。
 温泉にも入り(幸いにも、露天風呂の面々には会わなかったようである)部屋でのんびりとしていたのだが何か飲みたくなった、と結奈がジュースを買いに外に出たのである。
 だがその帰り道、事件を調査している面々に矢鱈と出会ってしまった。色々と何か知っていないか、と質問されたが「私達は関係ないし、知らないよ」と何度も答える羽目になったのだ。

「ふむ、まぁここで話す事もあるまいて。中に入るがいい」
「それもそうか」と結奈はパンドラに招かれるように部屋に入ろうとする。
 すると、隣からガチャリと扉が開く音がする。中から何処かで見た様な事があるような気がする者が顔を覗かせ、キョロキョロと辺りを見回すが、結奈を見ると何やら納得したように数度頷き引っ込んだ。
「どうしたんだろう?」
「ん、どうした?」
 結奈は首を傾げたが、まあいいかと中に入る。

       *  

「誰なのだよ……む?」
 那由他が扉を開けると、そこには誰もいなかった。
「誰もいないのだよ……イタズラとは悪趣味なのだよ……お?」
 辺りを見渡すと、隣の部屋の前で少女――結奈とパンドラが話している姿が見えた。
「なーんだ、お隣さんだったのだよ」
 隣の部屋の声を自分のと勘違いしたと気づいた那由他は、納得したように頷くと部屋に戻る。
「那由他もうっかりしていたのだよ。さーて、部屋の装備を調べる作業に戻るのだよ――」
 扉を閉めた瞬間だった。

――ピピッ、という電子音が鳴ったのである。

 那由他が振り返ると、扉の横に何やら巨大な塊があった。何かは見た目では解らないが、設置してあるパネルにデジタル表示でカウントが刻まれている。
「ん? なんなのだよ、これは?」
 覚えのない物に首を傾げる那由他。だがその間もカウントは進み、やがてゼロになる。
 ピー、という伸びる様な電子音が鳴る。

――そして、塊は大爆発を起こした。

       *  

「さて、大変な事とは一体なんじゃ?」
 パンドラがからかうように言う。
「そうそう、聞いてよ。あのさ――」
 結奈が口を開こうとした――瞬間、轟音と共に爆風に2人が飲み込まれた。
 そして次の瞬間、残ったのは瓦礫と、埋もれる結奈とパンドラである。

――那由他の部屋に置かれた黒い塊は、那由他自身が設置した強力な爆弾であった。ちゃんとした手順を済ませないと爆発するという仕様にしていたのだが、その手順どころか爆弾の存在すら忘れていた那由他は見事爆発させてしまったのである。
 巨大な爆風は那由他の部屋だけでなくホテルの大部分を飲み込み、大きな穴を開け瓦礫に変えてしまっていた。
 残ったのは瓦礫と化した多くのホテルの部屋と、埋もれた被害者達である。
 大半は爆発の衝撃でそのまま埋もれていたが、辛うじて意識があった者達も自分達が爆発に巻き込まれた、なんて事実を理解できないまま意識を手放したのであった。