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リアクション
さて、所変わって竜斗とフィリス。とあるフロアの一室に2人は居た。
最初に状況を説明すると、2人とも何事も無いわけが無かった。
「俺には大事な仲間が……大事な人がいるんだ! 絶対に死ぬわけにはいかないッ!」
「僕の夢……ルヴィちゃんと小さいお店を開く為にも、捕まってよ犯人さん!」
竜斗とフィリスは戦っていた。調査のはずが何故かバトルとか一体何を言っているのかと思うが、これが現実である。
「小さいお店ですか。いいですねぇ、わたくしも無事に帰ったらお店を開きたいものです」
軽口を叩きながら避けるのはアルベール・ハールマン(あるべーる・はーるまん)。竜斗とフィリスはアルベールを捕らえようと手を伸ばしているが、掴めそうで掴めない。
「せぇやぁッ!」
アルベールに刃を向けるのは2人だけではない。リル・ベリヴァル・アルゴ(りる・べりう゛ぁるあるご)もいる。
「パパの仇はあたしがとるんだ! 邪魔をするなぁッ!」
だがリルはアルベールだけではなく、竜斗達にも刃を向ける。
「やれやれ……ぬ?」
一瞬気がそれ、溜息を吐いたアルベールの頬を何かが触り、素早く身を離す。
アルベールに触れたのは九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)であった。
「汗をかいているな……」
触れた指を眺め、徐に舐めると九条はやたらと濃い絵柄の表情になる。
「……なんでこんな状況になっているんだ」
部屋の隅、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が物陰に身を潜めていた。
「全くであります! こちらの計画が水の泡でありますよ! どうしてくれるでありますか!」
その隣でプンスカと怒りを露わにするのは葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)。更にその隣では「まったくだ! 謝罪と賠償を要求するぞ!」とイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が憤慨する様子を見せていた。
「何言ってるのよ! こんな超面白い展開になったじゃない! もう予想外過ぎるわよ! リルちゃん! アイツが犯人なんだからやっちゃいなさーい!」
物陰から身を僅かに乗りだしシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が「こいつぁ面白くなってきた」という顔を全く隠そうともせずリルを煽っていた。
――何やら入り混じったこの状況。何故こんな事になったか、少し時間は遡る。
「もう嫌だ! こんな殺人鬼が居る様な恐ろしい場所に居られるか! 我は帰る! 帰るぞ!」
事件を知ったイングラハムは、真っ先に逃げ出そうとしていたのである。
「待つでありますタコ! 以前それで鍋にされたのを忘れたでありますか!?」
そんなイングラハムを止めたのは吹雪である。フラグを建てたばかりに鍋にされた過去を思い出し、イングラハムは身を震わせる。ちなみに吹雪はその時その鍋を食おうとしていた。
だが躊躇う仕草を見せる物の、やはり恐怖心が勝るようである。そんなイングラハムに吹雪は笑みを浮かべる。
「逆に考えるであります……ピンチはチャンス、というでありますよ?」
「……どういうことだ?」
「実は自分、犯人を見たでありますよ」
「……詳しく聞こうではないか」
イングラハムも笑みを浮かべるのであった。
それは偶然だった。事件の話を聞く前、ホテル内を歩いていた吹雪は怪しい者を見かけたのであった。
何となく気になり、その後を尾行するとある一室に入った。
その部屋の扉をそっと開け、覗くとその者は何か――血の付いた肉の様な物をばら撒いていたのであった。
そしてその者――アルベールが振り返る姿を吹雪は目にしたのだった。
「相手の素性は解ってるであります。自分はこの目でしっかりと見たでありますよ」
「見たというが、一体どうするのだ?」
すると吹雪は口元を歪め、邪悪な笑みを作る。
「強請るでありますよ」
その一言に、イングラハムも邪悪な笑みを浮かべる。
「既に奴を空き部屋に呼び出しているであります……というわけで行くでありますよ!」
そして吹雪とイングラハムは部屋を飛び出し、呼び出した部屋に向かう。その途中にアルベールを見かけるのであった。
強請るとなると、その光景を誰かに見られるのは拙い、と吹雪とイングラハムは尾行したのだが、ここで予想外の事が起きる。
「……ちょっと待て」
呼び出した部屋に入ろうとするアルベールに、甚五郎が声をかけたのだ。
「わたくしに何か用でも?」
アルベールの言葉に甚五郎は頷くと、少し間を置いて口を開いた。
「わしは見たんじゃ……おぬしが肉塊の様な物をばら撒いている姿を」
アルベールが何かをしている所を見ていたのは、吹雪だけではなかった。
甚五郎は今回旅行客としてホテルに泊まっていた。事件の事は知らず、温泉やら卓球やらを楽しんでいたのだが、やはりアルベールの姿を見かけたのだという。
何やら怪しげな袋を持っていたので、どうしたのかと後を追ったのだが、そこで見かけたのはやはり肉塊らしきものをばら撒くアルベールの姿。
その後事件を知った甚五郎だったが、アルベールを探していたのである。
「――自首、してくれ。今ならまだ間に合う」
だが吹雪と違った点は、強請り目的ではなく自首の勧めであった。
((はぁぁぁぁぁ!?))
甚五郎の台詞に最も驚いたのは吹雪とイングラハムだろう。
(何をしているのだ!? 奴も見ていたというのは!?)
(知らないでありますよ!? あの時自分以外誰もいなかったであります!)
物陰で口論を繰り広げる吹雪とイングラハム。
「……なるほど、呼び出したのはあなただったのですか」
アルベールが納得したように頷くが、今度は甚五郎が首を傾げた。
「呼び出した? わしは知らんが……ああ、今ここで話す事もあるまい。わしで良ければ話を聞こうか。おぬしも事情があったのかもしれぬ……この部屋に入ろう」
そう言って甚五郎が扉のノブを掴み、回して開ける。
「人殺し!」
「おわっ!?」
開かれた瞬間、九条がスキーストックを突き刺す様にして飛び出してきたのである。間一髪で甚五郎は避けた。
「い、一体何をするんだおぬしは!?」
「人の部屋に勝手に入ってくるのが悪い!」
ストックを構える様にして威嚇する九条。
(……あの部屋、空き部屋ではないのか?)
(いや、空き部屋のはずでありますが……)
物陰で首を傾げる吹雪。実際のところ、この部屋は空き部屋なのである。
では何故九条が居るのかと言うと、色々な事情があったのだ。
九条は事件を知り最初は推理を行っていた。だが、
犯人はみき●と→どうやって部屋に入った→窓から入った→どうやって?→スノボとかでなんやかんや→なんやかんやってなんだよ→なんやかんやはなんやかんやです→そもそもみ●もとなんていねぇ→言葉のあやだよ言わせんな恥ずかしい
といった思考を重ねている内に出た結論は『犯人は解らない』であった。犯人が解らない以上『誰かと一緒になんていられるか! 部屋にこもっているぜ!』と判断した九条は護身用にスキーストックを持っていたのである。
そして自分の部屋に入ってくる者は犯人、として入ってきた甚五郎にストックを突きつけたのであった。
長くなったが、何故空き部屋のはずの部屋に九条が居たのかと言うと、帰る途中部屋を間違えただけなのだ。
「成程、つまりはお前達が犯人だった言うわけか!」
「何故そうなるのかわからん!」
「如何にも、わたくしでありますが」
「認めるのか!?」
平然と言い放つアルベールに甚五郎が驚きの表情を向ける。直後、
「パパの仇ぃッ!」
今度はリルがアルベールに襲い掛かったのである。
「おっと」
アルベールが身を躱すが、リルは尚も向かってくる。
「突然何をするんですか?」
「うるさい! パパを殺ったな!?」
「わたくしが?」
「しらばっくれるな!」
リルが吼えた。
――リルも今回、このホテルにはシオンと月詠 司(つくよみ・つかさ)と一緒に旅行客として訪れていた。シオンが宿泊チケットを当てたのである。
だが到着して間もなく、事件の事を知らされる。それでも自分達には関係のない事、と振る舞っていたのだが、そうとも言えない事態に陥ってしまう。
僅かな時間、リルとシオンは部屋を離れていた。そして戻ってきた時、司が倒れていたのであった。
ショックで動揺するリルを、シオンは「ツカサの分まで頑張って生きるのよ、間違っても犯人を見つけて復讐しようなんて考えちゃダメよ」と宥める。だがリルは犯人を捜す事を決意。
シオンの協力と言う名の煽りを受け、聞き込み調査などからアルベールが浮かんできたのである。
そして、仇を取るべく殴りこんできたのだ。
リルが睨み付けるが、アルベールは顎に手を当て考える仕草を見せる。
「ふぅむ、やった覚えはないのですが……まぁ恐らくわたくしが犯人なのでしょう」
その態度にリルが飛び掛かるが、直線的な動きにさっと避けられてしまう。
「リルちゃーん! しっかりなさい! ツカサのトウトイギセイを無駄にしないのよー!」
その後ろから、シオンが煽る。その顔は完全に楽しんでいる表情である。
――ちなみにシオンが尊い犠牲、と発言したが、司が倒れていたのはシオンの荷物に足を引っ掛けスっ転び、打ち所が悪かった為である。何処をどう転んだのか、酷い有様であったが一番酷いのは台詞すら無く死んでいったことだろうか。
そんな混戦状態の中、更に情報を集めた竜斗とフィリスが捕らえるべく混ざり、「このビッグウエーブに乗り遅れるな!」と吹雪たちも乱入したはいいが巻き込まれそうになり慌てて甚五郎と非難したのであった。
(……ふむ、随分とおかしなことになりましたね)
標的とされた犯人、アルベールが攻撃を避けながら思う。
アルベールは自分を犯人と名乗ったが、勿論そんな事は無い。この混戦状態を引き起こした元凶、という点では合っているが、殺人事件は全く関係ない。
そもそも、アルベールも皆同様、手に入れたチケットで神崎 荒神(かんざき・こうじん)、神崎 綾(かんざき・あや)と共にホテルへ訪れたのである。そして殺人が起きた事を聞かされたのだ。
最初は関係ない、と思っていたが殺人とは無関係と思われた契約者達の中でも犠牲者が現れ出すと、荒神の中にある考えが浮かんだ。
「……これ、死亡フラグ建てると契約者だろうがなんだろうが死ぬってことじゃないか?」
そうと決まれば取るべき行動はただ一つ。フラグを建てない事である。
事件は放っておいても誰かが解決してくれるだろう。ならば自分達は生き残る事に全力を注ぐべき。そう荒神は考えたのであった。
しかし、綾は不満だった。
「なんであたしが近づくと離れるのよ!? あたしといちゃつくのが不満かー!?」
折角の旅行。夫婦としていちゃつきたい、そしてあわよくば家族を増やそうと狙っていた綾であったが、荒神は何故か避けるのだ。
「そう言われても仕方ないだろ!? 考えてみろ! こういう状況でいちゃついたら完全に死亡フラグじゃねーか!」
そう言われると綾も「ぐぬぬ」と言葉を詰まらせる。どちらかというとホラーのフラグな気がするが、フラグには違いない。
荒神自身もいちゃつくのは問題ない。むしろウェルカムである。だがこの状況、フラグを建てるとどうなるかわかったものじゃない
そんな時に荒神と綾の目についたのが、
「ああ、わたくしの事はお気になさらずに。空気と思って頂いて存分に繁殖行動を御取りなさってください」
なんてほざくアルベールであった。
少し発言にイラッとしつつも、荒神と綾の頭にある考えが浮かぶ。
――コイツにフラグ建てさせれば避雷針になるんじゃないか、と。
そうと決まれば実行あるのみ。荒神はアルベールにフラグを建て避雷針になる事を任せたのであった。翌日「昨夜はおたのしみでしたね」と言われる為に。
「畏まりました。それでは存分におたのしみください」と任されたアルベールは行動を起こす。
それはアルベールが犯人と思われるような行動を取る事であった。犯人と間違われる、『自分が犯人だ』と冗談で発言してしまう、といった事はフラグになりやすい。被害者の関係者に殺害される、という展開もあり得る。
アルベールは様々な場所で自身の御手製のよくできた肉の様な物をばら撒いてきた。バラバラ殺人が実際起きた事件なので、それを真似た演出である。
それを甚五郎や吹雪、そして他の人物から目撃され、結果的に『アイツは怪しい。いや普段から怪しいけど』という情報が流れるようになったのである。
(まあ目的は果たしましたし、そろそろ一度殺られておきますか)
そんな事をぼんやりと考えていたアルベールは気づかなかった。
「……この汗の味、嘘を吐いている味だ……ッ! 貴様、嘘を吐いているな!?」
指に着いたアルベールの汗を舐め、濃い絵柄の表情の九条が、背後に立っていた事を。
「嘘を吐いているって事は、てめーが犯人だな!?」
そう言って九条がアルベールを掴む。普通に考えると「自分が犯人だ」と言っているのが嘘だというなら犯人じゃないのだが、九条はそんな事はどうでもいいのだ。適当な事を言っているだけなのだから。大体汗の味で嘘が解るということからして適当なのだから。
「……ぐッ!?」
九条の掌底がアルベールの顔面を捕らえた。
だがその手はそこで止まらない。
「貴様は……私が裁くッ!」
もう一方の手でも掌底を叩きこむ。そしてもう一方で再度、と交互に連続で掌底ラッシュを放つ。
※注意:この後7p半程に渡り九条の掌底を叩きこむ様子が流れます。全て同じ描写なので面倒な方は7p先を御読みください。
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