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流せ! そうめんとか!

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流せ! そうめんとか!

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4.溺れる!

「それでは……行くであります!」
「い……行くわよ!」
 大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)は、それぞれ緊張した面持ちで滝に臨んでいた。
(このまま……このまま、隠して生きるのは辛すぎる! 自分は、告白して罪を流さなければならないのであります!)
(ううう……どうしても、謝らなきゃ!)
 二人は、それぞれの相手に、秘めた罪悪感を胸に抱えていた。
 罪流し懺悔は、その暴露のための丁度いい機会。
 互いに告白してスッキリしようと、この地にやって来たのだった。
「はあっ!」
「えいっ!」
 滝に飛び込み、流される二人。
 じゃばばばば……ざっぱーん!
「ごぼ……の、望美が大事にしていた某ロボットアニメのDVD……げんていプレミアムボックス……?を、不注意から踏んで壊してしまったであります!」
 剛太郎は水を飲みながらも、大声で罪を告白する。
「しかも……しかも、自分は望美の部屋が汚い事をいい事に、壊したDVDをこっそりゴミの中に秘匿し、あわよくば望美が自分で壊した様にさせようとしたのであります!」
(ああ、なんという……なんという、罪深い事を!)
 水と共に、罪悪感が口の中に流れ込む。
 方や望美の方も、滝に揉まれながら告白していた。
「うぅ……お、お兄ちゃんが大事にとっておいてたまにしか飲まないお酒……芋焼酎だっけ……を、こっそり飲んでしまってごめんなさい!」
 望美も必死で罪を告白する。
「その上、飲んでしまったお酒の一升瓶に市販の安いお酒を補充して隠蔽しようとしたの……ごめんなさいっ!」
(ごめんなさい……いくら言っても、足りないわ!)
 口から出るのは泡と、後悔。
 そんな彼らの口に、するりと滑り込んだものがあった。
(もが?)
(ふぐぅ?)
 口内に入り込んだそれは、怪しげに動き出す。
(もがががが……っ?)
(ぅむむむむぅ……っ?)
 二人は揃って、ヘビに絡み取られていった。
 ちなみに告白は、それぞれ自分の告白に夢中で聞き取れなかった、らしい。

   ◇◇◇

「聞いて――アディ!」
 流しそうめんを楽しんでいたアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は、パートナーである綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)の姿が見えない事に気付いた。
 彼女を探していたアデリーヌは、頭上から聞こえる声に目を上げ、そして目を見開いた。
「私、アディに隠してたことがあるの……っ!」
 それだけ言うと、滝から飛び降りるさゆみ。
「あらあら……」
 アデリーヌの驚きを余所に、さゆみは流されながら告白していく。
「アディが楽しみに取っておいたショートケーキを、こっそり食べてしまったのは私! あの時はイチゴが腐ってたから捨てたって言ってたけど……ごめんね!(ざざざざざ)」
(そうでしたの……仕方ないですねえ)
 アデリーヌが苦笑していると、告白はまだまだ続く。
「それと、アディのスマホをうっかり落として壊してしまったのも私! あの時は近所の猫さんのせいに……(ざざざざざ)」
(ま……まあ、しょうがないですねえ)
 更に告白は続く。
「えーとそれから……そうそう、アディが大切にしていた薔薇のコサージュ、頭につけて外出したら何かにひっかけてバラバラになったの……これもごめんなさいっ!(ざざざざざ)」
(そ、それは……)
 ぶちっ。
 だっばーん!
 アデリーヌから何か変な音がしたのと、さゆみが滝に落ちたのとが同時だった。
「はあ、こ、これで全部告白……え、ちょっと何これ、いやぁあああああ!」
 さゆみの体に、パラミタソーメンコウソクヘビが絡みつく!
「あ、やだ、そんなとこはいっちゃ……っ」
 水中で悶えるさゆみの目に、自分に向かって近づいてくるアデリーヌの姿が映った。
「あ、アディ……たすけて……」
「……覚悟なさい」
「え?」
 アデリーヌは、何する事もなくただ拘束されているさゆみの前に立つ。
「えええと、もしかして、アディ、怒って……」
「いえいえいえとんでもない。怒ってなんかいませんわよ? ただ……」
「でも、目が、笑ってない……きゃっ!」
 ヘビがさゆみの両腕を拘束したのと、アディが一歩前に踏み出したのとは同時だった。
「おしおきが、必要だと思ったんですのよ!」
「あっ、ちょっと、いやぁ……っ」
 いつもとは、立場逆転!
 アデリーヌによるさゆみのおしおきの時間が始まった。

   ◇◇◇

 次に滝に立った遠野 歌菜(とおの・かな)は、大きなタオルで全身を隠していた。
(歌菜の奴、一体何を懺悔するっていうんだ?)
 訝しげに見ている月崎 羽純(つきざき・はすみ)の前で、歌菜はばっ! と巻きついたタオルを脱ぎ捨てる。
「お」
 そこには、一糸纏わぬ……ではなく、新しい水着を着た歌菜がいた。
「羽純くん、ごめんなさい!」
 歌菜は、飛び降りる。
「羽純くんに内緒で、新しい水着を買っちゃいました!」
 ざざざざざ……流されながら、歌菜は告白する。
「だって、夏の終わりのセールで安かったから……!」
 ざざざざざ……言い訳するように、続ける。
「お値段の事は聞かないでっ!!」
 ざっぷーん!
(あー)
 滝を流れていく歌菜を、羽純は微笑ましい気持ちで眺めていた。
(別に、水着くらい好きに買えばいいのに……すごく似合ってるしな)
 多岐に近づき、落ちた歌菜を迎え入れようとした、その時だった。
(あれは……何だ?)
 羽純の目に、白い物が映った。
 それは、にょろりと蠢くと……歌菜の肢体に襲い掛かった!
「か……歌菜っ!」
「あ……いやぁああっ!」
 白い物……パラミタソーメンコウソクヘビは、歌菜の体を這い、蠢き、そして拘束してゆく。
「え、ちょっと、や、こんな恰好……」
 ヘビは歌菜の体の自由を奪っていく。
 腕は後ろに回され、足は強引に開かされ、常日頃の彼女ならば絶対にありえないポーズをとらされていく。
「あ、た、すけて……羽純くん!」
「……」
 そんな歌菜をしばらく眺めていた羽純は、やがてひょいとその体を抱える。
 そして、歩き出す。
「は、羽純くん……? 早く、このヘビを取って……」
「駄目だ」
「え?」
「……罪を犯せば、当然、お仕置きが必要だろ?」
「え、ああ……っ!」
 そのまま二人は、近くの茂みへと消えて行った。