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忘れたき黒歴史の流出危機

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忘れたき黒歴史の流出危機

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 とある放送局にやってきた雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)高円寺 海(こうえんじ・かい)、そして契約者たち。
 ここに引篭もるは「蒙 武李」。名前からして敗北臭がぷんぷんする。しかし、彼の快進撃はここから始まるのだ――――。

「な、なんて、ぐへへへ……」
「おい見ろよ。あの武李様の表情」
「ああ、きっとすばらしい作戦を考え付き、我等に道を示してくれるのであろう」
 だらしのない顔で笑う武李を見たその部下たちはありもしない幻想を抱いていた。その夢ももうすぐ打ち破れるかもしれないと言うのに、暢気なものである。
「さささて、そろそろ要求を呑むか呑むまいか、決断の時だ、ろうう! め、メイドさん……ふひひっ!」
「って、そんなわけないでしょ! メイドではなく、冥途を見せてあげるわ!」
「と言うことだ。大人しくしろ」
「え、ええ? ……ええええええ!?」
 武李が驚くのも無理はない。いくら部下たちがさほど強くないからと言って、ここまで早く敵と対面することになるとは思っていなかったのだろう。
「ドドド、どうやってこんなにはやぐっ!?」
 焦りすぎて舌を噛む武李を心配そうに見つめながら、その問いに杜守 柚(ともり・ゆず)が答えた。
「放送局の中にいた方に武李さんの居場所を聞いたら、ここにいると教えてくれて……道案内までして頂きました」
「こっちが拍子抜けしちゃったくらいだよ」
 協力的な態度に杜守 三月(ともり・みつき)も驚きの感想を漏らす。かくして契約者たちは今回の原因である武李を追い詰めたのだ!
「はやくないですかちょっと!? ととというか、だれが裏切りっ」
「……道案内してくれた人は『天使のような方だ……』と言ってましたが」
「あ、それあれです。物腰柔らかで、優しくて、物怖じしないちょっとドジで、笑顔が可愛い人が大好きな奴だ」
 武李の発言に柚が照れる素振りを見せるものの、すぐさま目的を思い出し武李にこんなことはやめるように取り次ぐ。
「武李さん……少々手荒ですけど、悪いことをしたら自分に返ってくるということ、少しだけ身を持って味わってください」
「え……!? っておわ! か、母さんっ!?」
『たかしはいい子だからね。いつかは立派な人になって、社会にでるんだろうねぇ……』
「やめてプレッシャーかけないで! というかたかしじゃないよ武李だよ!」
 自分の可能性を信じて止まない母さんがいつまでも自分を信じ続ける、という恐ろしい幻覚に捕らわれる武李。その身を、妄執が蝕んでいく。
 それと同時に柚が氷の嵐を呼び出す。室内に氷の嵐が荒れ狂い、室温を一気に下げていく。すると武李の指はだんだんと悴み、うまく動かなくなっていく。
「母さん……母さん……!」
 だが、当の本人は未だ幻覚に捕らわれているようでそれどころではない。代わりに部下たちが武李を守ろうと奮起する。
「まったく、君たちにも返ってくるよ? 因果応報ってね。……でも黒歴史をどうやって集めたのか、教えて欲しいな〜?」
 三月の浮かべた黒い笑顔に寒気を覚えながらも、必死に防御の態勢を整えている。そんなにメイドが欲しいのだろうか……。
「ちょちょちょ、どうしてオルフェはここに連れてこられたのですかー!?」
「野暮用。電波を受信したのよ」
「意味がわかりませんですよー!」
 首根っこを掴まれた状態で半泣きのオルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)と、何やら電波を受信した【イコンスーツ】 ホワイトベール(いこんすーつ・ほわいとべーる)が勇んで前にでた。
「未だ意識放浪中の武李様に代わり聞くが、電波とは?」
「ふん、呼ばれたから来てあげただけ。……呼んでない? 呼んだでしょ? 呼んだのよ」
 ……一体なんのことやら。
「あ、あまり変なことを言っていると貴様の黒歴史をバラすぞ! 後で武李様が」
「黒歴史? 私に、恥ずべき過去なんてないわ! 自分が恥じていなければ、それは黒歴史になりえない。だかこそ私に黒歴史なんてありはしないわ!」
 そう高らかに宣言するホワイトベール。その横ではオルフェリアが、黒歴史について考察し始めていた。
「黒歴史? それって一体……あ! 正解は言わないで下さい。きちんと考えて答えをだしますから」
「……制限時間は十秒、いーち、にー」
「あー! 制限時間を数えちゃだめですー!!」
 この部下、ノリノリである。と、こうしてる間に武李が意識を取り戻す。
「母さん……生まれ変わったら頑張るから……」
 そう呟く武李はボロボロと泣いていた。それだけの苦渋ならば普通に働け、と言いたいところだが世界がそれを許しはしない。変なところでアグレッシブな武李だった。
「こ、こうなったら雅羅、さんと海、さんの黒歴史をバラすしか……!」
「ちょーっと待ったー! 先に私たちの黒歴史を聞きなさーい!」
 雅羅と海の黒歴史が暴露されるというその刹那、名乗りを上げた勇者が一人。その名はネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)。その背後にはディアーヌ・ラベリアーナ(でぃあーぬ・らべりあーな)
「や、やっぱりボクのも言っちゃうの?」
「もちろん。えーそれではまずディアきゅんのやつを……」
「え、ええ!? そっちから言っちゃうの!!」

-----ディアーヌ・ラベリアーナの黒歴史-----
「ごほんっ。興奮すると下半身のとある部分から噴出するディアきゅんの花粉には、
他の人を興奮させる効能があるんだけど、それを意訳したとある人により、
かなーり! セクシーな用途に利用されたことがあってね?
その結果、周りを大混乱させた逸話があるんだよ!」(ネージュ・フロゥ談)
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「ちょ!? この辺りの雰囲気は全年齢対応ですよ!?」
 まったくもってその通りだが、どちらかと言えば武李がそういうことを暴露していった方が効果的なのではないだろうか。
 というのは内密にしておく。
「うぅ……恥ずかしい……。ならねじゅおねえちゃんのも!」

-----ネージュ・フロゥの黒歴史-----
「ネージュおねえちゃんは頻尿体質だから、すぐにお手洗いに行きたくなるんだ。
だから、長時間行動を可能とするために自分専用イコンのコックピットシートに、
簡易トイレ(局所密着型小型尿吸引装置(洗浄機能付き))を組み込んでるんだよ。
そのため、変態呼ばわりされるのではと考えていて、他人を自分専用機のコックピットには近づけないようにしてるんだ。
一応、装置は格納して見えないようにすることは出来るらしいけどね」(ディアーヌ・ラベリアーナ談)
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「恥ずかしいけど、ディアきゅんのに比べたらどうってことないかな?」
「そ、そんなー!」
「……是非、そのコックピットに招いてください!」
 武李の部下の人がそう叫んで、ネージュに土下座する。その光景に、誰もがドン引きした。
「だめにきまってるでしょー! この変態っ!!」
「罵り! これは、イイ!!」
「……成敗!」
「ぐべらっ!」
 見かねた雅羅が変態ロリコン部下の鳩尾にきつい一発を見舞い、ノックダウンさせる。

――――エラー発生。

「ああっ!? ぼぼぼくのPCに搭載されているAIが黒歴史を聞いてエラーはいてるっ!」
 二人の黒歴史発言はマイクを通してAIの耳に入り、不合理すぎる発言にエラーが発生する。
 この調子でいけば黒歴史流出は免れるだろう。
「えーっと、つまり……黒歴史というのは人に聞かせたくない、自分の恥ずかしい過去、ということですか?」
「正解っ! お見事っ!」
「や、やりましたー! これも制限時間を無制限にしてくれた部下さんのおかげです! 感謝します!」
「いやいや、オルフェリアさんの鋭い考察力があったからこそですよー」
 と、なぜか部下の一人とオルフェリアが和気藹々としている。ここにはカオスが渦巻いている。
 そしてこのカオスは、更なるカオスを巻き起こそうとしてた。