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ブラウニー達のサンタクロース業2023

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ブラウニー達のサンタクロース業2023
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リアクション

 イルミンスールの街。

「……どうしてここにいるのかな」
 皆川 陽(みなかわ・よう)は広がる光景に溜息を吐いた。いつもなら寮と学校の往復とたまに買い物に出掛けるだけの普通の生活をしているはずなのになぜか今日は何も買い物が無い上にイルミンスールの街にいた。
「朝起きたらなぜかイルミンスールにキミを連れて行かないといけないと急に閃いた。クリスマスの奇跡かもしれない」
 陽をイルミンスールに連れて来た張本人ユウ・アルタヴィスタ(ゆう・あるたう゛ぃすた)は断言した。まさにその通りでブラウニーの仕業にてここに引き寄せられたのだ。
「……奇跡と言っても何も起きてないよ」
 陽はただ出掛けただけで何も起きていない事実を恐る恐る口にした。
「それはまだ目的地に着いていないから。そもそもここに来たと言う事はオレが誘ったからだけじゃなくて自分で考えて来たんじゃないのか」
「……絶対に付いて行くべきだと朝急に閃いて」
 ユウの指摘に陽は誘われた時の事を思い出した。なぜか付いて行った方がいいと閃いたのだ。普段なら寒い休日にわざわざ外出しなかったかもしれないが。これまたブラウニーの仕業だったり。
 とにかく二人はややこしい道を行き、ユウが目的地と言う場所へ向かった。
 そこは古めかしい明らかに流行っていない喫茶店だった。

 喫茶店、店内。

 店に辿り着いた陽達は、とりあえずと入店していた。
「……客がいない」
 陽は客が自分達以外いない閑散とした店内を見回した。
「何かここに行くべきだと思ったんだ……味は悪くない」
 そう言いながらユウは飲み物を美味しく頂きながらカウンターで作業をする唯一の店員、中年の狐獣人男性を何気なく眺めていた。
「…………(ボクが何をしても変わらないし何かをしようとしても結局は何も出来ない自分だし……そんなのいてもいなくても同じ。いたからって何か良い事があったとか思われる事無いし、こんな自分が歩む人生に何か意味があるのかな……存在する意味も……そうじゃなくてもうちょっとちゃんとしなきゃ……一人で生きられるようにならないと)」
 陽はカップの水面を見つめながらぼんやりと毎日考える事をここでも考えていた。自分に自信がなくどこにも自分の居場所や存在価値はなくそんな自分が歩む人生も意味が無いと。
「……なかなか美味しいな(また思い悩んでるな)」
 ユウには陽の考えは丸分かりであった。その理由は、ユウは悲劇的な経緯を辿った世界から来た陽の未来だからだ。こちらに来た目的は、自分とパートナーロストで壊れた伴侶を救うために過去改変をする事だ。
「今日は雪降るかな(まぁ、与えられるものをそのまま受けるオレに比べていろいろ自分で考えて足掻こうとしているのは分かるけど、オレの存在があるという事は何も成功していないのかもしれない。早く過去改変を成功させてタイムパラドックスとかで無かった事にして満足に満たされた状態でこの世から消えたいね)」
 ユウは周囲に流されるだけで自分は何もせず、何も出来ないままの自分でしかいられなかったユウ自身を思い出していた。
 こうして二人があれこれ自身の物思いに耽っていた時、
「マスターさん、メリークリスマス!」
「メリークリスマス、キーアちゃん」
 5歳ぐらいの活発そうなシャンバラ人の少女が入って来た。親しげにマスターと何やらお喋りを始めた。
 そして、お喋りを終えたキーアは
「うわ、お客さんがいる。メリークリスマス!」
 陽達の存在に気付き、驚くなり人懐こそうな笑顔で声をかけて来た。
「……メリークリスマス」
「メリークリスマス」
 陽とユウは思わず挨拶を返した。
「ねぇ、お兄ちゃん達もアタシみたいに冒険してこのお店を見付けたの?」
「冒険じゃなくて急に思いついてね」
 キーアの好奇心爛々の質問にユウが答えた。
「へぇ、すごいね。アタシは冒険で見付けたんだよ」
 ユウの答えに驚きながらキーアはちょこんと陽の隣に座り背負っていたリュックを下ろして中から四角い缶を出した。ついでに互いに名乗るのも忘れない。
「これ全部冒険で見つけたアタシの宝物」
 キーアは缶のふたを開けて自慢げに中身を陽達にご披露。
「……ビー玉に石に木の枝、押し花……いろいろあるね」
 と陽。中に入ってるのは綺麗な物もあるがどれもこれもごみばかり。
「でしょ。でもね、ごみでいらない物だって言う子がいるんだよ。アタシが宝物だって思ったら宝物なのに……石を売るお店をしているおばちゃんも言ってたけどね、誰かにとってただの石でも他の誰かにとってはお守りにもなるんだって。だから……」
 この街で石専門店を経営する叔母の言葉を口にするキーア。
「……他の人にとってごみでもキミにとっては宝物」
 彼女の言葉の続きを察したユウが続けた。
「そうだよ」
 キーアはにっこりとユウに笑んだ。
「……宝物ばかりだね」
 陽は小さくつぶやいた。まさか何も知らぬキーアから精神の平穏を欲する自分に関わるような言葉を聞くとは予想外。
 ここでタイミング良く
「本日は、クリスマスに当店に来て下さったお客様にささやかなサービスをさせて頂いております」
 マスターが一人用ケーキ三人分を持って来た。
 ケーキは三人の前に並べられ
「うわぁ、お兄ちゃん達、ケーキだよ! ここのケーキとってもおいしいんだよ」
 子供のキーアは当然テンション最高潮。
「……確かに美味しそう」
 気弱な陽はキーアに控えめな感じで反応。
「……ケーキも美味しくて飲み物も悪くないにしては客が少ないような」
 ユウはメニューが悪くないなら栄えて当然なのにそうではない事に言葉を洩らした。
「それは、場所が悪いせいか客が少ない上に半分趣味で売り上げを伸ばそうと考えていないせいもあったりして穴場みたいなもんになってるからね……どうぞ食べてみて下さいな」
 ユウの発言に店長は気さくに笑いながら答え、カウンターに引っ込んだ。
 そして、三人はクリスマスケーキを食べる。
「おいしいね」
 キーアはケーキを頬張りながら隣のお兄ちゃんを見上げる。
「……そうだね」
 陽もケーキを食べながらこくりとうなずいた。
「こうしてマスターさんのケーキをお兄ちゃん達と食べられて今日はいいクリスマスだよ。いつもアタシだけで、マスターさんのケーキを食べてもおいしいねって言い合いっこ出来ないからつまらなくて」
 キーアは無邪気に笑いながらケーキを食べ続けている。今日は感動を共有出来る人がいて大層嬉しそうである。
「作った人と客同士じゃ共有する感動は違うという事か」
 ユウはキーアが言おうとしている事に軽く笑みを浮かべ、ケーキを楽しむ向かいの陽をちらりと見た。
 ケーキを楽しみ終えるなりマスターに昼から夜まで幼稚園でクリスマス会がある事を思い出させられたキーアは急いで店を出て行った。
「今日はありがとう、お兄ちゃん達」
 嬉しそうに陽達に礼を言うのも忘れずに。

 残された陽達。
「……いいクリスマス」
 陽はキーアの言葉をつぶやき何事かを考えているようであった。
「……これが奇跡かな」
 ユウは考え事をする陽を見守りつつ喉を潤していた。