校長室
壊れた心の行方
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ピクニック 先日北都とアラムが話していた野生の花々が咲き乱れる湖畔は、まさにピクニックにうってつけだった。柔らかな風が控えめな野生の花の芳香を運んでくる。レナトゥス、香菜、ルシアらを中心に、唯斗、コハク、アラムが重いものを運んだり、シートの設置を行ったりして丈の短い芝草のエリアにランチ場所を設置する。みなで作ったお弁当がバスケットから取り出され、アウトドア用のテーブルに並べられる。鉄心のパートナーのスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)は、竜形態で気持ちのいい芝草の上に手足を伸ばしてごろごろとくつろいでいる。 「今年は辰年でござるから、せっしゃをちやほやすると、良いことがあるかもでござるよ?」 などと嘯いている。ティーがリナに紅茶を勧めながら声をかけた。 「私のこと、覚えてますか……うさ? 私は、あったかい場所で安心して眠れたり、おいしいもの食べられると悩みってもうあんまりなくなっちゃうんですけど……リナさんたちにとってはそう簡単じゃないですよね……。 きっと、時間はいろんなことを解決してくれると思う。私には鉄心やイコナちゃんも居てくれた……。 一人より二人、いろんな人とお話しするのもいいと思いますうさ。 ……何か困ったことがあったら、遠慮なく言って下さいね」 「ありがとね」 リナは短く言った。今はまだ、心の整理はつききっていないが、ティーの暖かい思いは感じ取れた。ティーはにっこり笑うと、レナトゥスやアビスにもお菓子の皿を持ってとことこと歩いていく。 イコナはフランセスにそんなティーの様子を指して言う。 「あのうさぎなんて、自分が誰かも忘れてましたの。アホですの。 でもごはんさえ与えてれば割と幸せそうですの……やっぱりアホですの」 そこでいったん言葉を切ると、遠い目をして呟くように言った。 「本当は、お互いのことがそんなに簡単じゃなかったこと、ちゃんと分かってますけれど……ね。 皆さんならきっと大丈夫ですの。悩み事って言うのは、前に進むためにも必要なものなんだと思うんですの。 一人で考えているとぐるぐるしてくるから、誰かに話すのもいいとおもいますの。 ……あのうさぎは論外ですけど」 フランセスはクスッと笑った。 「あなたたち、お互い信じあっているんですね」 「そ、それは大いなる勘違いですの!」 ストーンはだらんと伸びだまま、近くでお茶を飲むレーネに言った。 「もともとは、鉄心殿はティーの名前もテキトーに決めたでござる。イコナのことも、魔道書としての認識しか当初持っていなかったでござるよ。 でも、今となっては、皆を戦いに巻き込んでしまうことを後悔してたり、そんな自分に戸惑ったりしてるようでござる。 そのあたり、進歩したのでござろう。少なくとも『戦う理由』は、以前よりもいい理由になったと思うでござるよ」 「人は少しずつ変わる、そういうことね……」 ストーンは頷いた。美羽が皆にが美味しいと料理を食べるのを見て言う。 「このお弁当、皆さんに喜んでもらいたいって、レナトゥスとルシアが作ったんですよ。 ……私たちも手伝ったんだけどね」 鉄心はゴダートの元を訪れ、彼をピクニックの場所が見える林のはずれに連れてきていた。 「御覧なさい、あなたが人形もどき呼ばわりしてた者たちの、本当の姿ですよ」 のんびりとした午後だった。皆がくつろいで、おのおのおしゃべりやゲームに興じている。三人の様子はほかの契約者の同世代の女性たちとなんら変わりはなかった。笑い、話し、進められる菓子やお茶を楽しんでいる。 「よほど上等じゃないですか。獣のように怯えるだけの貴方より。 ……別に追い討ちをかけるのが目的ではないですが、貴方の結論が非合理的に過ぎるようなので、もう少し良く考えて頂きたい」 ゴダートは何も言わなかった。悔恨と苦渋の表情を浮かべ、明るい景色から目をそらし、俯いた。 「なぜこんな話をするかというと、元は自分も貴方とそう変わりは無かったからなんですけどね」 はしゃぐパートナー達を見やりながら鉄心が言うと、ゴダートは驚き、顔をあげた。 「滅びの軍勢はドゥケによって消滅したし、ニルヴァーナの落下も女王の意思が阻止しましたよ。 何より、あなたはまだ生きているのだから……傷つき、悲しみ、悩み、喜び、共感し…時に心をつなぐことも出来る。 思考停止するには、まだ早いのではないですか?」 ノーンの天使のレクイエムの歌声が響いてきた。震える魂で増強されたそれは、皆の心に強く働きかける。ゴダートは呻くような声を上げ、その場に蹲った。 「……すまない」 搾り出すような声だった。鉄心はそっとその背を叩き、ピクニックの場に視線を移した。ノーンの歌声に共鳴するようにレナトゥスとアピス、それにアラムが輝きを帯びた。同時にアラムの姿が不意に鮮明になる。実体を取り戻したのだ。 だが、変化はそれで終わらなかった。アピスの透明な羽が大きく広がり、その背中が裂けた。中から羽化してきたそれは、どこかアラムと似た男性の顔立ちをもったスポーンだった。その場にいた全員が息を呑んだ。 「これで、ワタシの最終形態への変化が終わった。レナトゥス、これからも君のパートナーとして、スポーンたちの精神の発達を見守って行こう」 レナトゥスが頷いた。 「はっきりした性別はないですけど……何か着ましょううさ……」 真っ先に発言したのはティーだった。 その話を聞いたアクリトの言葉は、以下のようなものだった。 「アピスはヒトガタとはまた違った形でレナトゥスと共鳴し続けていた。相互に似た因子を持つスポーンだ。 彼らは理性的で、深い思考力も持っている。いい指導者になるだろう」 意外にもその話を聞いたアラムも、スポーンの街に留まり、彼らとともに暮らしていくとアクリトに申し出た。。 「小さいけれど、目的ができたからね」 ゴダートはその後、レナトゥス、アピス、アクリト、アラムらとともに三人の元護衛と話し合いの場をもち、今後彼女らとも協力しながらスポーンたちの発展の手助けをするという意思表明を行った。ニルヴァーナを通じて、いずれシャンバラとも公式にニルヴァーナの一種族として交流してゆくつもりであるという。
▼担当マスター
鷺沼 聖子
▼マスターコメント
こんにちは、鷺沼聖子です。寒い日が続きます。皆様お体にお気をつけください。 今回のシナリオはスポーンと関わりの深い面々、おのおのの行く末を描いてみたいと思い、作成したものです。護衛の「少女」たちへは無論、憎まれ役として登場したわりに案外ゴダートへのアクションが多めで意外でした。みなさん「悪役」にも暖かい気持ちで接しておられ、嬉しく思いました。相手の立場が変わればまた、見方も変わってくる。そういう大きな目線を感じました。 またよろしかったら、私のシナリオにご参加いただけますと幸いです。