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正月納めの大祭

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正月納めの大祭

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終章

「あの餅で今から何かの料理が出来ないかしら」
 屋台で作られている料理たちを見つめながらセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はそんなことを口走った。
 独楽を回して凧を揚げてぜんざいを食べたセレンは次にすることの案として料理を持ち出したのだ。
 その言葉に戦慄を覚えたのは誰であろう隣にいたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だった。
 セレアナは彼女の料理の腕前を知っている。
 曰く、「生物化学兵器」「ナラカ人殺し」「食物ブラクラ」と評されるほどの代物で、それは料理というより攻撃手段と言った方が適切なレベルの物体なのだ。
 それがお祭りで出されてしまっては即中止どころか馬場正子(ばんば・しょうこ)の信用も地に落ちるだろう。
 そして今の二人は教導団の公務の仕事帰りで国軍の制服姿だ。事件が起きたら後で何が起きるか想像するだけでセレアナの背筋は冷たくなる。
 なにか無いかとセレアナは周囲を見渡す。なにか、セレンが手を出しても人死にが出ないような料理はないかとセレアナは努めて冷静な表情であちこちに視線を飛ばす。 そこに、杵と臼を下ろして餅米を入れている正子の姿が目に止まり、ある考えが閃く。
「ねえセレン。折角だから餅つきに参加してみない? あれも広い意味では料理よ」
「あ、いいわねそれ。正子さ〜ん! その餅つき手伝わせて〜!」
 セレンは無邪気に正子の元へと駆けていき、セレアナは祭を楽しむ人たちの命を救ったことに安堵しながら後に続いた。
 正子は二人の姿を見て取ると、黙って杵を渡して自身は膝をついて手水側に回った。セレアナはそれを黙って見守ることにした。
「よーし、それじゃあ景気よくやってみよう」
「うむ。存分にかかってくるがいい」
 どこぞの世紀末覇者のような台詞を口にしながら正子は構えると、セレンは杵を振り下ろして餅を潰す。
 ペッタンペッタンと最初は何ら変哲も無い餅つきだったが、次第に勢いはエスカレートしてドッカンドッカンと臼を割りそうな音が響く。
 正子も負けじと豪快に餅を返す。セレアナはその様子を見て、杵二つが臼の餅を潰しているようにしか見えなくなっていた。
 だがそんな猛襲とは相反して餅の方はふっくらと仕上がった。あの攻撃という名の料理を作るセレンにしては文句のつけようのない見た目だった。
 ただしここから料理に使おうとしたら全ては破滅である。そもそもこの餅だってこれだけ美味そうな見た目とは裏腹に人一人を殺傷する力が秘めてあるのかもしれないのだ。杵をついただけでそんなことが起きるわけ無いと通常は考えるが通常考えられない料理を作るのが料理下手というものだ。
「さあ、餅も出来たことだしこれで早速料理を……」
 セレンが再び不吉なことを口走り、セレアナが止めた。
「いいのよセレンは休んでいて? 料理は私がやるわ。正子さんも休んでて?」
「かたじけない」
 そう言って正子が休もうとすると別の客人が姿を現した。
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。両手には羽子板を持ち、照れくさそうにはにかんでいる。
「あははは……餅つきも誘おうと思ったけど、もうやっちゃったみたいだから羽根突きでも、と思ったんだけど。どうかな?」
「うむ、よかろう。ただし、手加減はせぬぞ」
 正子は不敵な笑みを浮かべて羽子板を一つ受け取った。
 ルカルカは距離を取って正子と対峙するが、正子は遊び一つ取っても一切手を抜くつもりは無いらしく威圧感さえ感じさせた。
 だが、それはルカルカが望んでいたことでもあった。
「思いっきり打ってきていいからねっ」
 そう言ってルカルカは羽子板を振るい羽根を飛ばす。
 ガキッ、と嫌な音が響き、羽根は弧を描かず弾丸ライナーのように正子の身体めがけて飛んでいく。
「ふん!」
 正子は全身の筋肉を躍動させ、野球のスイングのように羽根を打ち返す。持ち前のパワーで打ち返される羽根の速度は小動物くらいなら殺傷できそうなレベルに達していた。
 ルカルカも負けじと打ち返す。既に羽根は第三者の視点では黒い影が行き来してる程度にしか見えず、羽子板からは何かが砕けるような音と共に木の欠片が飛び散った。
 その光景は人が人を呼び、いつしか二人の周りには人だかりが出来ていた。なにせ二人の羽根突きはどこぞの少年誌のスポーツ漫画をそのまま体現したような状態になりつつあったのだ。
 やがてこの羽根突きとも呼べなくなった競技に決着が着く。
「ぬううううううううううううう!」
 正子は渾身の力で羽子板を撃ち出し、ルカルカの羽子板に羽根が重くのしかかりる。それと同時にルカルカの羽子板がベキッ、と嫌な音を立ててへし折れ、足下で羽根がポトリと落ちた。
「あ〜あ、負けちゃった。やっぱり正子さんは凄いよ」
「いや、わしも久しぶりに本気を出せた。羽子板が割れなければ今頃負けていたのはこちらだったはずだ」
 そう言って正子が羽子板をつつくと、羽子板は繊細な飴細工のようにあっさりと折れ曲がって地面に落ちた。
 二人は笑みを浮かべながら健闘を称えるように握手を交わすとギャラリーから拍手が上がった。
「二人とも。お雑煮が出来たから一緒に食べない?」
「お酒もあるよ〜」
 セレアナが二人を呼び、セレンは酒を片手に手を振ってくる。
「じゃあ、小休止しようか? 人もいっぱい集まったし、次はダブルスしようよ」
「あれを見た後で希望者が出ればいいが……」
「勿論手加減するよ。ほら、そんな話はいいからお酒飲もう!」
 ルカルカは正子の背を押しながらセレンたちの所へ向かうと誘われるように観戦していた人たちも混じり、宴会のような騒がしさが生まれる。
 その声は祭が終わるときまで止むことは無く、正子は酒を飲みながら祭が盛り上がえてくれたコントラクターたちに感謝しながら優しく微笑んだ。



 ──了──


担当マスターより

▼担当マスター

西里田篤史

▼マスターコメント

 どうも、西里田篤史です。
 今回は本シナリオへご参加いただきありがとうございます。
 昨今は正月遊びなんてほとんどの人がやらないんじゃないでしょうか? 私も凧揚げくらいしか思い出がないのでシナリオだけでも正月遊びをしようということで今回のシナリオを書かせていただきました。
 今回行事ものをやったので、次回は行事を無視した変なシナリオを書ければいいなぁ……とか考えています。
 短い挨拶ですが今回はここまで。

 今回のシナリオにご参加いただいた方、本当にありがとうございました。またどこかのシナリオでお目にかかれれば幸いです。
 それでは、失礼致します。