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種もみ学院~配り愛

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種もみ学院~配り愛

リアクション


ファイル2


 出会い系サイトでネット契約したものの、パートナーと一度も会えずすっかり気落ちしていたパラミタ人がたむろしていた契約の泉。
 そこも今は契約者達の力添えにより生気を取り戻していたが、やはりどこか物寂しげな空気はあった。
 しかし、つい先日、行方知れずのパートナー三名の居場所がわかり、当事者もそうでない者も喜び合っていた。
 パートナーが見つかったのは、シャンバラ人と獣人とゆる族だ。
 種もみ生や他校生も確保に走ってくれることになり、三人はこの泉で初対面を待つことになった。
 そんな時、が高らかに呼びかけた。
「ヒャッハァ〜! パラミタ一の愛のプロフェッショナルの俺が、お前らの愛を映画にしてやるぜ」
 鮪の周りには、すでにアメリカから連れてきた撮影スタッフやエキストラ陣がそろっていた。
 驚いたのは、見つかったパートナーを首を長くして待っている三人だ。
「来なかったらどうするんです?」
 シャンバラ人のジョスリーヌが不安そうな顔をする。
 問題ない、と鮪は大きく頷いて言った。
「それはそれでストーリーになる。愛は必ず報われないといけないわけではないからだ」
「そんな……」
「まぁ、捕まえに行った奴らを信じてやんな。それも愛だ」
 また、映画監督を務める信長自ら、泉の住人達を映画出演に勧誘していた。
 主役ではないとはいえ、映画に出れる機会など滅多にない。
 しかしパートナーにいつまでも会えないことで自信をなくしている彼らは、
「自分なんかが……」
 と消極的になっていた。
 そんな彼らを見据え、信長は言った。
「会いに来ぬは彼奴らの責よ。だが会いに行かぬはおぬしらの責である。来させたくば相応の努力が必要である」
「映画に出れば会えると言うのかい?」
 はすっぱな感じのヴァルキリーの猜疑的な目を、信長はさらりと受け流した。
「このまま何もせずにいては、おぬしの存在などやがて忘れ去られよう。だが、映画に出て想いを訴えればどうかな? おぬしの望むものに近づけるやもしれんな」
 信長は絶対の予言者ではない。
 それはわかっていても、不安だらけのヴァルキリーには「会える」という断言がほしかった。
 うつむく彼女にジーザス・クライスト(じーざす・くらいすと)がやさしく声をかけた。
「悲しむ必要はない」
 顔をあげたヴァルキリーに微笑むと、ジーザスは鮪と信長から渡されていたマイクを手に、周りの泉の住人達を見渡した。
「嘆く子らよ、悲しむ必要はない。すでに契約が与えられているではないか。それは立ち上がる力である。荒野を進む力である。ならば、立って歩きなさい」
 ヴァルキリーも泉の住人達も、じっとジーザスを見ている。
 彼は言葉を続けた。
「立って歩きなさい。与えられた以上を望むならば、己の手と足を使って集めなければならない。与えられた以上に増やすことこそが生きることである」
 ヴァルキリーは眩しそうにジーザスを見上げた。
 実際、彼は光術を操って後光のように演出していた。
 その様子を信長が何とも言えない表情で眺めている。
 ジーザスが絡むと、彼の名声も手伝って勝手に宗教色が濃くなってしまう。
「いやしかし、地球へ配信する上では受け入れられやすいか……?」
 信長は前向きに見ることにした。
 ジーザスの演説はいよいよ盛り上がりをみせていた。
「昨日までの何もできなかったあなた達を、私が許そう。だから、今日からは成すべきことへと向かう力を私が与えよう。そして、世界の人達があなたが成すことに手を差し伸べることを私が許そう」
 自信をなくし弱った心にジーザスの言葉はたいへん励みになった。
 拍手と歓声に包まれたジーザスは、エレキギターを抱えると耳に心地よい幸せの歌を歌い始めた。
 さっきまで疑り深い眼差しだったヴァルキリーも、気がつけば歌を口ずさんでいた。
 信長の肩を鮪が叩く。
「人員は何とかなりそうだなァ」
「ふ……せっかくだ、あれらにも声をかけるか」
 信長の目は、『キャバクラ喫茶・ゐずみ』を向いた。
 そこでは、酒杜 陽一(さかもり・よういち)が日本から連れてきた鳥取県の若者達にチョコレートを渡していた。
「実家からっスか!」
 チョコをもらった青年が驚きの声をあげる。
 陽一はそれに頷いた。
 チョウコ達とチョコの仕分けをしていた時にわかったことだった。
 見知った名前がいくつも……と思ったら、彼らだったのだ。
「こっちに来てだいぶ経つし、家族もちょうどいい機会だから送ってきたんじゃないか?」
「あー、そうみたいっス。これ、妹からだ」
 メッセージカードを見る青年の目は、とてもやさしい。
「こっちに来て、首狩り族に追いかけられたり、ザンスカールの森で遭難しかけたりしてる時、思い出すんスよ。家族やダチは元気にやってるかなって」
「君はいったい何をやってるの……」
「いや……仕事で素材集めに行ってたら思わぬ災難にあいましてね。マジ死ぬかと思ったっス。パラミタはキルゾーンの展示場みたいっスね」
 あはは、と軽い調子で笑う青年に陽一は苦笑を返すしかなかった。
「君、契約者じゃないんだから、あまり無茶するなよ」
「あ! それがっスね、今口説いてる最中の相手がいるんスよ! なかなか手ごわい奴ですが、必ずパートナーになってもらうっス!」
「契約できたら紹介してくれよ」
「もちろんっスよ」
 と、彼が言った時、他の若者達が、相手はどんな奴だと聞いてきた。
 彼はちゃんと契約できてから教えたい様子だったが、この集団で最初の契約者誕生の可能性に期待をふくらませる仲間達の目には逆らえなかった。
「吸血鬼のかわいい女の子っス」
「下心丸出しか!? 契約っつーか、単なる一目惚れじゃねーの?」
「う、うるさいっ。恋から始まる契約があって何が悪いっスか!」
「逆の話なら聞いたことあるけど……ねぇ、酒杜さん」
「うーん……肯定も否定もしないでおくよ」
 契約の形に決まりはない。
 いろんな契約者を見ていればわかる。
「君は君の契約をすればいい」
 そこに信長が声をかけてきた。
「おぬしら、映画に出て元気な姿を家族に見せたらどうだ?」
 そりゃいいや、とあっさり決まった。
 すぐ傍でそんな話をされて黙っていられないのは、キャバクラ喫茶のキャバ嬢とホスト達だ。
「当然、あたし達も出してくれるんだよね? ま、勝手に参加するけど」
「生まれ変わった俺を、かーちゃんに見せつけてやるぜ」
「特別なドレスやスーツを作ろうか?」
 酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)は何着必要か、さっそく頭の中で予算の計算を始める。
 好きにするがよい、と鷹揚に頷く信長。
「じゃあ、撮影が終わったらみんなにチョコをあげるわね」
「美由子、あたしは今欲しいなー。出演前にエネルギー補給をね」
「俺は今と終わってからも欲しいな」
「欲張りー!」
「バレンタインは欲しがる権利があるッ」
「映画の仮タイトルって……」
 美由子が信長のほうを向くが、彼は他の人達の勧誘に行ってしまっていた。
「がんばったら、いっぱいあげるね。今までの分も」
 美由子のこの一言で、キャバクラ喫茶の従業員達のテンションが一気に上がったのだった。

 一方、『契約情報サービス屋』の前では。
 サービス屋を立ち上げた御神楽 舞花(みかぐら・まいか)が、不義理者三名を捕まえに行く人達と行き先の確認をしていた。
「うまい具合にバラけましたね。がんばりましょう」
 それから舞花は共に蒼空学園へ向かう三人に、よろしくお願いしますと挨拶をした。
「校長先生に事情をお話ししておきましたので、多少の騒ぎには目をつぶってもらえるでしょう。それに生徒会副会長さんもいらっしゃいますしね」
「任せてよ。それにしても、まさか蒼空学園にいたなんてね……廊下ですれ違ってたりして?」
 困り顔でため息を吐く小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)
「あのさ、坂井康介って名前なんだけど……」
 と、やや言いにくそうに綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が口を開く。
 彼女とパートナーのアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は、空京大学に通う傍らアイドルユニット『シニフィアン・メイデン』として活動している。
「今年のバレンタインで、私達が当選者にチョコを渡しに行くっていう企画をやっててね、この人、当選者みたいなのよね」
 えーっ!?
 と、声をあげたのは舞花と美羽だけではない。
 当事者である康介のパートナーのトラの獣人もだ。
 呆然とする獣人に、さゆみは元気づけるように言った。
「必ず連れてくるから、待っててね」
 彼女達はそれぞれ飛空艇などを使って蒼空学園へ飛んでいった。
 信長の撮影班がそれを追った。