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種もみ学院~配り愛

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種もみ学院~配り愛

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ファイル6


 葦原島にある呉服屋──。
 確かにそこに雨宮沙菜はいた。
 聞いた特徴にそっくりだ。今日は舞妓の稽古は休みなのか、カジュアルな洋服姿だ。
 沙菜は熱心に反物を見ていた。
 と、そこにゆる族が一人、のっそりと入ってきた。
 店の者が声をかける前に、黒猫のゆる族は言った。
「雨宮沙菜さんは君かい?」
 びっくりして振り返った沙菜は、かわいらしい顔立ちの女の子だった。左目の下のほくろが特徴だ。
 沙菜はすぐに笑顔で頷いた。
「そうだけど、何かご用?」
「君にチョコレートの配達だ」
「そうなの? 誰からだろう」
「渡したぜ」
 黒猫のゆる族は、来た時と同じようにのっそりと店を出て行った。
 黒猫のゆる族──国頭 武尊(くにがみ・たける)は、路地に入るとさっそくテレパシーで沙菜に呼びかけた。
 ──聞こえるか? オレは種もみ学院の総長だ。
 ──え!? 私、そんな人知らない……。
 ──いや、会ってる。だが、君と世間話をしたいわけじゃない。用件は一つ。君のパートナーのことだ。
 沙菜は黙り込んだ。
 ──会いに行かないのは理由があるんだろう。だが、互いに惹かれあうものがあったから契約したんだろ? だったら一度ぐらい会って話ししろよ。それが筋ってもんだろ。
 ──会ってはいないけど、見たわよ。あいつの感覚と私の感覚は合わないわ。
 ──では、パートナーには会いに行かないと?
 ──わざわざ訪ねてきてくれたのに悪いけど。
 ──あのゆる族に死ぬまで待っていろと。
 そんなんじゃないと言いかける沙菜の言葉にかぶせて、武尊は続けた。
 ──パートナーにほったらかしにされた奴らの惨めな姿、オレは見たくないんでね。当事者同士で関係に決着つけてくれ。拒否するなら、君の所業を公開して社会的に追い詰める。
 今の様子も撮影されている、と警告と脅しをかける。
 実際、店内には光学迷彩で姿を周囲に溶け込ませた猫井 又吉(ねこい・またきち)がデジタルビデオカメラを構えている。
 ──冗談じゃないわよ! あんた変態!?
 又吉の目の前を、沙菜は駆け抜けた。
 通りに飛び出した直後、沙菜は誰かとぶつかった。
「ごめんっ」
「いや、こちらこそ……ん? 雨宮沙菜?」
「まさか、あんたも変態の仲間!?」
「そんな、ぶつかっただけ変態だなんて……」
「私、急いでるから!」
 すり抜けようとした沙菜の腕を紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は掴んで引き止めた。
「実は探してたんですよ。ここにいるって聞きましてね。君、パートナーを……」
「だから、あいつとは感覚が合わないのよ!」
 唯斗は、沙菜の反応から誰かが先に接触していたと悟った。
「もうすでに聞かされているでしょうけど、パートナー同士がバラバラってのは良くないですよ」
「お節介!」
 沙菜はポーチから札を引き抜くと、それに願って唯斗の上に稲妻を落とした。
 唯斗の体がしびれた瞬間、彼を突き飛ばして逃げていく。
「いたた……。はぁ、逃がすわけにはいかないんだよねぇ」
 唯斗はしびれを振り払うと沙菜を追いかけた。
 すると行く手に黒猫のゆる族姿の武尊が現れ、併走しながら挟み撃ちを提案した。又吉も追っ手に回っている。
「了解。俺はこっちから行きます」
 唯斗は路地を曲がった。
 いくつか角を曲がったり屋根の上を移動した後、沙菜の姿を捉えた。
 沙菜は先に武尊に追いつかれていて、方向転換したところだった。
 その方向は唯斗のほう。
 唯斗は屋根を蹴って沙菜の目の前に降り立った。
「悪いけど、逃がしませんよ。あのさ、パートナーが離れ離れにいることの危険性はわかってますよね? 相談に乗るから、会いにいってみたら」
 沙菜の後ろには武尊が追いついている。
 彼女はうなだれて観念した。

 又吉の装輪装甲通信車で荒野を移動中、沙菜はパートナーに会いたくない理由を白状した。
「あいつ、かわいくないのよ。ぶさかわいいならまだ許せるけど、ぶさ100%なんだもん。舞妓姿の私の横に立ってほしくない……。単なる見世物になっちゃう……」
 感覚が合わない、とはこういうことだった。
 ネットでお互いの容姿を説明した時、沙菜は正直に話した。
 もちろん、相手のゆる族も正直に言った。
 ゆる族のほうは、自分はぶさかわいいと言われると言ったのだ。
「でも、出会い系のことだし、危ない人の可能性もあるでしょ。だから待ち合わせの場所で遠くからこっそり見たのよ。そしたら……!」
 沙菜は頭を抱え込む。
 彼女を真ん中に、後部座席に座る武尊と唯斗は何とも言えない顔を見合わせた。
 沙菜は顔をあげると運転席の又吉の後ろ姿をぼんやりと眺めた。
「又吉さんのほうがずっとかわいいわ」
 又吉は照れたのか、フンと鼻を鳴らした。