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音楽学校とニルミナスの休日

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音楽学校とニルミナスの休日

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教師

「あ、あー…………うん。調子は良さそうかな」
 ノクターン音楽学校。その防音の整った教室の中でネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は発声の練習をする。
「うん。喉の確認は済んだし…………♪――」
 ここがオペラの会場であったならその奥の席まで響く綺麗な歌声をネージュはその幼いからだから発する。綺麗な歌声に奏でられるのはクラシック調の『音楽』だ。
 類まれなネージュの歌唱力だけで構成されるその音楽の観客が誰も居ないというのは練習とはいえもったいないかもしれない。
「ふー…………久しぶりだからちょっと心配だったけど…………まだまだあたしもいけるね」
 自分の調子をを見極めてネージュはそう思う。
(これなら……音楽学校の非常勤教師できるかもしれない)
 湯るりなすにあるドリンクスタンドから持ってきた歌手の喉を保護するドリンクを飲みながらネージュは思う。
 生徒集めと平行して行われている教師集め。その音楽学校の臨時教師に立候補できるとネージュは思う。
「と言っても、あとニ、三日はちゃんと練習しないとね」
 ミナホとの約束。その形を素晴らしい物にするためには手を抜く訳にはいかない。
「休憩おしまいっと。次はどんな曲を歌おうかな」
 ドリンクをしまってネージュは思う。オペラのように歌おうか、それともカンツォーネか。どうするかを考える。
「――♪」
 そして想いを乗せて唄い出す。

(ノクターン音楽学校が素晴らしい学校になりますように)


「うーん……原案があるとはいえそれを教科書用のテキストに直すのは結構大変だなぁ」
 機晶技術で出来たコンピュータを前にしてそう頭を悩ませるのはトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)だ。
「あ、魯先生。ここの解釈がよくわからないんだけど」
「ああ、そこは――」
 トマスの疑問を答えるのはトマスが今や作っている『論語』の教科書の原案を書いた魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)だ。原案に足りなかった説明をしてトマスに教える。
「ああ、なるほど。流石魯先生。腹黒いけど知識に間違いは……あ、ごめんなさい謝りますから石を頭にぶつけるのは……暴力反対!」
 危機一髪で頭にたんこぶを作ることを避けたトマスは大きく息を吐く。そして素朴な疑問を魯粛になげた。
「でも、音楽学校に『論語』がどう関係あるんだろう?」
「ふむ……難しい質問ですが」
 そう前置いて魯粛は続ける。
「きちんとしたものをかたちづくるには、調和が大切だ、ということですねー、すんごく丸めて言ってしまうと。オーケストラでの音作りとか、ロックのセッションなんかは、演奏者同士の心の『和』がないと、決まらないでしょ?」
「ああ、なるほど。何となく分かるかな」
「独唱というか独奏についても、心のありようが音に反映される。拍子や音の高低で表情が出てくる。楽譜通りに演奏すれば一応の音楽になりますが、豊かな音楽にするには心、ハートが問題って事です」
「なるほど……音楽って奥が深い……いや、論語がかな?」
「その両方でしょう。と言っても結論自体はそう難しいことじゃありませんよ。どちらも身近にあるものですから」
 だからこそ教えることは『難しい』のだが。

「――これでよしっと。後はこれを印刷するだけかな」
 教科書のテキストを完成させてトマスは伸びをする。
「お疲れ様です」
「魯先生はここからが大変だよ。先生役」
 それをすることになるのだからとトマスは言う。
「私は実学というか実践と実戦の人で、あんまり適材だとは思えないですけどね……まぁ微力は尽くしますよ」
 引き受けたからにはと魯粛は責任を持って言うのだった。