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音楽学校とニルミナスの休日

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音楽学校とニルミナスの休日

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ニルミナスの休日2


「まぁ、大した作業量でもないし気分転換にもなるから構わないが……相変わらずあの子らは手伝う気はないのか」
 源 鉄心(みなもと・てっしん)はユニコーンの住処近くに作られている土地を花壇にするべく耕しながらそう言う。
「元はといえば俺の方が手伝いの筈なのだが……すみません、ミナホさんにも手伝ってもらって」
「いえ……正直自己嫌悪で死にたくなっていたのでちょうどよかったです」
 そう言ってあははーと笑うミナホ。
「……あんまり思いつめないでくださいよ?」
確かにそう思うのも仕方ないくらい大失態かもしれないが。
「……そういえば、生徒集める方法ですが。この村は亜人や自然ともうまく調和してやって行けてるようですし、ドルイドを目指す生徒などにとっては興味深い対象かもしれませんよ」
 そういった方面と音楽を絡めれば音楽学校への入学希望者も増えるんじゃないかと鉄心は言う。
「ドルイドっぽい音楽ならあそこでサボっている三人……のうち二人は教師役もできそうですし」
「あの……ありがたい申し出ではあるんですが……本人に確認は……?」
「大丈夫です」
 どういった意味で大丈夫かは分からないが、鉄心の中では既に決定事項らしい。
「そ、そうですか。けど、これで音楽系の教師と道徳の教師は揃いそうですね。問題は一般系の教師ですが……」
「そっちのほうはいないんですか?」
「いえ、何人かは決まっています。ただ、音楽系と道徳系に比べると少し足りないですね」
「まぁ、あと少しですが開校までに時間もありますし何とかなるんじゃないですか」
「そうですね。一般系なら最悪私が教師役出来ますし」
「……できるんですか?」
「一応隣街の学校を主席で卒業してますよ。教員免許も取ってますし」
「……優秀ですね」
「あの……すごく意外そうな顔をされるとちょっと傷つくんですが」
「意外というか……事務系の能力は問題ないんでしたね」
 残念なところばかり見ているから忘れていたと言う言葉は飲み込む。
「と、とにかくあの二人を音楽系の教師に使ってやってください」
「誤魔化された気がしますが……ありがとうございます」


「デージーにサクラソウ……ヒアシンスにチューリップ……きれいうさ」
 パラミタ種であるそれらの花をみてティー・ティー(てぃー・てぃー)はそう言う。
 場所は既に出来上がっていた花壇。リリィの花が咲き、例のスイカがあったところだ。
「リリィの花……またちゃんと咲くといいうさ」
 おかしを食べてまったりしながら花に想いをよせるティー。

『と、とにかくあの二人を音楽系の教師に使ってやってください』

 そんなところに届く鉄心の言葉。
「う、うさぁ……鉄心が勝手に決めてるうさ。ひどいうさ。ラセンさん助けてうさ」
 横で同じく花を眺めているユニコーン、ラセン・シュトラールに助けを求めるティー。
「え? 困ったことがあったら助けてくれるうさ? ラセンさん優しいうさ」
 嬉しいとティーは言う。
「お菓子もなくなったし私も鉄心を手伝ってくるうさ」
 そう言って持出すのは『アスター』の花の種。ラセンの真名と同じ花を咲かせようと用意していた種だ。
 ……美味しい所取りである。


「つ、作っても作っても増えないと思ったらティーがつまみぐいをしていたのですわ。……疲れたのですわ」
 イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は何か悟ったような表情でそんなことを言う。
「単に怠けたいだけでござるな…zzz……」
 幼竜形態でいつものごとく眠るように怠けているスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)の言葉。
「わ、わたくしは怠けてるわけではありませんの」
「サボる人はみんなそう言うでござる」
「だ・か・ら……って、今気づいたですけど、スープの口に餅がついているのですわ!」
 自分が作っていた桜餅や草餅を食べた後を見つけてイコナは言う。
「せっしゃ…こう見えて和の心をしるどらごんでござるから……ワビサビとかすごいくわしいすごいワザマエなどらごんでござるんよ……」
「し・ら・な・いですわ! 作った餅を吐き出すのですわ! わたくしも食べるのですわ!」
 ぺちぺちとスープを叩いてそんなことを言うイコナ。いろんな意味で無理である。
(ミナホ殿もこれくらい自由に生きればいいのにでござるな)
 自分に素直に楽しそうに生きてるイコナやティーを見てスープは思う。
「は・き・だ・すのですわ!」
(……ただ、だからといって拙者をぐるぐる回すのは真似して欲しくないでござる)
 自分をぐるぐる回すイコナを見て思う。
「うぅ……気持ち悪いのですわ」
(……何事もほどほどが一番でござる)

「ふむ……ここはいい風が吹くの」
 ニルミナスにある広場。そこにあるベンチに座りながらアーデルハイトはそう言う。
「ここに吹く風はなんだか優しい感じがするのですわ。誰かに見守られているような……」
 ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)はアーデルハイトの言葉にそう同意する。
「そうじゃの。もしかするとミナスがここから村を見守っているのかもしれんの」
 死した友人を模した像を見ながらアーデルハイトはそう言う。
「地球でのミナスさんとの思い出話などを聞いてみたいのでございます。小さいころのミナホさんの話なども」
 アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)はこの機会にと聞きたかったことを訪ねる。
「ふーむ……ミナスとの地球での思い出か。最初のころはともかく出会ってから千年くらい経ってからはいたずらされた記憶しかないの」
「いたずら……で、ございますか?」
「うむ……まぁあれじゃな。そのあたりはミナスの名誉も私の名誉もかかってくるからの。内緒じゃ。その代わりミナホが生まれてからの話をしようかの」
(気になるのでございます)
 あからさまに誤魔化すアーデルハイトの様子にアルティアはそう思う。
「ミナスは子煩悩での。ミナホを猫可愛がりして私にあったらその可愛さや賢さを自慢してばかりじゃった」
「……普通に親ばかですわね」
 ユーリカの感想。
「親ばかといえば、あの男もミナスに負けず劣らず親ばかじゃったの。二人揃ってミナホ……美奈穂を可愛がる様子は見ていて馬鹿らしくなるものじゃった」
 そして小さな声でアーデルハイトは言う。
「だからこそ、恵みの儀式を手に入れようと近づいてきたあの男をミナスの夫として認めたのじゃが」
「……恵みの儀式、その二人の魔女にかけられた呪いとはどのようなものなのですわ?」
 繁栄の魔女と衰退の魔女にかけられた呪いについてユーリカは聞く。
「これは、アゾートに聞いた話も聴いた上での私なりの結論じゃがの」
 そう言ってアーデルハイトは続ける。
「魔女の呪いは『恵みの儀式』を続ける上で必要なものでなく、『恵みの儀式』を都合よく管理する為に生まれたものじゃろうな」
 例えばとアーデルハイト。
「仮に繁栄の魔女が死ねば、その存在の記憶は人々の中から消える。これが儀式を管理する上で便利な点は何か分かるかの?」
「えーっと……記憶を消すと言うことは衰退の力が使われるんですの?」
 アーデルハイトの言葉からユーリカはそう推測する。
「そういうことじゃ。借りた繁栄の力の分を街に犠牲なく返すことができる」
「他の呪いも同じような理由で枷せられてるんですの?」
「そうじゃな。いかにリスクを減らして繁栄の力を借りられるか。……いかに魔女を都合よく利用できるか。それだけのための呪いじゃろう」
 そしてとアーデルハイトは続ける。
「きっと穂波もまたそのような理由で作られた存在じゃ」
「……穂波さんのあの力はなんなんでしょうか?」
 非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は、前回、古代竜の防御壁を破った力を思い出して近遠は聞く。
「力と言うのであればあれはただの生命力じゃの。誰もが持っている力を使って穂波は古代竜の防御壁を破った」
「……衰退の力であるならともかく、ただの生命力であの古代竜の防御壁を飲み込めるとは思えないんですが。理論上ならともかく」
「そうじゃな。理論上は可能かもしれんが……そんなことを可能にする技術など夢物語じゃ」
「……つまり、それができた穂波さんは」
「ふむ……まぁまだ結論を出すのは早いじゃろう。これから穂波に直接聞いてくるからの」
「……聞いた話の方、ボクたちにも教えてもらえないでしょうか?」
「うむ。まぁ近遠たちになら話しても大丈夫じゃろうしな。……それに穂波はミナホ以外には隠す気はないじゃろうしな」
「ありがとうございます」
 少しだけ重くなる空気。
「此処は、本当にゆっくり出来るのだよ」
 それを払拭するようにイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)はそうアーデルハイトに言う。
「うむ……まぁいろいろ問題のある村じゃが……どのような結末であれこの雰囲気だけは守りたいの」
「守るためにも今はこの村でゆっくりして欲しいのだよ」
「そうじゃな。私が守りたいと思うもののひとつはミナスが作ったこの村も含まれているからの」
「この村の雰囲気を楽しみゆっくりすれば、そのための英気も養われるのだよ」
「そうじゃな」
 アーデルハイトは頷く。
「近遠たちの疑問に答えてくれたことに感謝するのだよ。おかげで我らもこの村でゆっくり過ごすことができる」
「礼には及ばぬのじゃ。お前らもまた私の守る対象なのじゃから」

 イルミンスールの大魔女はそう言って笑うのだった。