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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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第12章 イルミンスールの祭典 Story5

 天井での作業がまだ途中で見張りが手薄なのが気にかかったのか、和室に寝転がっていた者たちは日が昇る前に目が覚めてしまった。
「うぅ〜…、あんまり眠れなかったー…」
 ルカルカは疲れきった身体を無理やり起こし、大あくびをする。
「んー?まだ4時じゃないの…」
「セレンフィリティ、おはよう!」
「おやすみー…すやすや」
 壁掛けの時計を見るなり、セレンフィリティは枕にしがみつく。
「ありゃりゃ!?」
「もう、セレンったら。起きなさい」
 しかし恋人は枕を手放さず、“えー何でよ、まだ真っ暗じゃないの…”などと言い、2度寝しようとする。
「―…朝ごはん、なくなってもしらないわよ?」
 そのセレアナの一言であっさりと飛び起き、“私の分とっておいて!”と叫んで食堂へ直行した。
「む…朝か」
「おはよう淵♪…ほぇ、ダリルとカルキは?」
「おらぬのか?」
「先にカフェで作業しに行くって言ってたわ」
「はやーい!ルカもいかなきゃ」
「私は朝食を持っていくから、先に進めてて」
「お願いね♪さーてと、お仕事頑張らないと!」
 和室を出て行くセレアナを見送り、ルカルカは淵とカフェへ向った。
 そこには作業監督のエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の姿もあった。
「ルカルカさん、おはようございますぅ〜。設置だけは、今終わったみたいですよぉ〜」
 仮眠程度の睡眠しかとっていないのにも関わらず、ダリルとカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が封魔術の基礎部分を完成させていた。
 といっても、ルカルカたちも3時間程度しか寝ていないため、起きた時間はさほど変わらない。
 次なる作業工程に入る前、タイミングよくセレアナが朝食を運んできた。
 食事はエリシアたちがヴァイシャリー駅で調達した駅弁だった。
 あっとゆうまに食べきり、温かいお茶を手にエリザベートの説明を待つ。
「基礎が終わりましたので〜。これから、コードのコーティングを始めてもらいますぅ」
 他の生徒たちが入らないように扉を閉じ、口頭で第2工程について話し始めた。
「まず大地、光、火の宝石の順に詠唱してもらうのですがぁ〜。今日分の用紙をお渡しするので、この通りにお願いしますねぇ」
「使い終わったら燃やしたほうがいいの?」
 外部に情報が漏れないよう、完全に消滅させたほうがよいのかとセレアナが言う。
「はぁ〜い。他の不要なものと混ぜて捨てるので〜」
「了解よ」
「次に裁きの章と、風の宝石、哀切の章の力を指輪の宝石へ注いでもらいますぅ。それが終わったら、それぞれの魔力を大地の宝石で循環定着させるように、してくださぁ〜い」
「循環…?え、どうやって…」
 用紙と睨めっこしても理解しきれず、セレンフィリティは頭がパンクしそうになる。
「それも用紙に書いてあるので、やってみてくださぁ〜い♪最初の手順だけ、私が見ててあげますぅ〜」
「わ…、分かったわ」
 セレアナに“しっかりしなさい”と背中を撫でてもらい気を落ち着かせる。
「―…俗の世を依り代とし、等しく地を行き交うものとなれ。導の地は、陽が灯す先へ広がり……」
「ストップですぅ!宝石の気が、媒体のほうへ流れてませんよぉ〜」
 アークソウルはしっかりと輝きを見せているものの、コードに取り付けた指輪の宝石には何も反応を示さない。
 正しく大地の気を供給できていない様子を見て、エリザベートが止めた。
「いつも使ってる通りじゃ、力を送ることはできません〜。対象物へ流すような感覚でお願いしますぅ」
 言葉でいうのは簡単だが、“無理言わないでよ…”と言いたげにセレンフィリティは眉を寄せた。
「頑張ってセレン」
「もう一度やってみる」
 ほんの僅かの間だけ恋人の腕の中に顔を伏せ、元気をもらった彼女は再度ペンダントに手を当てた。
「天井に近づいたほうがやりやすいと思いますが〜。それだと周りに注目されてしまいますからねぇ。明日は一般客もいるので、私たちしかいない今日のうちに慣れてくださぁ〜い」
「(やつらが侵入してくるなら、あまり目立つことはできない…。今日のうちに習得してみせる!)」
 セレンフィリティは精神を集中させ、また最初から詠唱を行う。
 エレメンタルケイジのアークソウルが緩やかに輝くと、能力を持たない指輪の大地の宝石が淡く光り始めた。
 大地の気が媒体へ入り込みコードの中を流れていく感覚が、魔道具に触れている手を通して伝わっていく。
 祓魔師を学ぶ前に普段手にしていた物質的な質量と異なり、重量感のない非物質という世界に触れている不思議な感じだった。
「上手にできましたねぇ♪とまぁ、こんな感じでお願いしたいですぅ〜」
 第二工程の初めを見届けたエリザベートは満足そうに、ぱちぱちと拍手した。
「今日1日、その用紙の通り繰り返し行ってくださいねぇ」
「これずっとやるの…?」
「はぁ〜い♪私はまた、教室の様子を見に行くので〜。また明日、次の段階を行いましょう〜」
 そうにこやかに言い、テスカトリポカの同一化を行う教室へ駆けていった。



 カフェ班はアークソウルの工程が終わり次の項目へと進んだ。
 光の宝石使いであるセレアナの番となり、手渡されていた用紙の詠唱ワードを確認する。
 小さな声で何度も繰り返して読み、しっかりと暗記したセレアナは恋人から渡されたバトンを無駄にしないように挑む。
「古き衣は洗われたり…、新たな命を持って砂の一粒すら灯す…。道行く先に、燃ゆる業火の池…吹き荒れる道が現れようとも、我らが汝を果てへ導こう」
 セレアナが言葉を紡ぐ度に、光の魔力を秘めた宝石の輝きが強まる。
 次なるバトンをつなごうとメンバーを見るが、火の属性を持った宝石を持つ者が見当たらない。
「え、これで全員よね?」
「大丈夫、見つけてきたわよ♪」
 眠気覚ましに共同の洗面所へ行っていたルカルカが偶然ベルクを発見して連れて来たのだった。
「おい、俺はカフェ担当じゃないぞ」
 ベルクのほうは顔を洗いに起きただけだったが、幸か不幸か彼女に見つかり、カフェへ引っ張られてしまった。
「協力してよ、今日はこっち足りないの」
「今日はフレイ起きそうにないし…まぁいいか」
 エリドゥに帰還したその日から、封魔術の準備やらで大忙しで疲れきりフレンディスはまだ夢の中だ。
「これ、今日分のエリザベートからの仕事ね」
「はいはいっと。…次どこだ?」
「火のところね。見えるか分からないけど、天井のコードに指輪があってね。そこに宝石があるんだけど、その火の魔力を持ったものに魔力を送り込むんだって」
 エリザベートからもらった用紙をベルクにも見せる。
「あー。カフェのほうは天井につけるとか言ってたな。人がいないならまぁ…やるか」
 眠そうに髪をぐしぐしとかきあげ、首から下げたペンダントに手をあてた。
「―…現れたる業火の池は…、道を探す者を試すものなり。否、その身を焼くことなく、渡らせるもの。その身に受けられず、天命を待つのならば…。ひたすら恵みの露を願い、導きを得よ……」
 意識を集中させるとフレアソウルが赤々と光り、それと共鳴するように火の魔力を持つ宝石だけでなく大地・光の属性のものがさらに強く輝く。
 詠唱を終えた瞬間、大量に精神を持っていかれたかのように、がくっと膝をついてしまう。
「―……っ!?…な、急に力が…」
「え、私とセレンは大丈夫だったのに?」
 そんなにも消費するものなのだろうかと、驚いたセレアナが目を丸くした。
「たぶんだけど、エリザベートに使い方を教わったからじゃないの?」
「うーん、それもあるのかしらね、ルカルカ」
 聞いてないだけでそんなにも差がでるのかと腕組をして考え込む。
「えっと次はルカがやるね♪」
 裁きの章のページをぺらぺらと捲り詠唱の準備をする。
「…恵みの雨の兆し、天を遮る曇天一つなし。予期せぬ露が…汝が行く大地を潤し、燃ゆる池を静めるだろう…。恵みの池となり、木々を育み…さらなる道が示される」
 魔の守りを削ぐ霧雨はコードの真下までしか降らず、よく目を凝らしてみて見ると媒体にじんわりと溶け込んでいっている。
「不思議ね…ここまで降ってこないなんて」
「いつもと違って、下まで降らせる必要ないからだろ?」
「かもしれない…。エリザベートが言った通りをイメージしたからね」
 手を広げもやはり雨粒1つ落ちてくることはなかった。
「う、…何でかな。ちょっとだけふらふらする」
「2順目はさらに疲労するかもしれないぞ、ルカ。安定定着するためには前の魔力を纏めるように、循環させなくてはならないんだろうからな」
「え、ダリル。そんな説明はっ」
「言わなくとも、分かりきったことだろうと思われたんだろう?」
 貰った用紙を読み返すルカルカの頭を、ぽんぽんと叩き疲労の負担が大きくなるは仕方ないと告げた。
「これはアイデア術とは異なるからな。何人かと同じ種類のものなら、軽減されるんじゃないか?」
「じゃあ同時に唱えればいいのね♪」
「ふむ。俺とカルキ、ダリル、コレット殿の4人ならばよいか?」
「だな。ルカは次まで休んでおけ」
 かなり精神力をもっていかれたせいで、配分を合わせづらいだろうと思い、カルキノスはルカルカへイスを寄せた。
「おっと。その前に…風か」
「へいへい…」
 “貧乏クジが多い”と心の中で呟きつつ、エアロソウルの風の魔力を媒体へと注ぐが…。
 …案の定、酷く消耗していまい床にへたりこむ。
「今思ったんだが、火と風って俺だけじゃないか?」
「うん、今日1日お願い♪」
「(はぁ〜……ホント戻りたい)」
 可愛らしい返事だけ返され、フレンディスの元へ逃走する手段が見つからない。
「校長が1日がかりと言っていたからな。疲労のことを考えてのことだろう」
「よーし、あたしも頑張らないと…っ」
 へたばっているベルクの傍ら、コレットは元気いっぱいに拳を握る。
「タイミングを合わせて唱えるんだよね?」
「本来1人分の配分を4分割する感覚にするのだ、コレット殿」
「4……。難しそうだけどやってみるよ」
 互いに視線を合わせて呼吸を整え、ハイリヒバイベルの哀切の章を開いた。
『…古き衣を捨て…新たな道を選択し……、風の音する先で、旅先の終焉を迎える』
 彼らは声を合わせて唱えると、魔を祓う力は祝福の小さな星のかけらのようになり、媒体へ降り注ぐ。
『終焉の地で、天高く昇った陽が…汝を照らす。…休息の都にて、心身を癒す汝に…安息を与えよう』
 続きの言葉を紡ぐとコードの中に1本の筋が巡回を初め、詠唱を終えたとたん光の筋は…ふっと溶けるように消え去った。