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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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第16章 イルミンスールの祭典 Story9

 テスカトリポカの儀式が始められていた頃。
 封魔術を行う班はラスコットの指示の元、媒体の強化が着々と進行していた。
「何回繰り返せばいいんや、マジきっつい…」
「うーん、後10回くらい?」
「いやいや、ちょっと休ませてほしい」
 これ以上、無茶ぶるなと言いたげにかぶりを振り、陣は床に座り込んでしまった。
「七枷 陣。カフェのほうは20回ほど終了したようですわ」
 携帯のメール連絡を受けたエリシアが、下の階での作業の進み具合を伝える。
「ひぃいいいい、ルカルカさんたちペース早すぎや!」
「文句言わないで働こうか、陣くん♪」
「おまっ、何でそんな元気なんやリーズ」
「陣くんがもっと頑張れるようにセーブしてるから?」
 どうも負担の感覚がおかしいと思ったら、カノジョが制御している分を担っていたようだ。
 連日の疲れで激昂しそうになったが、回りの目もあるため怒りを静めるしかなかった。
「カフェ担当には少し休息をとってもらうように伝えましたわ」
「さ、さんくすエリシアさん」
 魔道具の使用疲れもあってか、暑さにたまらず扇風機の風にあたる。
「プリン冷たくって美味しいね、ルルディちゃん」
 エースやエリシアと同じく、今日は何もすることがないノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は、ルルディを呼び出して極上プリンを分け合っている。
「―…プリン」
「へ!?な、何っ」
 殺気にも似た陣の視線に、ノーンはびくっと身を震わせてルルディにしがみつく。
「いくらプリンがムカツクからって、食べ物のほうを睨まないでよ陣くん。ほら、ご飯食べよう。…ふぅ、涼しいー」
 リーズは陣に昼食のインスタント飯を勧め、自分も扇風機の風に癒される。
「早くもインスタントなんか」
 朝食はちゃんとした弁当が用意されていたが、午後からはインスタント飯に切り替わってしまった。
「ほらほら、作業再開して」
「なぁ、もーちょっと休んでもいいんやない?」
 1時間休憩もないことに、ラスコットに詰め寄り苦情を言う。
「こっちが進まないと校長がねぇ」
「すぐおこだおーぷんぷんにならんやろ」
「いやー、なったら手がつけられないからさ」
 へらっと笑い、問答無用で作業するように促す。
 陣が逆らっても誰得…なため、しぶしぶ憩いの場から離れた。
「もーちょい、負担を分散したほうがいいみたいやね。リーズ、アーク使った後ホーリーのほうもいってくれ」
「うぇー…」
「うぇ〜じゃないっつーの!オレも全部の工程はできんからな…。てことで、涼介さんとミリィさん。うちのリーズ頼んま」
「分かったよ、陣さん」
「もうひと頑張りしましょう」
 彼らが攻め込んでこないうちに、第二工程を済ませてしまおうとミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)は、光の魔力を宿した宝石の傍に座った。
 至近距離ならば負担も軽く、少しでも早く終わらせるためには媒体の近くで行ったほうがよい。
 普段、魔道具の能力を引き出す時も、近くのほうが効力も与えやすかった。
 授業や実戦で学んだ知識を活かし、涼介や仲間にも媒体の傍へ寄るように言う。
 父よりも学ぶ時期は遅かったが、扱うセンスは彼に引けを取らないほどに成長していた。
「最初は大地の気からでしたね、リーズさんソーマさんお願いしますわ」
「うん!」
「のんきに休んでなんかいられないな」
 疲れ知らずなのかリーズとソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)は、ミリィの声に早々と作業に取りかかった。
「―…俗の世を依り代とし、等しく地を行き交うものとなれ。導の地は、陽が灯す先へ広がり…汝の導となるだろう……」
「その灯り…碧玉の恵みに等しき休息の地へつながる希望となる」
 アークソウルは2人の言葉に応じ、指輪の宝石と反応し合い琥珀色に光る。
 魔力の定着のベースが整ったのを見て、ミリィたちはすぐさま詠唱にはいる。
「古き衣は洗われたり…、新たな命を持って砂の一粒すら灯す」
「道行く先に、燃ゆる業火の池…吹き荒れる道が現れようとも…」
「……我らが汝を果てへ導こう」
 彼らの言葉に応えた宝石たちが淡い白真珠色に点灯する。
「次は火の宝石ですね、陣さん」
「オレたちの番やね」
 十分休めるように気をつかってくれたのか、ゆっくりと進めてもらったおかげで、陣の活力が戻った。
 フレアソウルの行使を行うと、反応し始めた媒体は火の色へと変わる。
「―…現れたる業火の池は、道を探す者を試すものなり…」
「否……、その身を焼くことなく、渡らせるもの」
「その身に受けられず、天命を待つのならば…。ひたすら恵みの露を願い、導きを得よ……」
 雨露の奇跡に繋げるべく、地を照らす陽の元を与える。
 駆動を続けている祓魔の力を引き継ぐため、北都とフレンディスが裁きの章のページを開き待っていた。
 フレンディスはベルクがカフェで苦労してた朝方、その2時間後に目覚めていた。
 彼と連絡を取り、宝石の使い手が足りないため夕方までは別行動となった。
「恵みの雨の兆し、天を遮る曇天一つなし」
「予期せぬ露が…汝が行く大地を潤し、燃ゆる池を静めるだろう」
「恵みの池となり…」
「木々を育み、さらなる道が示される」
 北都はジュディ、カティヤ、磁楠、フレンディスと声を合わせ、酸の雨を徐々に広げていき封魔術の陣へ降り注がせる。
「何度か続けましたけど封魔術とは、祓魔の能力を変化させる感じなのでしょうか。もしくはまったく同じもの…?」
 魔道具を通して発動させるということはやはり、同質であり呼び方を変えたようなものなのかと、呟きながら考える。
「そうじゃないかな?陣さんたちの後、次はリオンの番だから準備してね」
「あっ、はい!」
 パートナーの声に気づき、閉じてしまったハイリヒ・バイベルを開くと、エアロソウルの行使が始まっていた。
「透徹れる命の池、奇跡の風が大地へ運びて河となり、道行く旅人の命を幾日も潤す糧となる」
「河は…木々をさらに育み、生を守り繋ぐもの…」
「…都への道は、この風が次なる導となろう。育まれた糧を持ちて終焉までの命とせよ」
 まるで本当の旅人を案内するかの如く、エアロソウルの柔らかな風は媒体のほうへふわりと流れていく。
 邪の力から逃し守るように、それが歩んでいく“コード”を優しく包み込んだ。
 彼らが詠唱を終えたタイミングを見計らい、今度はリオンたちが哀切の章による終焉を演じる。
「―…古き衣を捨て……」
「新たな道を選択し…」
「風の音する先で、旅先の終焉を迎える」
「終焉の地で、天高く昇った陽が…汝を照らす」
「休息の都にて…、心身を癒す汝に安息を与えよう」
 約束された終焉の地に到達したそれらは、コードの中で循環を開始し、ぐるりと1週したところでフッと消えていく。
 12順目を終えて安心するのも束の間、また始まりの道を演じるのだった。