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第四回葦原明倫館御前試合

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第四回葦原明倫館御前試合

リアクション


三回戦

   審判:プラチナム・アイゼンシルト

○第一試合
セリス・ファーランド 対 エリシア・ボック

『葦原の御前試合に出場するそうですね。エリシアのお土産話を楽しみにしています、頑張ってください!』
 こんなメールが届いたのは、エリシアが葦原島に来てすぐだった。差出人は御神楽 陽太(みかぐら・ようた)。エリシアのパートナーにして、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)の夫、そして一児のパパである。子育てが忙しいらしく、応援には来られないということだが、エリシアは構わなかった。
 優勝して、二人と、そして彼らの娘にいい報告をしたいものだと思っていた。

 セリスの振り下ろした木刀を、エリシアは僅か三寸ほどの距離で躱した。観客からは、エリシアに当たったように見えたろう。その木刀が地面に到着する直前に、今度はエリシアがセリスの喉元を突いた。
 が、これは身体を捻ることで躱された。
 セリスがくるり、と一回転するのと、エリシアの木刀が手元に戻り、再び繰り出されるのがほぼ同時だった。
 エリシアの木刀を掻い潜り、セリスは彼女の膝へ横殴りに得物を叩きつけた。
「わたくしもまだまだですわね。とは言え、全力で挑んだ結果ですし悔いはありませんわ」
 痛みを堪えながら、エリシアはセリスに握手を求めた。悔し紛れの言葉ではない。本当に、彼女はそう思っていた。ただ、陽太たちに勝利の報告メールを出せないことだけが、残念だった。

勝者:セリス・ファーランド


○第二試合
夏侯 淵 対 ダリル・ガイザック

「まさか、おまえと戦うことになるとはのう」
「勝ち続ければ、いずれやり合うことになった。早いか遅いかの違いだ」
「このまま進めば、どちらかがルカと戦うこともあるかな?」
「可能性はな」
 淵とダリルは目だけを動かし、観客席を見た。自分もまだ試合を控えているというのに、ルカルカ・ルーがカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)と共に応援している。
「ならば、がっかりさせないよう、本気でやりあうか」
「そうだな」
 二人はにやりと笑って、試合会場へと出て行った。

 共に間合いの大きい武器なだけに、観客はより集中力を強いられた。片方を見ている間に、相手が攻撃を仕掛けるかもしれないからだ。
 先に動いたのは淵だった。的を定めさせないように素早く移動する。しかし、仲間だけにダリルは行動パターンを熟知していた。彼の放った弾は、淵の腹部に命中した。
 だが同時に淵も矢を放っていた。銃を撃った直後、一瞬無防備になった状態で、ダリルの頭に矢が当たる。吸盤のせいで額に矢を付けたまま――という些か――いや、かなり間抜けな状態に、淵は思わず笑みを零す。
 それがいけなかった。その一瞬の隙を突き、再びダリルが引き金を引く。
 今度は、淵の額にダリルの弾が命中した。それもど真ん中に。
「あちゃ……」
 淵は額に手を伸ばした。指先にべったりとインクが付く。そして気が付けば、会場は笑い声で満ちていた。
「これは俺じゃないと思うぞ」
「……言うな」
 額の矢を引っ張り、ダリルは嘆息した。
「どうも今日の試合は、こんなのばかりだな」

勝者:ダリル・ガイザック


○第三試合
エメリヤン・ロッソー 対 ディアナ

「お、っっっす! よろ、しく、お願いし……まっす!」
 エメリヤンが彼にしては目いっぱい元気よく一礼したが、対戦相手のディアナは何も応えない。仮面の下でどんな顔をしているのかも分からない。
 戦いぶりは冷静だが、残酷なことはしていない。決して悪人ではない、とエメリヤンは判断した。であれば、――いや、そうでなくても――エメリヤンは正々堂々と戦うのみだ。
 ふわり、と飛び上がったエメリヤンは、ディアナの背後を取った。と、そのとたん、崑崙旗袍のスリットから垣間見える引き締まった太ももが素早く動いた。パシッ、と音がして、エメリヤンは転がった。そこに、ディアナの拳が叩き込まれる。
 だがディアナの拳は、地面を抉っていた。分身を使って逃れたのだ。
 ディアナは素早くエメリヤンを探した。だが目に映ったのは、エメリヤンの長いマフラーだけだ。ディアナが彼を認識するより速く、エメリヤンは二メートルを超す身長を利用し、頭突きを食らわせた。
 パンッ、と乾いた音が響く。仮面の中央にヒビが入り、見る見るうちに真っ二つに割れると、欠片は左右に落ちた。
 誰かが声を上げた。仮面の下から現れたのは、ティアン・メイ(てぃあん・めい)であった。
「正体が知られてしまっては、仕方がないわね」
 ティアンは微笑んだ。「私の負けよ」
 プラチナムが、判断を仰ぐよう、ハイナを見た。ハイナは静かにかぶりを振り、プラチナムも頷く。
「すぐにこの場を立ち去れば、不問に付します」
「いいの?」
 プラチナムは再び頷いた。
「それじゃあ、遠慮なく」
 お尋ね者のティアン・メイは、堂々と選手用通路から出て行った。無論、すぐに警備の人間が後を追ったが、その時には彼女の姿は消えていた。
「仕方ありません」
と、後でハイナは言った。「一般人が多くいる会場で、騒ぎを起こすわけにはいかんせん。それに――あの者も、単に腕試しがしたかっただけでありんしょう?」
 事実、ティアンは何もしなかった。冷静に、ただひたすら、拳を振るっただけだった。

勝者:エメリヤン・ロッソー