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第四回葦原明倫館御前試合

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第四回葦原明倫館御前試合

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○第十五試合
フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)(葦原明倫館) 対 北門 平太(宮本 武蔵)(葦原明倫館)

「おう、小娘。俺の相手は貴様か、楽しめそうだな」
 常にない平太の口調と目つきである。既に武蔵が憑依しているらしい。
「まさか、武蔵さんと戦えるとは思ってもいませんでした」
「くじ運がいいんじゃないか?」
 にやり、と平太(武蔵)は嗤うと、木刀をフレンディスに突き付けた。
「小僧の身体を慣らさねばならん。そろそろいくぞ?」
「いざ尋常に勝負です」
 忍び刀サイズの木刀をすっと逆手に構え、フレンディスは音もなく地面を蹴った。平太(武蔵)はするすると後退しながら、フレンディスの小手を打つ。痛みにも、彼女は眉一つ動かさない。
「いい根性だ」
「……早々に決めさせて頂きます」
 フレンディスと平太(武蔵)の足が同時に止まった。ふっとフレンディスの姿が消える。
「む――そこか!?」
 冷気を纏った木刀を、平太(武蔵)は己の足元に突き立てた。溜まらず、フレンディスが姿を現すが、ポイントは取られなかった。
 飛び出してきたフレンディスに平太(武蔵)は木刀を叩きつけようとしたが、同時に彼女の掌底が顎を強く打った。
「――!!」
「おおっとぉ、両者相打ち! これは先に立ちあがった方が勝ちだ!」
 倒れた二人に、観客席から声援がかかる。ベルク・ウェルナートも、ジブリール・ティラも声を限りに応援する。
「武蔵さんっ、しっかりするのです! 鈍くさも!!」
 その声に、ベルクは振り返った。今のは、紛れもなく――。
 その時、声援が一際大きくなった。平太(武蔵)が立ち上がったのだ。フレンディスはまだ、倒れたままだ。
「アイタタ……結構、効いたぞ、娘」
 顎を擦りながら、平太(武蔵)は笑った。「いい勝負だったな。また、やろうぞ」
 フレンディスは夢の中、はいと返事をしたのだった。

「危ない危ない……」
 忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)は慌てて通路へ逃げ出した。
 フレンディスと武蔵が出場すると聞いてわざわざ応援しに来たのだが、まさか二人が戦うとは思ってもいなかった。家出中の身ゆえ、目立つことはしたくなかったが、つい声を張り上げてしまった。フレンディスでなく、武蔵を応援した理由は自分でもよく分からない。
 平太と武蔵、二人分を心配しているからかもしれない、とポチの助は思った。

勝者:北門 平太(宮本 武蔵)


○第十六試合
クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)(薔薇の学舎) 対 カタル(葦原明倫館)

 その少年が登場したとき、試合会場に漂ったのは戸惑いとどよめきだった。
 呪の綴られた布で右目を隠した少年――。それは二年前、この葦原島をミシャグジの恐怖から救い、そして人々を別の恐怖に叩き落とした張本人であった。
 英雄と悪魔。二つの相反する称号を彼は持っていた。
「久し振り。まさか、試合に参加するとは思わなかったよ」
「ええ。一応、明倫館の生徒ですから」
 カタルはこの春から、明倫館に通うようになっていた。一族の居場所が失われた今、ハイナの傍にいるのが一番安全だろうと彼女と房姫が判断したのである。
「勇気がある」
 人々の視線に恐怖が色濃く混じっていることは、クリストファーにもよく分かった。
「仕方ありません」
 カタルは微笑んだ。強がっているようにも見えない。全てを受け入れ、少年は己の道を歩み始めていた。
「じゃあ、みんなに見せてやろう。今の君が、どういう人間なのか。そしてついでに、ドラゴンライダーからドラグーンにクラスアップした力を見せてやろう!」
 カタルは棒を構え、試合開始と同時にクリストファーの足元を狙った。クリストファーは木製のスピアでそれを弾き返し、そのまま振り下ろした。カタルは弾かれた棒を、中心を支点に回転させ、クリストファーのスピアを受けると、そのまま鳩尾を狙って突き入れた。
「くっ……! やるな!」
【百獣の王】でダメージそのものは大したことないが、今のは確実にポイントを取られた。取り返すためには、一撃必殺の技に賭けるしかない。
 クリストファーはぐっとしゃがみこみ、力を込めて飛び上がった。眼下のカタルに狙いを定めて――そのつもりが、カタルは、クリストファーの前の前にいた。
「すみません」
 何を謝るのか。カタルはクリストファーより遥か上に行き――実際には、クリストファーが降下し始めていたのだが――、手にした棒をその頭上に叩きつけた。

「強くなったんだな」
 コブの出来た頭を撫でながら、クリストファーはカタルの手を借りて立ち上がった。
「守られてばかりでは、いられませんから」
 考えてみれば、無意識状態だったとはいえ八十キロを超えるクリストファーを引き摺ったこともあるほどだ。潜在能力は高かったのだろう。これまでの経験や、明倫館に入ったことで、実力がついてきたに違いない。
「よかったじゃないか。――ほら」
 いつのまにか観客は、二人の試合に見入っていた。誰もかれもが手を叩き、カタルとクリストファーの名を高らかに呼んでいる。
 ――許されたのでしょうか。
 カタルは呟いた。
 そうだとは答えられなかったが、きっと、とクリストファーは思った。

勝者:カタル