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リアクション
○第七試合
セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)(葦原明倫館) 対 奇稲田 神奈(くしなだ・かんな)(蒼空学園)
奇稲田神奈は怒っていた。
なぜとなれば、許婚であるドクター・ハデス(どくたー・はです)が自分ではなく、ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)に付きっきりだったからだ。――単にパワードスーツの整備をしていただけだが。
「別に、応援してほしいとかそういうことではないが……」
ぶつぶつ言いながら通路を歩き、試合場へ向かった。わっと観客の声が出迎える。
「こうなったら、この御前試合、今回こそ、わらわが優勝し、ハデス殿に褒めてもらうとしよう!」
だがしかし。
勢いよく振り下ろされた二刀は、二人の頭上で激しくぶつかり合った。めきり、と音がしたが、構わず、セリスの足元目掛けて大きく降り下ろす。
「何の!」
セリスは素早く後ろへ下がった。神奈はセリスを追いながら、二刀を再び振り上げる。
「受けてみよ、奇稲田流剣術奥義、必殺、十文字――!」
技の名は、最後まで言えなかった。セリスの木刀が神奈の足の甲を強かに打った。勝負はそこで終わったはずだが、プラチナムの制止も聞かず、神奈は二刀を振り下ろした。
地面に叩きつけられたそれは、あっさりと砕け、神奈は己の敗北を悟った。
勝者:セリス・ファーランド
○第八試合
霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)(葦原明倫館) 対 正義の騎士セレーネ(一般参加)
「正義の騎士アルテミス……じゃなかった、正義の騎士セレーネ、悪のオリュンポスの野望を打ち砕くため、参上しました!」
目元を隠した正義の騎士セレーネの名乗りに、あーあれね、というため息にも似た声が漏れる。次の試合に向け、観客席にいたドクター・ハデスのみが腕を組み、厳しい目つきでセレーネを睨みつけている。
つまりは彼以外、セレーネの正体がアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)であることは周知の事実であるわけだが。
もっとも対戦相手である康宏にとってはどうでもいい話で、彼はただ、己の実力を知るために参加していた。
アルテミスの大剣を、康宏は薙刀で払う。
「まだまだあ!」
康宏は続けて、くるりと回転させた石突でアルテミス――いや、セレーネの顎を狙った。が、これは彼女が後ろに身を逸らしたことで躱された。
「だったら運試しだ」
康宏は拳を鳴らした。一度、二度、三度。八卦の呪符で作られたバンテージの文字がくるくると変わる。
「させませんよ!」
文字が揃えば負ける――セレーネは咄嗟に察し、木刀を振り下ろした。
一つ目の文字が出た瞬間、決して軽くはない康宏の身体が吹き飛び、試合場の塀に叩きつけられた。
気が付いたのは、医務室のベッドの上だった。高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が心配そうに顔を覗き込んでいる。
「ただの打ち身ですけど、しばらく痕が残るかもしれません」
康宏は下半身を包帯でぐるぐる巻きにされていた。結和に手伝ってもらいながら上半身を起こし、康宏は嘆息した。
「はー、やっぱり一人で戦うのは大変だなー」
実力と、仲間の有難味を実感した試合だった。
勝者:正義の騎士セレーネ
審判:紫月 唯斗(葦原明倫館)
○第九試合
マネキ・ング(まねき・んぐ)(葦原明倫館) 対 ペルセポネ・エレウシス(蒼空学園)
「続けての試合は、【諸悪の根源】マネキ・ングVS.【裸のおねーちゃん】ペルセポネ・エレウシスだああ!」
プラチナムと審判を交代した唯斗が、一際高いテンションで紹介をする。
「裸じゃありませんっ!!」
実はペルセポネ、パワードスーツを着用するつもりでいたのだが、整備中のところを見咎められ、装着に必要なブレスレットを没収されてしまったのだ。
「これでは裸同然ではないかっ!!!」
とドクター・ハデスが怒ったが、殺傷能力のあるパワードスーツ着用を許すわけにはいかないのである。
というわけで、ペルセポネは裸ではないが制服を着て試合に臨んでいた。ほとんど全く一般人と変わらぬペルセポネは、半泣き状態のまま、木刀を構えた。
幸いなのは、目の前の対戦相手が、僅か三十三センチほどの招き猫だった、という点だろうか。
「さぁ! 我がアワビ養殖で鍛えた繊細かつ豪快な拳技を受けるがいい!」
とっとっと、とマネキがペルセポネへと突撃する。清々しいほどの真正面攻撃だ。というか、なんか可愛い。
「打つべし! 打つべし! 打つべし!」
「あわわわわ!」
避けるために振り下ろした木刀が、ぽかんとマネキの脳天を打った。だがマネキは怯まず、突進してくる。二発目はどうにか木刀で凌いだが、トドメとばかりに飛び上がった三発目は胸に当たった。むにゅ、という感触にマネキは、顔を顰めた。
「む?」
「いやあああ!」
ペルセポネの絶叫が響き渡る。彼女は手にした木刀で、目の前の敵をひたすらに殴りつけた。
「いや今のはただの事故――そんなになかったし!」
マネキの言い訳も聞こえていない。とにかくひたすらぼかすか殴り――唯斗が慌てて止めたときには、マネキの顔は二目と見られぬほど腫れ上がっていたという。
勝者:ペルセポネ・エレウシス
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