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リアクション
★ ★ ★
「こっちです、こっちー。早く連れていってくださーい」
宿り樹に果実のテラス席で、ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)が梢の間を飛ぶ黒鋼にむかって手を振りました。
「任せてよ!」
黒鋼の上に乗ったヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)が、ミリア・アンドレッティに答えました。
四季屋で受けた依頼は、イルミンスールの枝に迷い込んだ家畜の回収です。家畜と言っても、魔糸を作るための蚕ですが。
アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)からの依頼ですが、本来はイルミンスール魔法学校の生徒をこき使えばいいようなものです。けれども、最近は24時間密着だとかマスコミがうるさいので、ヘタな取材を受けないように適当に外部へ依頼を出したら、たまさかヴァイス・アイトラーたちがそれを拾ったということのようでした。
「セリカ、ラフィエル、コンテナの準備はいい? 今からそっちへ追い込むからよろしくね」
パートナーたちに声をかけると、ヴァイス・アイトラーが枝の上にいる蚕にむかって接近していきました。
「おう、いいぞ。ちゃっちゃっと頼むぜ!!」
下方の枝の上においたコンテナの蓋を開いて支えながら、セリカ・エストレア(せりか・えすとれあ)が大きな声で叫びました。
「きゃっ、セリカさん、声が大きいです」
思わず耳を押さえながら、ラフィエル・アストレア(らふぃえる・あすとれあ)が精一杯の声で叫びました。
「何を言ってやがる。ちまちました声じゃ、ヴァイスに聞こえやしねーだろーが!!」
前にも増して大きな声で、セリカ・エストレアが言い返しました。いえ、こちらは近いのですから、もうちょっとボリュームを下げてほしいラフィエル・アストレアです。
「いっくよー」
そう合図をすると、ヴァイス・アイトラーが蚕の下に黒鋼の大顎を差し入れました。そのまま、ポーンと空中に蚕を跳ね上げます。
「来ます、来ます。芋虫、きゃー!」
バタバタと手を振りながら、ラフィエル・アストレアが叫びました。巨大昆虫である黒鋼にもびっくりさせられましたけれど、さらに蚕です。ムシムシ大行進です。とっても怖いというわけではありませんが、さすがにちょっと……。
「はははは、いい球筋だぜ! ほいっ!!」
パワードアーマーの力を使って、セリカ・エストレアがコンテナを少しずらしました。そこへ、ポンと蚕が飛び込みます。
一見乱暴にも見えますが、コンテナの中にはすでに何匹かの蚕が入っているのと、蚕自体ぷよぷよなので怪我などはしないようです。
「よっしゃあ!! どんどんいくぜ!!」
セリカ・エストレアの雄叫びと共に、ヴァイス・アイトラーが枝々に散った蚕をポンポンと飛ばしてきました。ほどなくして、目につく場所にいた蚕は全て集められました。
「よっしゃあ、一休みするぞ。さっさとついてきやがれ!」
セリカ・エストレアにバンとお尻を叩かれて、ラフィエル・アストレアがまた小さく悲鳴をあげます。どうにも、まだこの雰囲気には慣れません。
「これで全部みたいだね。お疲れ様」
枝の上にとまった黒鋼に餌のゼリーを与えてきたヴァイス・アイトラーが、セリカ・エストレアたちに声をかけました。
「お疲れ様です。お弁当ありますよ」
宿り樹に果実のテラス席で、ラフィエル・アストレアがテーブルの上にお弁当を広げました。
「皆さんのお口に合うといいんですが……」
ちょっと不安そうに、ラフィエル・アストレアが言いました。
「んっ? ヴァイスと比べてもしかたがないぞ。どれどれ……」
いつも料理を担当しているヴァイス・アイトラーと比べてもしかたがないと言いながら、セリカ・エストレアがラフィエル・アストレアの作ったサンドイッチを口に運びました。いちおう、そのヴァイス・アイトラーがラフィエル・アストレアに教えてくれた料理なのですが……。
「んーっ……、ヴァイス、もうちっと頑張って教えてやってくれ」
そう言うと、セリカ・エストレアがヴァイス・アイトラーの肩をバンバンと叩きました。なんだか、全ては指導したヴァイス・アイトラーの責任になったようですが、ラフィエル・アストレアとしてはちょっと複雑な気分です。次回、頑張りましょう。
「それにしても、どうして、芋虫がこんな所まで上がってきたのでしょうか?」
「うしょ〜」
ラフィエル・アストレアがもっともな疑問を口にしたとき、上の方の枝で何か鳥のような鳴き声が聞こえました。なんだか、間の抜けた鳴き声です。
鷽です。
その直後、イルミンスールの枝の一つをカタパルトにして、何かが発進していきました。
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