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一会→十会 —魂の在処—

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一会→十会 —魂の在処—

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【10】


 それから――。
 ナージャの研究室にて、手術台の上に横たえられたツライッツの胸元をきちんと閉じ終え、ナージャは息をついた。
「もう入ってもいいよー」
 ナージャの言葉に、飛び込むとまでは行かなかったが、ハルカたちが心配した様子でドアを潜って部屋へと入ってきのに、ツライッツは胸元のボタンを止めながら、ようやく普段の彼らしい落ち着いた、それでいて少し申し訳なさそうな顔で頭を下げた。
「ご心配と……ご迷惑を、おかけしました」
「容態は安定したよ。もう殆ど、元通りって言って差し支えない」
 ナージャの言葉にほっと安堵のため息を吐き出して、台の傍へ寄った歌菜が「みっともない所を、お見せしてしまいましたね」と苦笑する普段どおりのツライッツの様子に、肩から力を抜いた。
「無事で本当によかった……!」
「ありがとうございます」
 見知った顔が、本当に安堵した顔を向けてくるのに、ツライッツの方もようやく気を許したのだろう、申し訳なさそうな様子で「あの」とおずおずと口を開いた。
「それで……ハインツ……ハインリヒさんは?」
 質問に対し、皆は少し気まずそうな表情を浮かべる
「羽純くんや豊美ちゃんたちが見ていてくれていますから大丈夫ですよ」
 そんな慰める様な言葉のなかに、敢えてハインツの状態を避けたのが見え、ツライッツは俯いた。感情の制御が戻ってきているため、我を忘れて取り乱したりはしないが、優れない顔色にアレクが一歩前に出る。
「履き違えるなツライッツ」
 と、アレクが砕けた調子を消して口を開いた。
「あなたは事件に巻き込まれた、ただの民間人だ。“さゆみとアデリーヌ、ハデス達と同様に”な。
 少佐は確かに重篤な状態にあるが、民間人を守る為に命をかけるのは、感情依然に我々の『義務』だ。
 今回の件であなたに非は無い、一切」
「……っ、……はい」
 ハインリヒの上官としてのアレクの説明は、ともすれば突き放したようにも聞こえるが、論理的であるが故に機械の頭には、理解し易い。だからツライッツは、ですが、と続ける言葉を飲み込んで頷いた。
 彼が自分の感情に折り合いを付けようとしていると、ユピリアが聞こえよがしに溜め息をついた。
「義務とか言ってるけど、でも結局のところ、あれよね」
 あれとしか言わなかったのに、皆はユピリアの言葉に頷いている。ツライッツが首を傾げるとユピリアはツライッツの前に仁王立ちした。
「愛でしょ!」
 その言葉に、ツライッツが一人、困ったような、申し訳なさそうな顔をしていたのに、ユピリアは軽く怒ったような顔でぴしり、とその指をツライッツに向けた。
「何よ、信じてないの?」
「いえ、そうではなく……俺は、だって、兵器ですから……」
 ハインリヒの言葉を信じていないわけではない。だが、受け取るべき自分の感情が、信じられない。そんな煮え切らない様子に「あのね」とユピリアは息をついた。
「貴方ハインツの事愛してるんでしょ」
「……それは、俺の中に、エラーが発生しているからで……」
 ハインリヒが与えてくれる愛情に対して発生する感覚は、ツライッツ自身の機晶姫としての役割から大きく逸脱している。それをエラーと言わずなんと言うのか、と、表情を暗くするツライッツに、ユピリアの呆れは更に増した。
「そんな言い方で誤摩化さないで、はっきり自覚したら?」
 突きつけられる言葉に、動揺しているツライッツに、ナージャが口を開きかけた時だった。

「皆さん、ご心配をおかけしました!」

 羽純とティエン、ジブリールを背後に、豊美ちゃんが彼女にしては元気過ぎるとも取れる声をあげ、ぺこり、と頭を下げる。
 そして、豊美ちゃんの横を抜けて入って来たのは――。
「……ハインツ、……!」
「ああ、急に動かないの」
 視界の端に、ハインリヒの姿を認めた瞬間、弾かれたように顔を上げたツライッツが、そのままの勢いで台から立ち上がろうとしたをナージャが制した。台の上へもう一度浮き上がった腰を下ろしてしゅんと肩を落とす様子は、主人に待てを命じられた犬のような有様だ。ポチの助が――そして何故かフレンディスが親近感を覚えてしまう程に。
「大丈夫なの、ハインリヒ君?」
 そんなツライッツをよそに、リカインが心配げに尋ねたが、ハインリヒはにこっと笑みを見せて手を振って答える。それで、ツライッツは僅かに安堵した様子を見せたが、その後ろではぼそりと羽純がため息とともに口を開いていた。
「さっき迄真っ直ぐ歩くのもままならなかった癖に」
「ツラたんの前ではかっこつけたいんだよな」
 アレクが羽純に教えた聞き捨てならない言葉を拾ってハインリヒは笑顔の侭「うるせえ」とアレクの背中を小突こうと拳を作る。だがアレクはその拳を指先でやんわり止めて無表情のまま呆れを声に出した。
「握るだけで痛んだろそれ」
 思いやりのある指摘を無視して拳を作り、アレクの腹を本気で殴って「黙ってろ」と言うように、ハインリヒは優雅な笑みを見せる。
 そんな彼らのやり取りは、ツライッツを心配して部屋に集まっていた仲間の影になって見えない。立ち上がる事をナージャに静止され、ツライッツはそわそわと落ち着きの無い様子でハインリヒの姿を皆の背中ごしに求める。
 そんな彼の心配げな眼差しに声をかけるのすら躊躇う内心を悟って、歌菜は少し怒ったような表情でハインリヒへ向き直った。
「あんまり無茶はしないでください。あなたが傷ついたら……万が一死ぬようなことがあったら、ツライッツさんがどうなるか……!」
「なんで?」
 対して、ハインリヒは心底不思議そうな顔で首を傾げた。
「クローディスさんが生きてれば、ツライッツは大丈夫でしょ」
 自分が死んだとして、何の影響も無い、と。そんなことを話す声のトーンすら変えず口にするのに、一同はぽかんと言葉を失った。冗談や、謙遜のようなものではなくて、さも当たり前のような口ぶりに、ハインリヒという青年に対して強い違和感が皆に生じ始めるより早く、ゴンっと痛々しい音が響いた。
 アレクが、無言のままハインリヒの頭に拳骨を振り下ろしたのだ。
 皆の目が点になっている間に、ハインリヒはアレクに口汚い何かを幾つか投げる。彼の言葉は部屋の殆どに聞き取れなかったのが幸いなくらいで、アッシュとフィッツが取り澄ました青年の吐いた言葉のその酷さに忍んでいた苦笑の声を漏らしてしまう。
 と、その声に被さりながら、今度はナージャが盛大な溜め息を漏らした。ハインリヒの方を向いた彼女の顔は「まるで判っていない」と言いたげだ。
「あのね、エラー君。そのクローディスさんっていうのはあくまで彼のマスターなんだよ、判る?」
「分かってますよ」
 即答したハインリヒに、アレクが「分かってない」とまたも否定する。
 ハインリヒは眉を顰めてアレクに言った。
「“God’s in His heaven――All’s right with the world!”……isn’t it? (*“神は天にいまし すべて世は事もなし”だろ?)」
 引用に、アレクは首を横に振って静かに言った。
「人は神の存在だけじゃ生きられない」
 断言を聞きぴたっと言葉を止めたハインリヒから、アレクはツライッツへ向き直った。
「“クローディス・ルレンシアを育てたのはツライッツ”……だったよな?」
 アレクの口から飛び出た事実に、その場のクローディスを知る者達から驚きの声が漏れた。
「ええ、はい……そうです」
 静かに肯定するように、ツライッツはクローディスと契約したばかりの頃、身寄りを失い、自分で動くこともままならない少女だった彼女の面倒を見ていたのだという。それこそ生活のことから、立って歩けるようになることまで、現在のクローディスという一人の大人になる、長い長い間を、だ。
 “機晶姫とその主人、という関係である前に、大事な家族なんだ”、と。いつかのほろ酔いのクローディスがそう漏らしていたのを、アレクは思い出していた。
「親が子供を心配するのは当たり前。親が子供から離れられないのも……大体当たり前。子供に変な男が出来そうになったら、心配で仕方ないし――」
 言いながらアレクに一瞥されて、ウルディカがそそくさと目を反らした。
「――まあ……親ってのは何時も、子供の事で頭が一杯なんだよ。それが、手の掛かる女の子なら尚更な」
 同意を求めるような眼差しに、ツライッツは何とも言えない顔で、けれど否定はせずに苦笑した。
「分かったか? 分かってないか? 分かってないなら此処で専門家のご意見でも伺おうか」
 アレクに視線を向けられて、ナージャはそこから口出しするのを我慢してきた反動から、猛スピードで喋り始めた。
「彼――Geschuwister―D(ゲシュヴィスターデー)シリーズはどうやら、その特徴として、マスター契約者を至上とする命令形態が根本にある。つまりは彼にとってマスターは『全て』、それは間違いない。でもそれはいわゆる『構造』のお話でね、極端な喩えをすると、卵から孵った雛が、目の前の存在を『親』……いやさっきの話だと実際はマスターの方が子供だからつまり……うん、じゃあ君の言い方を借りようか。そう、『神様』と認識してるのと同じ原理なんだよ」
 ここまではいいかな? と、周りが突然始まった講釈に若干あっけに取られている中、構わずにナージャは続ける。
「で、だ。現在ツライッツにはそれとは別のとある『優先事項』が生まれてる。何より優先しないといけないはずのマスターを差し置いての優先事項設定なんて、本来は有り得ない筈の状態だから、本人は『エラー』とか言ってるけど、感情って機能が存在してる時点で、発生しえた事態だ。『命令』によって刷り込まれたマスターへの依存――まあ、愛とか言ってもいいけど――ではなくって、“感情から生じた意思”によって、“マスターより優先すべき相手として選んだ”のが、エラー君、ということさ」
「全然解らないのです」
 ぽかん、とハルカが呟く。ナージャは肩を竦めて、一言にまとめた。
「つまり――彼のそれは『本当の愛情』ってことだね」
 それなら、ばっちりわかったのです、と、ハルカが豊美ちゃんとにっこりと笑いあう。
 そして、ナージャの言葉の意味を、自身の『エラー』を漸く納得し、認識したらしいツライッツが、ハインリヒをちらりと見てさっと思わずといった様子で逸らした。その反応に、ユピリアは目ざとく気付いて「ツライッツ」と声をかける。
「自覚できた?」
「…………はい」
 ユピリアの言葉に、ツライッツは頷く。自覚、といういよりは納得に近い様子だったが、ユピリアは口元をにんまりと上げて、駄目押しのように、先の問いを繰り返した。
「貴方、ハインツの事愛してるんでしょ?」
「はい」
 即答だった。対するハインリヒの反応は、と皆が視線を移したその時だ。
「残念ツラたん、こいつ多分聞いて無かった」
 アレクが言って首をしゃくった先には、ハインリヒが長椅子の上で倒れていた。
「は、ハインツ……!?」
 ツライッツが今度こそ台から降りて駆け寄り、豊美ちゃんが説明を求めるようにアレクを見上げると、「流石にもう持たなかったみたい」と、答えが返ってくる。
 アレクは皆がやり取りする間に意識を失ったハインリヒを、支えて横たえていたのだ。
 ハインリヒの傷を実際に見て、治療した豊美ちゃん、羽純、ティエン、ジブリールからすれば、彼は直ぐにでも病院に搬送しなければならない状態だと分かっていた。
 生きて、目を開けていられる方が奇跡なくらいだというのに、ツライッツにこんな格好は見せられないと引き裂かれたシャツと血塗れのスラックスから、ロッカールームで真新しい上下に着替えて戻ってきた時には、恐れ入ったらいいのか、愛だと感動したらいいのか、重度のかっこつけだと呆れたらいいのか四人は言葉もなかったのだ。
(気持ちは、分かりますけどね。私も多少の無理は、したことありますし。
 ……だからといってハインツさんのは、ちょっと限度を超えてます。しっかり休んで、ツライッツさんに謝ってくださいね?)
 豊美ちゃんが倒れ伏すハインツへ、心の中で言い聞かせるように呟く。一方、それを知らなかった――ツライッツと一緒にハインリヒの器用な嘘に騙された皆は、色々と期待が膨れかけていたところでのこの展開に揃って「はあ」と落胆のため息を吐く。
 そんな中で、ハインリヒの傍にしゃがみ込んで、一人困ったようにその顔を覗き込んでいるツライッツに、歌菜が「起きたら、ちゃんともう一度伝えればいいんですよ」と囁いた。
「恋の病は、一人では絶対に治らないですけど、二人なら幸せな魔法に変わるんですよ」
 「経験談です」とウインクをして見せる歌菜に、ツライッツは漸く、柔らかに笑みを浮かべたのだった。
「ええ……必ず、伝えます」



 本来研究室に居る筈の研究者やインターン達は、プラヴダの兵士達によってさゆみやハデス達と一緒に検査の為に搬送されている。
 あの後昏倒したまま目を覚まさなかったハインリヒに、ツライッツやハルカ、幾人かの契約者達が付き添って部屋を出て行き、ナージャも大学関係者へ事情を説明する為、部屋を開けている。
 事件が終わって暫く――、広い研究室は急に静かになっていた。
 時計を見ながら端末を耳にあて、予定のズレを調整している多忙そうなアレクの背中に、豊美ちゃんは部屋に残った契約者へくるりと向き直る。
「……まずは、皆さん無事に……とはちょっと言えないかもしれないですけど、とにかく一件落着して良かったですね」
 纏める言葉に深く頷いたアッシュが、皆へ改めて礼を言い、今の状態を説明した。
「――上手く説明出来なくて悪いけど……、僕の全部が戻ってきたのを感じるんだ。
 『魂の牢獄』に囚われていた僕の欠片は、今確かにこの中にある」
 温もりを取り戻した胸を掌で抑えて、アッシュが柔らかい笑みを浮かべる。仲間と共に本当に良かったと言う様に微笑み合って、豊美ちゃんはその表情を少し曇らせた。
「本格的に、ヴァルデマールとその部下達が私達の前に姿を見せ、力を行使してくるようになりましたね」
「『闇の軍勢』……『君臨する者』か…………」
 改めて、陣が疑問を独り言のように口に出す。
「しかし毎度思うんだが、ヴァルデマールとかいう奴の部下って、なんで俺ら陥れようとしてるんだ?
 もっと関係のないとこから巻き込んだ方が、気づかれずに計画進むんじゃないのか?」
 と、呟いた、そこでアレクが通話を終えて隣に戻ってきたのに、陣は自分の考えを「いや、これが悪役のパターンか」と締めくくった。
 すると豊美ちゃんは、陣に向かって自分の意見を述べる。
「私が思う限りでは、彼らは最初から私達を陥れるつもりではなかったように思います。たまたま、結果として、の方が多かったように思います」
「陣、まさかお前、敵を攻めるのに一点だけを狙っているだなんて思ってないよな」
 確認するように言って、アレクは答えを求めない無い質問を重ねた。
「そもそもだ、軍が“大将首を取った”と声明を出す意味を何だと思ってる。
 リーダーを野放しにすれば、何時迄も成果が挙げられない無能政府だと糾弾される。恰好の的になるだけだ。兵士を何人殺したところで戦争は続き、国民の鬱憤は堪る一方だぞ。
 いいか。敵のリーダーの捕縛、殺害は分かり易い『成果』で有り、『戦争の終了』の狼煙なんだよ」
 話を聞いていたアッシュは、自らがリーダーだと言う気恥ずかしさに頬を紅潮させながら陣に説明する。
「魔法世界での僕の家というか一族は、ちょっと有名だったんだ。それから僕の二つ名も」
「『闇の軍勢』はそういう重要人物を異世界に取り逃がした。そして今そいつは、異世界の契約者――他国の人間と手を組み、抵抗勢力として闇の軍勢に対抗し得る存在に育ちつつ有る。
 この状況が国民に知られたとしたら……否、少なくとも上の連中には知られない訳がないな。そいつらの不満を解消させる事が出来るのは、アッシュの晒し首だけだ。
 この間サヴァスがあの舞踏会で幹部らしき少女を粛正したのは、景気回復の為のパフォーマンスだよ」
 アレクの話を聞き終えて、アッシュが話を本筋へ戻した。
「政治利用の為に、僕や皆に狙いを付ける可能性は高いって事だよね。
 プラヴダと豊浦宮は事件を追い掛けてきたから、たまたま鉢合わせにもなる……」
「そうだ、『偶々』な。偶々互いに衝突の準備をしていなかったから、大規模戦闘にならなかっただけだよ」
「はい。今後はもしかしたら向こうが“本腰を入れる”可能性も否定出来ません」
 そう豊美ちゃんは、アレクの言葉に同意を示した。
「……もしかして、今回の奴は本気でなかった、とか言うんじゃねぇだろうな? 勘弁してくれよ、結構苦労したんだぜ」
「余力を残していた可能性もある、ということか……」
 話を耳にしたベルクがやれやれと肩をすくめ、グラキエスが不安を抱いているような表情で呟いた。ここに居る誰もが、サヴァスが姿を消したイコール――死んだとは思っていない。最後に彼が見せた表情こそ彼の油断とも取れるものだったが、それがかえって彼、ひいては『君臨する者』達に本気で事に当たるきっかけを与えてしまったかもしれない。
「……嫌な予感が、しますね。何が、とははっきりとは言えないのですけど……。
 準備は、しっかりとしておいた方がよさそうです」
 同意するしか無い意見に、皆がそれぞれ考え込むようにしていた時だった。ナージャが報告を終えて研究室へ戻ってきた。
 彼女の姿を振り返り、アレクは何かを思い出したようだ。
「備えといえば――魔法石の件、すっかり忘れてたな」
 彼の発言に、豊美ちゃんも周りの者達もそうでした、という顔をする。一行がここにやって来たのはナージャに解析をお願いしていた魔法石の解析結果を知るためだった。
「ちょうどいいタイミングみたいだね。
 ……結論から言うと、魔法石単体では向こうの世界の奴らがやっているような真似は再現出来なかった。
 けど、機晶石と掛け合わせる事で似たような状態を再現することが出来た。……あ、先に言っておく、機晶姫に組み込んで能力アップ、は考えつくだろうが――」
「やらないし、やらせない」
 刺そうとした釘をアレクが先に取り上げたのに、ナージャはニッと笑う。そして現れて早々ひと息つく間も無いまま、解析の結果を一行へと伝えた。
 例によって例の如く興奮を含んだ台詞は、専門知識を交えつつどんどん早くなっていった為、理解にするのは容易ではなかったが、つまるところはこうである。
 “詳細な解明までは至らなかったが、異世界の魔法石を機晶石と融合させることで、使用者の意志に応じて強力な干渉力を生み出す事が出来るだろう”と、それがナージャの見つけた結果の部分だった。
「――安全に使用するのであれば、武器に付与させるのがベストだろうね。その方法についてはこっちでまとめておくよ」
「ありがとうございます、ナージャさん。
 武器、ですか……。私はあまり詳しいとは言えないので、アレクさん、どうするべきでしょう」
「俺の知識が豊美ちゃんの期待に応えられるとは思わないんだが――」
 と言うのはどう言う意味か。アレクは続ける。
「エリザベート校長が件の異世界を仮に『魔法世界』という名で呼んだ通り、あちらは文字通りで魔法世界らしい。
 生活の全てに魔法が密接し、魔法で全てを解決出来る。そういう世界……だよな?」
 アレクの振りに、アッシュが頷いている。
「科学により発展した地球とは全てが大きく異なっている。それは当然武器に関しても……。
 という訳で先日の採石場の事件の際に、出したものと同じになるが、『闇の軍勢』を相手にするには、二種類の武器が必要だろう」
「現代兵器に関しては我々に任せて貰おうか。
 で、もう一つの俺が明るく無い方は……葦原にでも行こうかな。ちょっと面白いの居るし」
「葦原か……」
 誰かが繰り返したその場所の名に、契約者達が浮かべたイメージは大体似た様なものだ。葦原はそういった技術の他、己の身体を駆使しての術や肉体・知覚強化にも他の学校と比べ力を入れている場所だ。
 その事を思い出したアッシュが視線を下げてフッ、と呟きを漏らす。
「魔法の力だけでない自身の強化……すぐに身に付けられるとは思えないが、知識として知っておくのもいいかもしれない」

 彼の言葉の裏には、いつ本格的な戦いとなるか分からない事への懸念と、今度こそ負ける訳にはいかない、その為に出来る事はしておきたい、という強い意志が隠れていた――。


担当マスターより

▼担当マスター

菊池五郎

▼マスターコメント

参加の皆様、此処迄読んで下さった皆様有り難う御座いました。

【東 安曇】
近頃残りSPが限界値です。
皆様から頂いた暖かいコメントで生きています。何時も有り難う御座います。
シリーズ終了迄、何とか乗り切りたいところです。

【九道 雷】
九道です。
他マスターの皆様に、もうどうしようもないくらいフォローをいただきました。
皆様に楽しんでいただける作品になっておりましたら幸いです。
今回は、個別にメッセージをつける余裕がなくて申し訳ありません〜

【逆凪 まこと】
逆凪です。
気がつけばなんだかうちで一番影が薄いはずのツライッツの
このヒロイン度はなんたることでしょうか……
色々とひそひそ言われているような幻聴を味わいながら
楽しんで書かせていただきました
少しでも楽しんでいただけましたら幸いです

【猫宮 烈】
最近は脱力のかかり具合が半端ないです……ああいや、トリがこのような発言ではいけませんね。
皆様、今回も参加していただき、どうもありがとうございました。

予定では次のシナリオでこちらの手勢がパワーアップ! した後、ヴァルデマールら闇の軍勢との決戦、となるでしょうか。
7、8、9と進むといい感じになりますね。

とはいえ最近の自分を鑑みると、あんまり発言に信用がないのですが(汗
ともかく残り3ヶ月弱、何とか走り抜けたい所です。

それでは、また次回シナリオでお会いしましょう!