天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

ロウソク一本頂戴な!

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ロウソク一本頂戴な!
ロウソク一本頂戴な! ロウソク一本頂戴な!

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■ 2日目(3) ■



 蒼空学園、ある教室。
 蒼空学園第三代校長兼理事長馬場 正子(ばんば・しょうこ)の許可を得て、学園の一室を借りた御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は、

竹に短冊七夕祭り 多いは嫌よ ローソク一本頂戴なー くれなきゃ顔をかっちゃくぞー

 学校という舞台に、些か緊張気味になっている子供達の囃子唄を静かに聞いている。
 歌い終えて、お待ちかねのお菓子! と袋の口を開く子供達は、異変に気づいた。
 教室に並んでいる机と椅子。
 短冊が飾られた笹。
 しかし、目当てのメインが無い。
 お菓子どころかロウソクも見当たらないことに、子供達は舞花を見上げる。
 クリスマスも誕生日会も知らなかった子が多い系譜には、今回の七夕も初体験である。事前に聞かされていない展開に落ち着かなくなったのかそわそわし始めた。
 ひょい、とフェオルが舞花の前に出た。
「ろうそくない? くれなきゃかおをかっちゃくぞー!」
 幼い爪を使って脅してくるフェオルに、舞花は大丈夫ですと頷く。
「顔を引っかかれるのは痛いです」
 降参と片手をフェオルに掌を向けて上げ、その手で机の上を見るように子供達を促した。
 ふわり、と机の上に置かれたお菓子――見たこともないような高級お菓子セットもある――や、くつろいで欲しいという舞花の配慮だろう茶器類が置かれていた。
 スキルにより非物質化して見えないようにしていたのだが、見えるように出現した演出に子等が「おお!」と驚きどよめいた。
「短冊を用意しています。お願いごとを書いて笹に飾り付けましょう」
 七夕というのは、お菓子を貰うだけではない。物語だって存在するし、夜空には星が浮かぶ。知らないのなら、教えることくらい野暮ではないだろう。
 物事を知れば、理解を得て、より一層、楽しさは膨らむ。
 舞花に誘われ七夕の楽しみ方を教わる子等は文字が書けないので、舞花に書いて欲しいと群がった。
「駄目よ、皆。自分の名前くらい書けるでしょう? あと、私も書くから舞花に迷惑かけないの」
 窘めるシェリーに、ニカ、ヴェラが書き手として加わり、願い事を書くのが終わった。と、思ったら、今度は短冊を笹のどこに飾ったらいいのかという、むしろ高いところに飾りたい、てっぺん争いが始まった。
「あの、座りませんか?」
 子供達がくつろいでいるのを確認し、舞花はシェリーに椅子を勧める。
「舞花、招待してくれてありがとう。場所が学校って知って驚いたの」
 思えば初めて出会った場所だ。シェリーは思わず照れる。
「それはよかったです。 ……あの、聞いてもいいですか?」
 改まる舞花にシェリーはきょとんとする。
「なぁに?」
「ずっと落ち着かないようですけど、何かありました?」
 学校の中を歩いているのに心此処にあらずとしているシェリーがどうも気になったらしい。
 そわそわしているシェリーはスパッと切り込んだ
「あ、あのね……笑わない?」
「笑いません」
「そうね。舞花は笑ったりしないわ。ごめんなさい。疑ったわけじゃないの、ただ、恥ずかしくて…… あのね、舞花のこと友達と思って相談したいんだけど、その、お父さんってどんな感じかしら?」
 舞花は「ああ」と声を漏らした。心当たりはある。シェリーは最近、破名を成り行きとは言え、お父さん、と呼んだのだ。
「私本当のお父さんのことは少しだけ覚えているの。だからかしら、余計、恥ずかしくて顔も見られないの」
 シェリーは表情に良く感情が出るので、皆ままで言われなくてもわかり舞花は、うん、と一度区切るように反応を返した
 父とはと聞いて、舞花は軽く目を伏せた。今一番身近にあるパートナーの御神楽 陽太(みかぐら・ようた)を思い出す。彼は妻と二人子育てに奮闘中なのだ。彼らの我が子を見る目はとても優しい。
「クロフォード、私がお父さんなんて言ったりして、きっと迷惑だったわよね」
 呟きに、舞花は伏せた目を上げる。舞花は、系譜が縁(えにし)を失った孤児が身を寄せる孤児院でないことを思い出した。
「そうですね……」
 シェリーがそわそわして落ち着かない理由はわかった。微笑ましいとすら感じる問題ではあったが、根は複雑で、早くに答えを導き出すのは賢くないと舞花は思う。破名の考えがわからない以上、その場凌ぎの言葉は、後にシェリーを傷つけさせる結果をもたらすかもしれない。
「色々ありましたからね」
 そうでなくても人前であれだけ大泣きしたシェリーの事だ、既に許容範囲を超えているのかもしれない。
「もう少し時間を置いても悪くはないと思いますよ」
「舞花?」
「初めての七夕なのでしょう? 楽しみませんか?」
 リフレッシュしましょうと誘う舞花に、シェリーは、ハッとした。そうだ、七夕もまた初体験だった。