天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

食い気? 色気? の夏祭り

リアクション公開中!

食い気? 色気? の夏祭り
食い気? 色気? の夏祭り 食い気? 色気? の夏祭り

リアクション

 共に在る願いが叶うように

「セレアナ、出店出すわよ! 天才料理人として、人類最高の腕を振るうわ」
 一瞬、パートナーであるセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の言葉に、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の脳内でセレンフィリティが出店を出した場合の惨状が素早くシミュレート出来た。
(教導団公認殺人料理兵器、ナラカ人殺し、もったいないおばけを憤死させる女、食物ブラクラ……思いつく限りの異名を並べても夏祭りが地獄絵図になるのは目に見えているわ……! 何とか止めないと!)
「セ……セレン! それより私は夏祭りならセレンとデートしたいわ。それにセレンの料理は私だけのものよっ!」
 セレアナの訴えに、僅かな間を置いてセレンフィリティは「それもそっか」と、あっさり納得してデートに切り替えてしまった。恋人の頼みとあっては、セレンフィリティもそちらを叶えたいと思うのは至極当たり前であった。

 出店からデートに切り替えてくれたセレンフィリティにホッと胸を撫で下ろしたセレアナは早速浴衣の用意を始めた。2人で柄を選び、用意したその場で気付けを済ませ、せっかくなので髪も結い上げて出掛けたのである。
「あたしが菖蒲で、セレアナが水仙……なんか、ぱっと見て決めちゃったけど良かったかな?」
「似合うわよ、セレン。でも、水着とレオタードじゃない外出なんて久しぶりよね……?」
 その分楽しまなきゃ! とセレンフィリティとセレアナは早速出店が並ぶ通りへ足を運んだ。既に人混みで歩くのも大変だが、祭り特有の香ばしい匂いがあちこちから漂ってきていた。
 たこ焼きにお好み焼き、いか焼き、フランクフルト、フライドポテト、ヤキソバにかき氷にと居並ぶ出店を前にセレンフィリティの食欲魔人としての正体が露わになってしまい、キメたばかりの浴衣美人が崩壊の一途を辿ってしまった。
「……忘れていたわ、出店を阻止したけれどこの匂いを前にセレンの食欲が抑えられるはずはなかった……」
 もう諦めてしまったようにセレアナはセレンフィリティに振り回されつつではあるものの、彼女に付き合って出店の食べ物を堪能するのでした。

「ラムネ〜、美味しいラムネはいかがですか〜」
 麦わら帽子を深めに被り、暑さのためか時折『沈没船の舵』に凭れ掛かりながら騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が道行く祭りの客へラムネを売り込んでいた。
「あ、昔懐かしいラムネ瓶! こういうのがあるとお祭りって雰囲気があるのよね」
 セレンフィリティとセレアナに気付いた詩穂は、ささっと麦わら帽子の影に隠れて顔を見られないようにした。
「そ……そこいく浴衣のお姉さん、『瓶ラムネの少女』印の暑さを吹き飛ばす冷たいラムネはいかがですか〜?」
 氷水で良く冷えたラムネ瓶をささっと水滴を拭き取って2本手渡した。
「ありがと、セレアナは知ってたっけ? 開け方とか」
「ええ、多分解ると思うわ」
 そう言いつつもビー玉の栓に苦労してそうなセレアナの分も、セレンフィリティは器用にビー玉栓を開封した。見事な手さばきに感心してしまいながら眺める詩穂にセレンフィリティがじーっと彼女を眺める。
「えっと、な……何か?」
「ん……誰かに似てるなって思って、……詩穂?」
 更に麦わら帽子で顔を隠すようにしながら、詩穂はあえて無反応を貫いていると、セレアナがセレンフィリティの視線から詩穂を逸らした。
「し、詩穂なら会ったらすぐに解るでしょ、それにさっきも名乗ってたじゃない『瓶ラムネの少女』印だって」
 そういえば、とセレンフィリティが納得したところで回れ右をさせた。
「じゃ、じゃあ……ラムネありがとう、暑いのにご苦労様」
 セレンフィリティの背中を押しながら、セレアナはチラッと振り向いて気付いていない振りをしつつ軽く手を振るのだった。


 ◇   ◇   ◇


 程よくお腹が一杯になったセレンフィリティとセレアナは、広場へと足をのばしてまずはお化け屋敷へ入った。2人が入る前から聞こえる悲鳴や泣き声にワクワク感を隠さないセレンフィリティと、彼女が何か破壊しないよう目を光らせるセレアナはあまり「怖い」と感じる事はなかったようだった。

 空いていた見世物小屋では、パラミタの巨大なヘビが寝そべって様々な芸を見せていた。ヘビが腹を見せて仰向けになり『降参』をする芸やら集金袋を口にくわえ、GOLDを強請ったりとした芸を見た後にはくじ引きで勝負をかけた。
「出すわよ……特賞!」
 バッと籤を引いたセレンフィリティだったが、引いた籤は――
「はい、4等! チョコ菓子だよ、ネェちゃん。残念だったなぁ」
 運の無さに嘆くセレンフィリティを慰めるセレアナであった。

「あ! あれがあるじゃない、ここは教導団仕込みの腕前を披露しなくちゃ!」
 あれ、と指差したセレンフィリティが向かった先は射的である。
「ああ、これなら……」
 傍観していたセレアナであったが、次から次へと的に当て、射撃の腕を見せると戦利品を抱えてご満悦である。しかし、射的の出店をしていたおっちゃんは涙目で景品を並び直していたのだった。


 ◇   ◇   ◇


 祭りでテンション高く遊んだセレンフィリティと、彼女に付き合って半ば振り回されたセレアナであったが、祭り会場に花火のアナウンスが入ると事前に確保していた場所へ移動した。花火が始まるまでの僅かな静寂の時間――2人はゆっくりと手を繋いで腰掛け、上がり始めた花火に暫し黙って見入っていた。
 不意に、セレアナは隣のセレンフィリティの横顔を見つめ、セレアナの視線に気づいたセレンフィリティが顔を向けたと同時に柔らかな唇を重ね合せた。
「セレ、アナ……?」
 セレアナからのキスに少しびっくりしながらも、重ねられた唇はそのままでいた。花火の明かりが2人を照らし、打ち上げられる音がセレンフィリティとセレアナ2人だけの世界を作り、繋いだ手を更に絡めるように感触を確かめ合うセレンフィリティにセレアナはそっと唇を離した。
「ねえ、セレン……花火は一瞬で儚いけれど、私達はずっと……愛を花開かせていきたいわ……セレンと2人だけで、ずっと……」
「手を繋いでいれば大丈夫よ……あたしもこのままずーっと、セレアナと2人だけでこうしていたい……」
 どちらからともなく、寄せられた唇を再び重ねるセレンフィリティとセレアナ――


 共に在り、共に歩いていく願いを込めたキスは星空と夜空に咲く一瞬の大輪が2人を見守り続けるのでした。