天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

【祓魔師】アナザーワールド 1

リアクション公開中!

【祓魔師】アナザーワールド 1

リアクション


第6章 糸の先にいる者 Story2

「えぇと、マスター。随分世界が変わってしまっておりますね」
 以前のクリスタロスと思えないほどの変わりように、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は目を丸くした。
「20年後の私たちと会うことはないですけど。もしも会えたなら、どういう感じで暮らしているのでしょうか?」
「んーまぁ…ここ事態、歪んだ時の流れの先にすぎないからな」
 サリエルによって偽りの未来のようなものであり、本来の先とは異なる。
 都合よく事を進まされた先にいるだけなのだと言う。
「セシリアさんたちは未来人ですし。私とマスターも時が経てば…」
 樹や涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)たちのように子がいるのだろうかと考える。
「時が…どうしたって?」
「…何でもありませぬよマスター!?そ、それに致しましてもこの不穏な空気に嫌な気配…ご飯の味…」
「フレイ、ほれ」
 早くも空腹を訴え始めたフレンディスに握り飯を渡してやった。
「はふはふ、いまいふぃでふね。(訳:ふむふむ、イマイチですね)あ、いえ。そうではなくって!私、時の流れは故意に改竄すべきものではないと思うのです。よって早急に魔性さんの悪事を成敗致したく…」
「それでまた、あのエロガエルが暴れているわけだな」
 和輝からテレパシーで伝達された情報の通り、校長の懸念点が関与していた。
 邪悪な特性を持った片親の血のせいなら、おそらくフレンディスは助けようとするはず。
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)としては協力してやるだけのこと。
 だが、彼女の策が上手くいかない場合も想定してやれねばならない。
 今日もまた胃薬が必須になりそうだとため息をついた。
「簡単に纏めると…だ。この世界は不正に作られたもので、転送されたことによって未来の俺たちは同一のような存在となっている。現在進行形として…大地の荒廃が進むように、故意に操作されている。そうなるようにしたのは、魔法学校から逃走した者の意図によるもの…」
「グラキエス様。情報源を容易く得られないようにするように、20年後の私たちと遭遇しえないようにしたのでしょうね」
「幸い…転送される前にいた活動の一部は把握できてよかったが…」
 時を歪められた世界で20年後の涼介が、クリスタロスの町で調査を行っていたと魔法学校で知ることができたおかげで、あちこち探し回る手間は省けた。
 どうやら今のサリエルでは、自分たちの居所へ繋がることを隠し切るのは困難のようだ。
「それと、サリエルの復讐心を煽ったのは、炙霧という者の仕業で間違いないですね」
「争いばかりの世になってしまえば、まず娯楽ごとが消えるのだろうな」
 そうアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)がぽつりと言うと真っ先に…。
「いやだ、困る。楽しいことがない世界なんて、俺は絶対にいやだ」
 …と、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が激しくいやいやをした。
「ふふっ。この私がそうはさせませんから、安心してくださいグラキエス様」
 エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)はにっこりと微笑みかけ、不安がる彼の手を握って気を落ち着かせようとする。
「―…ありがとう、エルデネスト。もう、大丈夫だ」
 一呼吸して落ち着き、そっと彼の手から離れる。
「水魔祓いすることになったのは、この町で嫁探しをやめさせるためだったよな?」
「えぇ、そうですね一輝」
「だけど今回は…」
 猛毒で飲み水さえ汚し、一切の給水を経っていることを考えると、クリスタロスの町全体を呪っているように思えた。
 そんなことをすれば嫁どころでなくなり、人々が死に絶える可能性もある。
 あのカエルでさ容易に想定はできるはず。
 なのに、生きていくために欠かせないものを破壊するとは、以前に対峙した時と何か異なる凶悪性を感じた。
「テレパシーの情報の通り、そそのかされただけにしてはな。…よし、俺が直接確かめるか」
「一輝、それは容認できません」
「危険は承知の上だ。確信を得るには、やるしかないんだ」
「あなたも相当真っ直ぐなのですね」
 自分の主であるグラキエスもこうと決めたら一直線だが、彼もなかなか譲らない直進方なのようだ。
 止めることはもはや不可能だと分かり、承知してやるしかなかった。
「餞別として香水を差し上げますわ。ただし、タイミングをミスすればカエルになってしまいますわよ」
「まるで遠くへ突っ込んでいくやつみたいな言い方だな」
 エリシアの物言いに香水を受け取りつつ苦笑する。
「何か携帯鳴ってるけど?」
「んもう、こんな時に誰ですの…。あらま?」
 突然鳴り出したバイブ音にムッとしたエリシアは、ポチッと強くメールのボタンを押した。
 見慣れたアドレスを目にした時、苛立っていた気持ちは消え去り、生暖かな笑顔を浮かべた。

 -2024年2月1日に娘が誕生しました!-
 エリシア、ノーン。
 二人に重大な報告があります。

 今日、娘が生まれたんです!
 名前は、陽菜と名づけました。

 まだ、任務は続きそうですか?
 一旦落ち着いたら、娘の顔を見に来てほしいです。
 では、待っていますね。

 陽太

「あらあら、おめでとうですわね」
 任務中にも関わらず、可愛らしい赤ん坊の写真つきのメールを眺める。
 その後も大量のメールが続き、最後のメールを開く。

 -娘が大学に入学しました-

 2044年に、娘が蒼空学園大学部へ入学します。
 お祝いに妻がちらし寿司を作るそうです。

 ノーンとエリシアは、また新しい任務に向かうそうですね。
 頑張る2人のことを家族皆で応援しています、頑張ってください!

 妻と2人で手掛けてきた鉄道事業ですが、ご存知のように昨年ついにカナン、シボラを抜けてエリュシオンに届く路線が開通してまる1年が経ちました。
 運営も安定しています。
 本当に感慨深いです。
 個人的にはネクタイが曲がってるのを頻繁に妻に直してもらってたりで、何時まで経ってもまだまだな感じですが。
 いや、別に妻に直してほしくてわざと曲がるようにしているわけではないですよ。
 そういえば陽菜も2人と会いたがっています、エリシアとノーンの今回の任務が終わったら皆で食事会をしましょう。

 陽太

「おにーちゃんたちの子供、陽菜ちゃんって名前つけたんだね!」
「はぁ、わたくしたちの状況も知らないで、よくもこんな…」
 また、遊園地であることないこと言ってからかおうかと顔をにやつかせた。
「早く会いたいなぁ。この世界ではもう大人なんだね」
「えぇ、そうなりますわ」
「終わったら会いに…ていうのは?鉄道もご飯を急いで運んでて、よく見てなかったんだよ」
「それは…無理ですわね。片付き次第、ここにいることはないでしょうから」
 事が上手く済んだとすれば、すぐにこの世界から去ることになると断言した。
「でも、もしも…」
「ノーン、それは口にしてはなりませんわ。皆、思いを一つにしてここにいるんですのよ」
「う、うん」
「―…全て終わったらきっと、本当の未来で会えますわ」
 しょぼんとするノーンの頭を撫で、偽りは所詮偽りであり、本来の先だけを見なさいと言う。
「分かった。また、おにーちゃんたちと会いたいし、わたしも頑張るよ!」
 本当の先にいる御神楽 陽太(みかぐら・ようた)たちと会うため、捻じ曲げられた時を戻すことに全力を尽くす。
「不安、心配、この世界に対する興味もたる誘惑等…。彼はマイナスのものばかり与えようとしているですね」
 町の人々の感情や仲間の様子を冷静に分析し、それらは心を歪ませる素材なのだとシィシャが言う。
「あなたも囮役をするんだったか?」
「えぇ、そのように命じられています」
 静かに頷き仲間の天城 一輝(あまぎ・いっき)に対してまで無表情に答える。
「未来の水魔がどんな相手なのか探ろうと思うのだけど、できれば一緒に…。イヤか?」
 やや不機嫌そうな顔をする相手に遠慮がちな声音で聞く。
「別に構いません」
「ありがとう。そういえば、魔法学校の生徒が寄ってこなかったようだけど。未来ではいったいどう人なんだろうな」
 終始無表情で感情が読めない彼女が、どのような感じになっているのだろうかと言う。
「知らない私など、興味ありません」
 本来の先のことではなし、ましてや知らない自分自身について聞かれるのは好まないと告げた。
「まぁ、全員がそう関心があるってわけじゃないからな」
「私たちが囮になるのは良いとして。問題は、ベールゼブフォの対処法です。グラルダ、あなたはどう考えてしますか」
 大人しくさせる手段の段取りを、すでに考えているのかとグラルダに問う。
「未来のあなたを信じているのでしょう?」
「何か、掴みかけている。そういう気がするの」
「なるほど。で、それは?」
「アタシはもっと上手く章を使いこなせるんじゃないかしら」
「何故、いきなり天狗になっているんですか」
 突然、こけそうなセリフを言うパートナーに対して呆れ顔をした。
「そういうものは、策を思いついた時に言ってください」
「周りだけじゃなくって、アタシのこともよく見ていのね」
「別に…それはあなたが…」
 グラルダが“周りを見ろ”と言ったからそうしたまでのこと。
 道具ではあるが彼女のことも当然含まれているのだと考えてのことだった。
「今、雑談している暇はありません。…終夏さん、香水をいただけますか」
 策の準備をしようとパートナから離れ、呪い対策にクローリスの香りを分けてもらえないか頼む。
「いいけど、スーちゃんが撒いているだけじゃ足りないの?」
「そうではなく、常時では囮の意味がなくなります。なので、一旦…スーちゃん…でしたか、香りを止めてもらえるように言ってください」
 デスルーレットでサリエルの報復を受けた者がいるとすでに、他のベールゼブフォに知られているだろう。
 優しい歩み寄りだけではもはや不十分。
 そう考えたシィシャは近くに仲間がいることを悟られないよう、香りを止めておくべきだと告げた。
「私たちに気づいて逃げては別の人間を襲うかもしれないので…」
「なるほどね、分かったよ。スーちゃん、お願い」
「えー、うん」
 終夏の頼みならと、しぶしぶパラソルを下ろした。
「どなたか、魔性の位置を教えてもらえますか」
「俺でよければ」
「はい、ベルクさん。通話にしておくので、それでお願いします」
 サイドバッグに入れ、
「他の皆さんは、その辺に姿を隠していてください。…では、呼び寄せます」
 仲間たちがそれぞれ身を隠したのを確認し、空に祓魔銃の銃口を向ける。
 パンッと鳴らし、薄曇った空がパァと明るくなる。
 それを目視した気配の群れが光の元へと迫っていった。