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【アガルタ】未来へ向けて

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【アガルタ】未来へ向けて

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★未来へ向かう06★


 地下の天井には、一面に花火が映し出されていた。音は各所にあるスピーカーから出ているようで、まるで本当にそこで花火が打ち上げられているかのようだった。

「生で見るのも良かったかもしれないけど、これはこれでいいね」
「だなぁ。どこでも見れるって感じだ」
 エドゥアルトの言葉に、かつみは同意を返した。2人の手には、街で買ったのだろう飲み物や食べ物があった。
 時折それらを摘みながら街を歩いていたのだが、ふと後ろが静かになったので振り返る。
 ナオが横になって天井を見上げていた。
「見てください、すごい迫力ですよ」
「そうかもしれないけど、ナオ。そのまま地面に寝っ転がるな、せめてベンチとかからにしような」
「そうだね。他の人のジャマになるし、ね」
「はっ、そうですね。えーっと、たしかあっちにありましたよね?」
「そうだぞ。こうしてみるのが一番なのだ」
 いち早くベンチで横になっていたノーンがナオに言う。
「あ、ずるいです先生。俺も――わぁっ凄い。つかめそうですよ」
「むむ? ナオ、少しズレルのだ。視界が狭くなったぞ」
 狭いベンチの上で場所を取り合っている2人を、エドゥアルトとかつみはやれやれと肩をすくめ、そうしてもう一度天井を見上げた。
 満天の夜空に上がる花火と、少し送れて聞こえてくる破裂音が、とても心地よかった。




「綺麗」
 思わず、といった風に呟いたアスパー。そんな彼女に光の花弁が降り注ぐ。
「やっぱこういう祭はいいな」
 ウッドの明るい言葉に、アスパーは少しだけ平静を取り戻し、自然と頷けた。まだソノ心にある感情をもてあましているが、この街に触れて少しだけ気が軽くなった気がした。
 街の人々の明るさにほだされたのかもしれない。
 横を見ると、ウッドが打ちあがる花火一つ一つに声を上げて笑っている。その横顔を見るだけで胸は高鳴る。
(もう少し……もう少しだけ、このままで)
 一緒に見上げる花火に、幸せを感じた。



「ここは静かね」
 リリアが遠くから聞こえる花火のかすかな音に目を細めた。町外れのソノ場所で、設置されたベンチに腰掛けてリリアは夫のメシエと共に花火を見上げていた。
「ああ、エオリアからこれをもらったからね。こういう場所の方がいいだろうと思って」
 取り出した線香花火を見て、リリアの顔が輝く。
「いいわね。でももう少し花火を見ていたいから、終わってからでいいかしら?」
「そうだね。時間はある。ゆっくりしていこう。そしていつか今日のことを話そう」
「話すって……誰に?」

 首を傾げる妻に、メシエはそのおなかを優しく撫でた。
「そうね……ええ。話しましょう」

 2人で見上げた花火のことを。2人でした線香花火のことを。ここで過ごした日々を。君が生まれてきてくれる未来を、自分達がどれだけ楽しみにしていたかを。



 地下にある冒険者の宿で食事を取った後、シリウスとサビクは街へと出かけていた。
「でもアワビが売ってるとは思わなかったな」
「養殖できるほどの施設があるんだね」
 先ほど覗いた屋台で売っていたアワビに驚きつつ、サビクが深い息を吐き出した。

「いい街になったね、ここも。
 ここには生気が溢れてる、みんなが前に進もうという気持ちがある」
 活気溢れている雰囲気は、何も今が祭り期間中だから、というだけではないだろう。サビクの声に、シリウスは同意をした。
「たしかにな。地上の開拓もしていくっていうし、もっと騒がしくてでかくなっていくんだろうな」
 言葉に出してみれば、そんな未来が浮かんできてシリウスは笑った。久しぶりに笑った気がした。
「前に進む、か」
「シリウス?」
「……さて、これからどうするか、だけど」
 宿を取ってから、わざとずっと避けてきた話題を口にする。サビクが黙り込んだ。

 その時天井が一瞬光り輝き、2人の頭上を照らした。見上げれば、色とりどりの花弁が美しく散っていくところだった。

「シリウス。ボクはニルヴァーナに残ろうと思う」
 静かに口を開いたサビクに、シリウスは「そうか」と短く頷いた。2人が向き合う。
「キミは百合園の仕事もあるし、いつまでも此方にはいられないだろう? 彼女はボクが探すよ。どうせ時間は無限にある、おあつらえ向きさ。
 まぁ暫くはここ、アガルタで暮らすよ。大瀑布に一番近いしね」
「じゃあここで一度お別れかな」
「そうだね」
 再び落ちる沈黙。しかし重い沈黙ではなかった。この別れが、未来へ向かうためだということを2人が知っているからだ。

「キミには感謝してる。
 全てを失くしたボクが、新しい目標を見つけられたんだ。こんなに嬉しいことはない……今までありがとう、シリウス
「今までありがとう。アイツのこと、よろしく頼む」

 自然と出た互いの感謝の気持ちと2人の笑顔を、花火が照らす。


 花火が上がる。未来を、照らすために。