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賑やかな秋の祭り

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賑やかな秋の祭り
賑やかな秋の祭り 賑やかな秋の祭り

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 朝、祭り開始前の出張猫カフェ。

「来てくれて助かったよ、二人共。人手が足りなくてね」
「お久しぶりです」
 にゃあカフェユニフォームの黒一色のエプロンを装備した二人、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は嬉しそうに呼び寄せた二人組を迎えた。
 呼び寄せたのは
「……再会の時が訪れるとは思いも寄らなかった」
「お元気そうで何よりです。カフェのお手伝いをと聞きましたが」
 平行世界の二人。生真面目なシャンバラ教導団の騎士系の少尉を務めるエースと彼の温和な女性副官である右眼が赤銅色のヘテロクロミアのエオリアであった。二人共紛らわしいという事で少尉とリアと呼称されている。
「あぁ、そうだよ。リア、この出張猫カフェを手伝って欲しいんだ。俺達だけじゃ手が回らなくてね。それに二人にまた会いたかったから招待して貰ったんだ」
 エースは改めて事情を説明した。ちなみに出張なのは余所でも猫カフェを経営しているからである。
「……」
 のんびりとしているみけねこ「かぼ」ちゃんや使い魔:猫のゼノンとシヴァを見るやリアはほわぁと表情をゆるめて
「何をすればいいのですか?」
 こちらの自分達に訊ねた。
「出来れば僕と一緒にお菓子作りをして貰えたらと思います」
 料理担当のエオリアが答えると
「はい、精一杯お手伝いしますよ」
 リアは快諾した。
 残るは少尉の担当だけ。
「……それで少尉には猫達の様子を見ていて貰えないかな。何度かこういう風にイベントに出ているから慣れているとは思うけど、万が一が絶対ないとは言えないからね。という事で……」
 エースは少尉に調理や接客は求めず、別の任務を頼み猫の遊び道具トワイライトじゃらしを取り出そうとして
「……話の腰を折って悪いが、最近中尉に昇進した」
 少尉がかたい調子で喜ばしい報告をした。こちらのエース達と別れてから色々と進展があったらしい。
「え、中尉になったの? それは凄いね。おめでどう」
「おめでとうございます」
 思わぬ吉報にエースとエオリアは笑顔で祝福した。
 それから
「……話に戻るけど、猫達が他所へ遊びに行ってしまわないように構ってあげてね(これで接客に集中出来るし、何より猫好き布教が出来る)」
 エースは改めてトワイライトじゃらしを取り出し差し出した。
「ふふ、任せておけ」
 中尉は自信ありげに猫じゃらしを受け取った。
 それを見るや
「……もしかして猫飼ってたりしてる?」
 エースはもしやと訊ねた。
「いいや、任務がある故飼う事は出来ないが、猫と遊ぶのは得意だ。店の外へ出て行く猫が居ない様に気をつけていてやろう」
 中尉は早速任務、猫達と遊ぶを開始。
「……助かるよ。この子達の名前を教えるね(すでに猫にメロメロだったとは……俺よりかたい中尉が)」
 これまで堅物な面しか見ていなかっただけに意外に思いつつもエースは笑顔で猫達を紹介した。中尉は熱心に耳を傾けていた。
「……(植物愛は無いですが猫好きは持っていたんですね。それにしても……)」
 エオリアもまた中尉の様子を意外そうに見ていたが、それよりも気になるのはもう一人の自分であるリアが中尉に注ぐ眼差しだった。
 そのリアの眼差しは
「……」
 上官や友人を見るような物ではなくもっと熱っぽく切ないもの。
「……(やっぱりそうとうしか思えないですよね)」
 眼差しの意味を察したエオリアは口の端に微笑ましげな笑みを浮かべ、猫についてエースとやり取りをする中尉を見守るリアを見ていた。
 この後、四人はそれぞれ活動場所へ移動。

 調理スペース。

「今回作るのはハーブティーとパンプキンンパイ、スイートポテト。それと栗きんとん、これは外せません」
 エオリアは本日の料理のレシピを一つずつ料理名を言いながらリアに手渡した。
「……秋の味覚ですね」
 リアはざっとレシピ内容を確認しながら洩らした。
「はい。忘れてはいけないのがカップルさん限定ケーキですね。それはモンブランケーキにしようと思います。カップルさんが来店した時サービスでお出ししようと思います」
 エオリアが最後に渡したレシピはカップル用のレシピ。
「……どれも美味しそうですね。きっとお客さんに喜ばれますね」
 しばらくカップル用レシピを見てから顔を上げた所で
「良ければ、差し上げますよ」
 エオリアはレシピをプレゼント。
 途端、
「ありがとうございます。これで少しレパートリーが増えて嬉しいです。中尉って特別な時に甘さ控えめのスイーツをお出しすると喜ぶんですよ。少尉から中尉に昇進された時にもお出しして美味しく食べて頂いて……」
 リアは嬉しそうに笑み、中尉との日常をぽろりと洩らした。昇進祝いにスイーツを振る舞い自分に向けてくれた表情や言葉を思い出しながら。
「それは良かったですね。きっと渡したレシピも喜んでくれますよ」
 エオリアは素直にリアの幸せそうな様子に笑み、注文を受けてたらすぐに作れるように下拵えを始めた。
「……そうですね」
 リアも話をやめて作業を開始した。

 一方。
「……あの二人もたまには素敵な企画をするもんだね」
 エースは顔見知りの双子が珍しくまともな事をしている事に感心しつつ植物を手に席に向かい
「カップル席にはこの子達を飾って寛げる空間を作ってお客さんを歓迎しようか。素敵な思い出を作って欲しいし」
 テーブルの真ん中に置いた。
「君達の素敵なその姿で恋人さん達のおもてなし頼むよ」
 『人の心、草の心』で恋人用席に置いたハート葉っぱのアイビー達が混じった花達に話し掛けた。それに答えるように花達は一層咲き誇った。
 花を置き終えてから店に開店の看板を設置した。

 開店後。
「……なかなか聡い猫だな」
 ゼノンと双子で兄猫の思慮深いシヴァがじぃと自分の顔を見ている様に口元をニヤリとさせた。主と同じ顔をした自分を不審に見ていると。
「……主と同じ存在だ。ただ世界が違うだけだ」
 そう言うなり中尉は優しい手つきでシヴァに向かって手を伸ばすとシヴァは逃げずにされるがままに。
 問題は
「元気だな」
 弟猫のゼノンであった。活動的で好奇心旺盛の元気猫。
「……外に出るなよ」
 主と同じ顔をする中尉にも物怖じせず光輝くトワイライトじゃらしを向けられる度に追いかけ回しじゃれる。あまりにも元気過ぎて勢いで外に出てしまうのではと思うほど。

「……(すっかり馴染んでるなぁ)」
 エースは接客をしながら猫と戯れる中尉を見て和んでいた。

 調理スペース。

「……」
 とあるカップルに料理を運び終わったリアが戻って来た。昼食時となりエースだけでは捌ききれずエオリアやリアもまた積極に加わるようになっていた。
「どうしました?」
 リアの様子がおかしい事に気付き、エオリアは調理作業をしながら訊ねた。
「お祭りのカップルさん達は仲良くて良いですね。先程のお客さん、食事をする間もずっと手を繋いでいて……少し羨ましくて」
 リアは作業をしながらぽろりと本音を洩らした。
 それを聞いたエオリアはしばし考えた後
「リアさんは中尉とお付き合いしているんですか?」
 思い切って聞いてみた。今日再会してからちょいちょい感じていた事を。
 途端
「!!」
 リアの顔色が驚きに変わると同時に心を見透かされた質問に慌てて茶器を落としそうになり
「おおおお付き合いなんて、そそんな関係じゃないです……」
 動揺しまくりに茶器を持ち直してから頬を染め、必死に言葉で誤魔化そうとするも可愛らしい慌てぶりから全く誤魔化し切れていない。
「……そうですか(リアさんの凄い慌てっぷりから推測すると中尉が気になるけどお付き合いしている訳ではないという事でしょうか)」
 エオリアはこれ以上聞いて追い詰めては可哀想と追求するのをやめた。すでに答えは得たので。
「そ、それじゃ、この料理運びに行きますね」
 少し動揺が残る様子でリアはハーブティーを客席に運びに行った。
「……(関係の進展には驚きましたが、幸せになって欲しいですね)」
 リアを見送りながらエオリアは会わぬ間に進んだ関係に驚きつつも同じ存在であるためか幸せになって貰いたいと思ったり。
 この後、ひっきりなしに客はやって来てはスイーツを楽しみ、誰かとの温かな時間を楽しみ猫と和んでいった。
 何とか客の波が引き、一息入れるに丁度良い昼の時間がやって来た時、可愛い来訪者が現れた。

 一息入れる昼の時間。
「……ん?」
 中尉は聞き慣れない仔猫の鳴き声が足元からし、視線を下に向けると
「……どこから入ったんだ」
 黒仔猫が中尉の足に擦り寄りくりくりと可愛らしい目で見上げてきた。
 そこに
「おや、その子は見かけないね?」
 客がいない間にと花の世話に回っていたエースが仔猫に気付いた。
「どこからか入って来たようだ」
 中尉は軽く肩をすくめながら答えるだけで邪険にする様子は全く無い。案外気に入っているようだ。
「へぇ、初対面なのに随分懐かれてるねぇ。可愛いし」
 エースは近付き仔猫の頭を撫でると気持ちよさそうに鳴いた。
 そこへみけねこの「かぼ」ちゃんが寄って来て黒仔猫を優しく毛繕い。
 それが終わったのを見計らい中尉は仔猫を抱き上げた。
 仔猫はみゃーんと鳴いてつぶらな瞳で見つめてきた。
「……首輪が無いと言う事は飼い猫ではないな(……可愛いものだな)」
 仔猫に首輪がない事を確かめる横で中尉はすっかり仔猫に夢中になっていた。

 その様子を
「すっかり懐かれてますね(もし可能なら懐いてるあの猫さんで二人の距離がさらに縮むと良いですが)」
「……そうですね(それにしても猫の相手をする中尉本当に楽しそう)」
 エオリアとリアは和やかに見守りつつエオリアは平行世界の二人の幸せをリアは中尉の事を思っていた。
 この後再び忙しい時間に戻りあっという間に夜となり店の閉店時間が訪れた。

 閉店後。
「……」
 中尉はどうしたものかと出会ってからずっと自分に懐く仔猫を見下ろしていた。
「中尉にとってもこの子にとっても今日は運命の出会いだね。この子、置いてかれたら悲しくて悲しくて泣いちゃうね」
 どこかに行っていたのかエースは出入り口から現れ、軽く中尉を煽った。
「……(そう言えばエース閉店してから姿が見えませんでしたね。もしかして……)」
 エオリアは現れたエースの姿を見ながらふと閉店してすぐに姿が見えなくなった事を思い出すも何と無しにその理由に見当がつくため問いただすような事はしなかった。
「……そうだな。しかし、この世界の住人を連れて行って良いのかどうか」
 煽られた中尉は凄く迷いを見せた。
「確かにそこは気に掛かるね。だから聞いてみたよ。そしたらどうなるか分からないって。別世界に行って異変が起こるかもしれないし起こらないかもしれないから安全の保証は出来ないと。合意の上でどうしてもという事なら構わないって」
 エースが閉店後皆に内緒で消えた理由を明かした。仔猫に懐かれている中尉のためにロズに確認に行っていたのだ。
「……つまり、連れ帰ってもいいという事か」
 中尉は仔猫を抱き抱え、自分に向けるつぶらな瞳を見つめた。仔猫は話を理解したのかまるで付いて行きたいと言うように可愛く鳴く。
 それを見るや
「一緒にいたいと言っているようだから連れて帰っちゃえば? 黒猫は幸運を連れてくるっていうからね。色々と護ってくれるかもよ?」
 エースは連れ帰るように押した。
「例え連れ帰ったとしても任務がある。世話をするのは難しい。残念だが……」
 エースと違って杓子定規の中尉は感情でホイホイ動かないので惜しみながらも諦める決断をするのもはやい。
 しかし
「黒猫ちゃんを連れ帰りたいのなら連れ帰って下さい。お世話なら手伝いますから、中尉」
 中尉のために力になりたいとリアが間に入った。気になる人のために何かしたいという乙女心。
「……そうだな。連れ帰ろう。手伝い頼む」
 少しリアを見やりしばらく思考してから中尉は決断を下した。頼りになるリアも手伝っくれる上に仔猫も望んでいるとなると選択すべきものは決まった。
 中尉の決断に
「はい、任せて下さい」
 リアはぱぁと嬉しそうに力強くうなずいた。きっと戻ったら甲斐甲斐しく仔猫を世話をするに違いない。仔猫のためと言うよりは中尉のために。
「……良かったね。これでこの子も安心だよ」
 エースはほっと安堵の顔で中尉に抱かれている子猫の頭を撫でた。
「……(これをきっかけに猫さんだけでなくリアも中尉も幸せになればいいですが)」
 エオリアは優しい眼差しで仔猫と平行世界の自分達を眺めていた。
 この後、店の片付けをしてから四人は別れた。互いの無事と幸せを願いながら。