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昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう

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昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう
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リアクション

 3年後、芦原長屋内、緒方診療所。

「樹ちゃーん、今日の診療はこれでおしまいだよね」
 診療を終えた緒方 章(おがた・あきら)が現れ
「あぁ、おしまいだ。午前の診察ご苦労様」
 緒方 樹(おがた・いつき)は昼食を終えた我が子である男女の双子の遊び相手をしながら夫を労った。
「昼食が準備してあるから食べると良い」
 樹はテーブルの方に顔を向け昼食を用意した事を教えた。
「お、今日の主菜はカツかぁ、元気が出るよ……いつもありがと」
 章は妻の頬にキスをしてから腹ぺこだと言わんばかりに食事を始めた。
「……全く」
 夫の挙動に少し照れてから
「そうそう、アキラ、手紙が届いていたんだ。消印は3年前、バカ息子が自分に宛てた手紙だが、読むか?」
 樹は思い出したように未開封の一通の手紙を見せた。
「ん? 読んでみたいね……」
 章はそう言って樹から手紙を受け取り封を開けて読み始めた。
 その内容は
『拝啓
親父、お袋、元気ですか
3年前にこの手紙を書いてます

多分、ツェツェの治療がうまくいっていれば
俺は駆け落ちしてると思います……ってか、親父は絶対許さねーだろ?
かつての恋敵の娘と添い遂げたい息子なんてよ!

だから、俺達は駆け落ちします!
次合うときにはツェツェの治療が必要なときです
親父の力を借りなきゃなんない時です……分かるだろクソ親父

丁度3年前、親父もお袋の懐妊で大慌てしただろ!
まあ、そんな時には行きます、よろしくお願いします……じゃーな

草々

2人の息子 緒方太壱より』

 という物だった。読み終わった章は樹に渡して樹が読み終わってから打ち合わせを始めた。
「色々と宣言して出発したようなモノだったのだな、バカ息子は……宛先を芦原長屋にしたのもこうなることを見越してやっていたんだろうな……」
 樹は宛先を見ながら章と犬猿の仲の父親の娘と仲良く浮遊大陸探検中の息子の姿を思い浮かべながら言った。
 そして
「二千華、三咲、喜べ、お前の兄が帰ってくるぞ」
 子供達に吉報を知らせはしゃぐ娘の二千華を高い高いをする樹。
「にーに? おしゃしんのにーに?」
息子の三咲もはしゃぎ始めると
「そうだ三咲、写真でしか見られなかった太壱にーにが帰ってくるんだぞ」
 樹は息子の頭をくしゃくしゃとした。
 ここで
「こうなる事を見越してかどうかは分からないけど、急患の対応しといた方が良いかもしれないね。樹ちゃんは判定キットを頼むね」
 章はヒレカツをかじりつつ樹に指示をする。
「あぁ、用意をしておこう。おそらく長旅の疲れもある事も考え、寝泊まりが出来るように準備もしておくか」
 樹は息子が連れて来るだろう未来の義理の娘の心配をしていた。妊娠を経験した事があるので尚更である。
「お願いするよ。太壱君の事だけど、何か食べて落ち着けるものも準備しないとまずいかな?」
 章は食事を進めながらふと息子の事を気に掛ける。
「ああ、そうだな。太壱のことだから、飲まず食わずで来る可能性があるな」
 樹も思い至り、大騒ぎする事も容易に想像する。
「だから、樹ちゃん、残っている物で何か作れそうかい?」
 章は味噌汁をすすりながらのんびりと訊ねた。
「丁度カツが残っているから卵でとじてカツ丼にしておこう」
 樹は章の食事を見ながらあっという間にメニューを思いついた。
「うん、それで大丈夫だと思う……って手際良いね」
 樹のあまりの速さに章が感心すると
「お前のワガママを聞いていたら、直ぐに料理が作れるようになってしまったわ。あとは……緑茶でも入れておけばよいか?」
 樹は苦笑しながら言った。
 それから
「そうだね。あと、二人はどうしようか?」
 章は緑茶はともかくと太壱にーにに会えるとはしゃぐ子供達を微笑ましげに見ながら言った。
「そうだな。太壱達が戻って来たら慌ただしくなるからな……」
 樹は息子が戻って来たら対応に追われ子供達の相手をするどころではない上に太壱の方も双子の相手をしている場合ではないだろう。
 そこで
「二千華と三咲は向こうの部屋で遊んでいてくれるか?」
 樹は子供達に大人しく別室で遊んで貰う事にした。
「はい、みーちゃ、にーちゃといっしょにおにんぎょさんあそびしよ!」
 元気よくお返事をした二千華が隣の三咲に言うと
「やだー、みーちゃはろぼっとあそびするのー」
 三咲はむぅと頬を膨らませながらも二人は仲良く別室に移動した。
 その後、章と樹は息子達のためにあれこれと準備を始めた。

 無事に準備を終えた後。
「……後は帰りを待つだけだね、樹ちゃん」
「そうだな。しばらくしたら祖父母になるのか」
 章と樹は今か今かと息子達の帰りを待つ。
 しばらくして二人の耳に騒々しい音が入って来た。
「言っている側から騒々しい足音がしてきたね」
「おそらく太壱だな……まあ、原因は手紙で推測できるが」
 章と樹は玄関に向かった。章の手には封筒に戻した今朝届いた手紙があった。

 芦原長屋、緒方診療所の玄関。

「親父!!」
 両親の予想通りセシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)を抱えた緒方 太壱(おがた・たいち)が立っていた。何も知らぬ本人は大切な人が倒れ真っ青である。
「ツェツェが、ツェツェが倒れた! 親父とツェツェのとーちゃんの力で治ったはずなんだろ? 早く診てくれよ! このままツェツェが死んだら」
 太壱は真っ青のまま嫌な想像が駆け巡る。愛する人を失うのではと。
 その時
「……ん……ここは……って、何でわたし、タイチにお姫様だっこされてるの!?」
 騒々しさからセシリアは目を覚まし自分の状況に仰天した。
「ツェツェ!! 大丈夫か? 突然倒れたんだぞ。覚えてるか?」
 目を覚ましたセシリアの様子にひとまず安堵した太壱は倒れた時の事を訊ねた。
「……倒れ……そう言えば何か気が遠くなって……(それにこの気持ち悪いの……もしかして)」
 まだ少しぼんやりする頭をフル回転させ倒れる間際の事を思い出すと同時に心当たりのある気持ち悪さに襲われ、口元に手を当てた。
「やっぱり、お前無理してたろ。何で言わなかったんだよ! あん時やっぱり……」
 太壱がさらに心配を重ねようとした時
「タイチ!」
 心配される事と鈍い事に堪らずセシリアは太壱の顔をぼこりと殴った。何せセシリアの身に起きているのは心配事ではなく祝い事。
「うわっ、顔殴るなよ!」
 察していない太壱は殴られバランスも崩すも抱っこしているセシリアは落とさない。
「親父、お袋! ツェツェの様子が変なんだ、これってやっぱり……?!」
 太壱がまた言葉を重ねようとしたところで
「ともかく、お帰り太壱君」
 章が言葉を挟んだ。太壱が送った手紙を意地悪そうな笑顔でひらひらと見せつけながら。
 途端
「親父、その手紙って……まさか……」
「……もしかして……あの手紙、タイチが……という事は……」
 太壱とセシリアは驚きと共に章の手にある封筒の正体を知り別の意味、お見通しされている事で戸惑い始めた。セシリアは自分の両親にも同じように手紙が届いているだろう事を知った。
「太壱君は中に入ってゆっくりと落ち着こうか、セシリア君は樹ちゃんと一緒に奥の部屋へ、ね?」
 何もかも知っている章はにやにやと余裕の構え。
「……お前の食事も小娘の寝泊まりの準備も全て整ってある。よく来た」
 樹もまた準備万端と呑気を通り越して余裕を見せ二人を迎える。

「……ツェツェ……その……ありがとうな……俺、今すげぇ嬉しい、絶対に二人を護るからな!!!」
 太壱は手紙を思い出してセシリアの身に新たな命が宿っている事を知るなり大袈裟に大感謝。
「……タイチ、喜んでくれるのは嬉しいけど、もうそろそろ降ろして……(パパーイ達に連絡しなきゃ)
 太壱の喜びように嬉しく思うもあまりにも大袈裟で少々気恥ずかしさを感じるセシリア。胸中ではやるべき事に気持ちが少し曇っていた。何せ父親が太壱の父親と犬猿の仲だから。
 とにもかくにも太壱とセシリアは診療所に入った。
 念のために行った検査の結果は予想通り若い二人に新たな家族が増える事を教えた。
 太壱はカツ丼を食べて緑茶を飲んで空腹を落ち着かせ改めて父親になる事を実感し、セシリアは疲れもあるため栄養面を考えて章に点滴を打って貰い、両親に連絡を入れた。