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我を受け入れ、我を超えよ

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我を受け入れ、我を超えよ

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 無限の荒野に立っている紫月 唯斗(しづき・ゆいと)

 どこまで見ても荒れ果てた大地には何も存在していない。

 荒野に立って一人思案に浸る唯斗。
 まだ、もう一人の己は現れていない。

「あー、ここんトコいろいろあったしなぁ……手を伸ばしても救えなかった人がいた。失わせてしまった人がいた。約束を違えてしまった人がいた。正直、かなり凹んでる……うん、かなり凹んでる。自分の力量が足りてないから起きちまった事だから尚更、な」

 気配を感じれるよう殺気看破は常時発動しつつ、この世界について分析していく。

「この心象世界が荒れてんのも内心大ダメージで立ち直れてないって事か……。それと、合わせて俺の破滅衝動が合わさった、のか? 失った直後は憎悪と破壊衝動が激しかったからなぁ。かなり酷い状態だったのは確かだ。うん」

 殺気看破に引っ掛かる気配。

「オーケー、俺が乗り越えるべきは俺のマイナス。それで良いだろう……さぁ、始めよう」

 超感覚で黒狼の耳としっぽを生やし、迫りくる漆黒の獣と化したもう一人の唯斗。

 神速で繰り広げられる攻撃。
 守りなど存在せず、互いに牙をむく。

 正中一閃突きを紙一重で避けられ、反対に伸びてくる手には体術回避で後ろを取り、投げの極意で投げ飛ばして距離を取る。

 身に付けたスキルを使わなくても、撃ちだされる威力は一撃一撃がイコンをも破壊する威力を秘めている。

 当たらない互いの攻撃。
 均衡が続く。

 そんな中、唯斗の中で変化が起きる。
 次第に思考がクリアになっていくのだ。

 ハイスピードで繰り広げられる高威力のやり取りは、作られたこの荒野の映像がじらつく程。

 本物に勝る本物じみた映像が狂う程の中で動く唯斗の身体。
 どこか身体と離れたような、スピードが遅くなったような感覚を抱き、悟りを開く感覚を感じる。

「(ああ、俺はコイツを殺したい……俺は、俺を、殺したいほど憎んでいる。救えなかった俺を、無力な俺を、消してしまいたいと、もっと強い俺を望んでいる。
……ああ、心底、嫌になる。自分を否定して解決だなんて温い事を思うだなんて)」

『コロス。もっと強くなりたい!』

 未だ衰えない殺気のまま唯斗を睨んでくる。

『無力なお前……そう、お前を消し去りたい!』
「……違うだろう!! テメェが弱いのなんざ既に解ってただろうが! それでも足掻くと決めたんだろうが!」

 気付いた事を言葉で突き付けられるが、唯斗はそれを否定する。
 もう答えは出たのだ。

「失ったのなら取り返せ! 自分の選んだ結果は全て受け入れろ! その罪は俺が背負わなければならないモノだろう!」

 もう一人の唯斗の襟首を掴み、爆炎掌で爆破を起こす。
 吹き飛ぶ先へ視線を向ける。

「今迄を否定なんてしねぇ……全て受け入れて、背負って往くだけだ」

 すぐさま起き上がってこちらへ向かってくる彼。
 彼は唯斗のかつて救えなかった無力な自分自身。

 獣となっても強さを望む。
 強さを求めつつ、罪からは目をそむけている。

 己自身を否定して、その場から動けないでいる。

「ああ、もう大丈夫だ。俺は俺で在り続ける……通って来た道程の全てを背負って、これからも、な」

 もう一人の自分に覚悟を、誓いを立て霊気剣を具現化させる。

「それじゃそろそろ終わりにしようぜ?」

 飛びかかって来る唯斗に霊気剣を投げる。

「『貫け!』」

 鋭く飛んでいく霊気剣を加速させるように、インペリアルイディクトで命じる。
 霊気剣の周りに風が発生し、撃ちだされるかのようにスピードが増す。

 唯斗を貫いた霊気剣は、そのまま奥の方へ飛んでいく。
 凄まじい音と揺れる大地。
 空間の一部を破壊して、ようやく霊気剣は姿を消した。

「俺の覚悟、分かったか?」

 地に伏せた唯斗はじっと自分を見る。
 小さく頷いて、彼は唯とに溶け込んだ。

 そう、獣の唯斗と自分が一つになったのだ。



◇          ◇          ◇




 全てのカリキュラムを終え、一息つくレオンと梅琳。

「とりあえず、大きなことが無くて良かったわね」
「そうだな。ただまぁ、装置の耐久性や救助方法に改善が必要だろうな」
「確かにそうね。まさか空間の一部とはいえ破壊できる人がいるとは思わなかったわ」
「アレは修理に出さないといけないな」

 複数作っていた装置の内、ひとつがダメになってしまった物。
 乗り越える為の爆発的な威力に耐えられるよう、改善する必要なことや、監視する方法など、改善点がいくつも上がってきた今回のカリキュラム。

 受講者たちのさらなる進化を願いつつ、その手助けを出来るようにするためにはどういった風にすればいいのか、講師陣も己自身を高めていかなければならないのだと再確認するいい機会になったのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

冬神雪羅

▼マスターコメント

この度は『我を受け入れ、我を超えよ』に参加下さりありがとうございます。
改めまして、冬神雪羅です。

今回初めてスペシャルシナリオを手掛けましたが、いかがだったでしょうか?

それぞれがそれぞれの過去を持つように、それぞれがいろいろな手段で乗り越えていくのは書いていて楽しかったです。

少しでも面白かった、楽しかったと思えることを願っています。

それでは、またの機会がありましたら参加してくださると嬉しい限りです。
それでは失礼します。