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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~
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第1章 13日の魔物 1

 2009年6月13日。
 東京都各地では正体不明の爆発・破壊・通り魔事件が勃発していた。それは、まるで目に見えない何かが暴れているような事件である。
 突如、通りに停めてあった車がボンッと真上に吹き飛んでひっくり返る。電柱が真っ二つに割れて、路面へと倒れる。店のショーウインドゥを飾っていたガラスが一斉に割れて、何か獣の奇声にも似たひび割れた声が響き渡る。
 一般人には何が起こっているのか分からない。悲鳴をあげる者、野次馬となる者、逃げ出す者――現場はパニックになっていた。
 そこに駆けつけたのは警察、そして正体不明の一団であった。ヤクザ者から学生らしき者まで、年齢から服装までバラバラの集団。彼らは警察よりもさらに上の権限があるのか、一般人の救助や誘導を警官に任せて、自分たちは事件の解決に動き始めていた。
「避難誘導は任せました! 俺たちは魔物を引き付けます!」
 言ったのは、御凪 真人(みなぎ・まこと)という青年だった。
 警察よりも上の権限を有する特殊チームの中に所属する、年齢にしてはどこか大人びて理知的な雰囲気もある青年である。
 その正体は――2022年という未来からきた契約者なる存在。
 いや、それはこの集団にあって珍しいものではない。彼らはこの正体不明の事件を解決するために、わざわざ未来から時を遡ってきたのだ。
 彼らには見えるのである。本来はこの時代に存在しているはずではない、イレイザー・スポーンに寄生された『魔物』の姿が。
 それらもまた、6月15日に繋がるはずの浮遊大陸パラミタと地球とのリンクを阻止しようとしてやって来た、時を遡った存在である。
 パラミタと地球が繋がらなくなれば、いまあるはずの真人たちの未来は失われてしまう。それだけではない。パラミタと地球。二つの世界が破滅の運命をたどることにもなるかもしれないのだ。
 それだけは、絶対に阻止しなくてはならなかった。
「真人っ……私たちは街の人の救助は?」
 真人のもとに駆けつけてきた一人の少女が聞いた。
 セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)――真人のパートナーたる娘である。彼女のようなヴァルキリーと呼ばれる種族も、この時代では認識されていないパラミタの種族だった。
「部隊は救助チームと対魔物チームに編成されています。俺たちは魔物の対策に集中しましょう。警察も協力してくれているみたいですし」
「了解。それにしても……よく警察が協力してくれるようになったわね。私たちみたいな集団に」
 セルファは、自分で言っといてなんだが、もし逆の立場だったら信用なんて出来ないと思っていた。身元を証明できるものなんて一つもないし、街で暴れる『魔物』ですら、警察には一部の素質ある者――つまり、未来の契約者に繋がる者しか見ることが出来ないのだから。
 すると、真人はその疑問に軽く笑って答えた。
「そこは、石原さんやアーデルハイトさんの力ですよ。それに、なんでも裏の世界にまで影響力のある巨大企業の権力者が手伝っているとも聞きます。警察にも上層部から圧力がかかっているようですし、今の俺たちは謎の事件を解決する『特殊部隊』として認識されてますよ。警察も、必要以上には干渉してきませんし、上には逆らわないので協力的です」
「なるほどねー。石原っておじいちゃんはすごいってわけか」
 パラミタと地球を繋げる役目を背負った老人は、いまはここにはいない。
 しかし、部隊に編成されている以上話は聞いていた。セルファにとってすれば単なる隠居爺さんにしか見えないのだが――年寄りは甘く見てはいけないということである。
「ともかく、被害を最小限に抑えないと。それが俺たちの役目ですから」
 二人は武器を構えた。
 目の前で暴れているのは魔物の一群である。翼の生えた人型モンスターの姿をしている。一般的な知識から近しいものを言えばガーゴイルか。真人たちも、パラミタで何度か目撃はしているモンスターである。
 しかし、いまのガーゴイルは、その記憶にあるものとは少し様相が違っていた。血走った鋭い眼光に、血管を浮き上がらせた膨張した腕。まるで神経と筋肉が常に悲鳴をあげているような、そんな印象さえも感じさせる状態にあった。
 おそらくは――イレイザー・スポーンに寄生されているからである。
「セルファ、油断はしないでくださいね」
 真人が言って、魔物に飛び込んでいった。
「誰に言ってるのよ! そっちこそ、やられないでよ!」
 遅れて、セルファが地を蹴るように跳ぶ。
 その背中に生えた強化光翼が閃光のような光を放って花開いた。ぶおんと猛々しい風の音を発すると、セルファは空を飛ぶガーゴイルと空中戦を繰り広げる。叩きつける黎明槍デイブレイクと、ガーゴイルの爪が幾度となくぶつかり合って激戦の火花を散らす。
 朝の太陽の光のような輝きを放つ槍が、ガーゴイルを吹き飛ばした。
 それが、魔力を高めるための詠唱を続けていた真人の照準に入る。
「真人!」
「分かってます!」
 これまで培ってきたセルファとの息の合ったプレー。真人の詠唱の長さも、その呼吸も、すべてを分かった上でセルファはガーゴイルを吹き飛ばしたのだった。
 膨大な雷の力を一点に込めて――天のいかづちがガーゴイルを貫く!
 次の瞬間、ガーゴイルは稲光に焼かれて爆発した。
「ひゃ〜、は、派手にやったわねー」
「ま、まあ、この方が多分、街の人も誤魔化せる、かな……?」
 真人は予想以上の威力に、苦笑を浮かべていた。
 すると、
「やるねぇ、真人くん」
 他のガーゴイルと戦っていた一人の男が、にへら、とも形容される脱力感のある笑みを浮かべながら、真人に声をかけた。
「瑠樹さん。そっちはどうですか?」
「まあ、ぼちぼちだね」
 言いながら、曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)は片手で振り回していたホエールアヴァターラ・バズーカを肩にすえて構えた。
 ドンッ――という鈍重な音が鳴ると、バズーカから射出された弾が、空を飛んでいたガーゴイルに見事に的中する。爆発と炎上。火につつまれたガーゴイルが、無情にも路面に墜落した。
「ぼちぼちとか言いながら、容赦がないわね」
 半ば呆れた様子でセルファが言う。
 瑠樹はやはり先ほどの変わらない脱力的な笑みを浮かべた。
「ははっ、かもね。ま、今回は光学迷彩で隠れる必要もないしねぇ。そのぶん、思いっきりやれるから楽だよ。マティエのやつも、やる気になってるしねぇ」
 そう言って、瑠樹はある一点を指さした。
 そこにいたのは、瑠樹と同じホエールアヴァターラ・バズーカを構えている――着ぐるみだった。
 これもまた、パラミタ大陸が出現してその正体を露わにし始める種族である。名はゆる族。その姿はまんま着ぐるみにしか見えない特殊な種族だ。背中にチャックがあったりすることから、中の人がいるというもっぱらの噂だが――真実は闇に包まれている。
 瑠樹のパートナーである白猫の着ぐるみのような姿をしたマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)も、その種族の一人だった。
「マティエー! こっちはあらかた片付きそうだ。そっちは……」
「へ?」
 瑠樹に呼ばれてマティエが振り向こうとする。
 しかしそのとき、背後にガーゴイルが迫っていた。
「……ッ!」
 一瞬、真人たちは助けに動こうとする。
 だがマティエは、すぐにその気配に気付くと、一瞬で身を翻した。同時に、振り向きざまに回転蹴りがガーゴイルの腹に叩き込まれる。
「着ぐるみだって、戦えるんですからー!」
 ドンッ――と吹き飛ばされたガーゴイルに、更なる着ぐるみの追撃。吹き飛ばされたガーゴイルに追いついたマティエが鋭い蹴りをお見舞いして、ガーゴイルを地に叩きつけたのだった。
 そして、バズーカの引き金を引く。
 すでに叩き伏せられたあとのガーゴイルは、最後にバズーカの弾を受けて爆発した。
「…………」
 地面は爆発でえぐれ、炎上する道路。
 地獄絵図のような中で、白猫の着ぐるみは可愛らしく、
「やりましたですー」
 と言っていたが、警察たちは震え上がっていた。
「白い悪魔だ……」
 そう言ったのは一体誰か。
 その後、『白い悪魔』の噂は日本警察の間でしばらく噂になることになった。