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【2020修学旅行】欧州自由気ままツアー

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【2020修学旅行】欧州自由気ままツアー

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湯気の向こうに大切なあなた
 店内は、その場で紅茶を味わうことができるカフェエリアと、多くの高級茶葉が並んでいる買い物エリアに分かれている。
とりあえずおみやげのお菓子を、と考えた壮太は、適当に棚に並んでいるビスケットに手を伸ばそうとした。
だが、そのたびにエメに「それはいけません」と止められてしまったため、結局お菓子は買えずじまいだ。
(エメがあれだけ止めるんだから、きっとたいしてうまくないんだろうな……)
壮太はそう納得した。
エメの本心は、帰ったら手作りのお菓子でお茶会をしたいので、ここでお菓子を買い込んで欲しくなかったのだが。
「ま、帰ったら楽しみにしていてください」
お菓子をあきらめた壮太を見て、エメはひとり満足そうにうなずいたのだった。

 それからエメはまっすぐ茶葉の棚に向かい、そこで真剣に茶葉選びを始めた。
むろん、素晴らしいお茶会のためである。
 だが、こうなると困ってしまうのが壮太である。
「お、おいエメ……あんまり離れないでくれよ。ほら店員さんこっち見てるし」
 一人焦る壮太。エメは茶葉に夢中。
「うわ、どうすんだよ……」
 そんな壮太の姿を見て、商品選びに迷っていると勘違いした店員さんが、人の良さそうな笑顔で話しかけてきた。
「うわ、えっと、どうすりゃいい……。と、とりあえずうなずいておくか」
 こくこくとうなずいてみせる壮太。
 それをどう捉えたのか、ますます話しかけてくる店員。
「ええ〜〜……。まいったな」
 壮太はほとほと困り果てていた。
「紅茶の初心者なら、こっちの棚に並んでいるのが基本的なやつだからおすすめだって言ってるぜ」
 助けに入ったのは、同じく店内で買い物をしていたセルマ・アリス(せるま・ありす)だ。
「そっか。た、助かった」
 その後セルマは「彼は話し下手だからそっとしておいてやって」と店員に伝え、壮太を救ったのだった。
「おみやげかい?」
 助けてもらった礼を改めて言いつつ、壮太はセルマに尋ねた。
「ああ。来られなかった友人と……彼女にな」
 「彼女」と言ったとき、ほんのわずかにセルマの耳が赤くなった。
「幸せ真っ盛りというやつじゃな」
 セルマに同行していたパートナーのウィルメルド・リシュリー(うぃるめるど・りしゅりー)が口を挟む。
「ルーマ、幸せそうだね〜」
 同じくセルマのパートナーであるミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)が、自分も幸せいっぱいというような声を出す。ゆる族であるが故に、表情は見えないが。
「……」
 そんなミリィを、ウィルメルドは複雑な表情でちらりと見た。
 壮太とセルマが楽しそうに話している隙をみて、ウィルメルドはミリィをさりげなくセルマから離れたところに引っ張ってきた。
「ミリィ、少しばかり尋ねたいことがあるのじゃ」
「なに〜?」
「ミリィはセルマのことが好きだったのじゃろ? セルマに恋人ができたようじゃが、かまわんのか?」
 ゆる族ミリィの表情は動かない。表面上は。
「ルーマのこと好きだよー。でも、ワタシが一緒にいたのはルーマに幸せになって欲しかったから」
 ウィルメルドはそれを聞くと、目を細めてうなずいた。
「そうじゃな、ではお前の幸せはわしが願っておくとしようかの」
「ワタシが幸せになる?」
「幸せにならなくていい奴などいないのじゃ。それはお主も同じじゃぞ?」
 ミリィが一瞬、静かになった。動かない表情のその下で、何を思っているのだろう。
 二人の間に、あたたかな空気が流れたような気がした。
「英語なんか読めないわよ! 中国語表記しときなさいっ!」
 その空気を見事に打ち破ったのは、彼らの連れである中国古典 『老子道徳経』(ちゅうごくこてん・ろうしどうとくきょう)だった。
 見ると、言葉の通じない店員に向かって、大声でわめいている。
「英語が読めないというよりは、空気が読めないのぅ」
 やれやれと、ウィルメルドはため息をひとつつき、ミリィとの会話を終えた。

「まあまあ。ほら、店員さんがお茶のいれかたを教えてくれるってさ」
 壮太とのおしゃべりを中断したセルマが、よしよしと老子道徳経をなだめる。
 紳士、と呼ぶにふさわしい雰囲気を身にまとった年配の店員が、紅茶のいれかたを教えると申し出てくれたのだ。
 身なりや話し方からして、その男性が店長だろうと、セルマは思った。
「ほうほう、入れ方まで教えてくれるとはいい店員じゃない。私も聞いておくわ」
 老子道徳経は、メモを用意した。
「じゃ、始めて」
 男性店員は、紅茶のいれかたを語り始めた。
 ……が。
「って店員が話すのも英語じゃ意味無いわよ!」
 当然、英語での解説である。
「もう、セルマがメモ取りしておきなさいね」
「はいはい」
 結局、メモとりと同時に、帰ったらおいしいお茶を入れる担当も、セルマに押しつけたのだった。
「一緒にレクチャーを受けていいですか?」
 紅茶のおいしいいれかたと聞いて、同じく茶葉のコーナーにいたエメも駆けつけた。
「じゃ、店員さん。よろしく」
 老店員はうなずいた。
「まずは基本的なことですけど……水は軟水がよく、適正な温度がございます。それが100℃です」
「軟水、ね……」
 さらさらとメモ。
「ああ、ポットですが、鉄分の含まれたものは使用しないようにしてくださいませ」
「そんなところまで、普段は考えていませんでした」
 エメが感心する。
「あとはそう、カップですね。カップは香り、色を楽しむために白く、そして浅いものが好ましく……」
 そこで、老店員の動きと言葉がぴたりと止まった。
 その目線は、出入り口に現れた、新たな客の姿に注がれていた。