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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

リアクション


5,火を噴くデコトラ



 一番前のトレーラーからでも、はっきりとトラックの姿が確認できた。
「許可さえ降りれば、いつでもいけます」
 機銃座に座る天海 聖(あまみ・あきら)は、通信が入ってからずっと相手を捉えた状態のままを維持している。
 状況から鑑みれば、あのトラックが敵である可能性は高い。それでも、先手必勝だとこちらから攻撃を仕掛けるわけにはいかないのだ。非公式の任務であるならまだしも、この任務はあくまでプラヴァーの護衛なのだ。少なくとも、そう提示している以上体裁は守らなければならない。
「動きがないな……こっちの装備を見てびびったとか?」
 天海 北斗(あまみ・ほくと)もまた、向かってくるトラックを目でしっかりと捕捉している。
 白線で区切られた道路を走っているわけではないので、対向車とすれ違うような距離ではない。車の横幅で言えば、五台以上十台未満といった距離がある。
「不審な動きがあれば攻撃指示が降りでしょう」
 あの距離からこちらに近づこうとハンドルを切ってからでも、こちらの射撃は十分に間に合う。取り付かなければ、プラヴァーの奪取という目的が達せない以上、攻めてくるならこちらに向かってこなければならない。ハンドルを急に切れば、ここからな目視で十分確認できる。
 もう間もなくすれ違うといったところに来て、ついにデコトラに変化があった。
 コンテナ部分が上へと開閉していったのだ。ステージカーと呼ばれる、移動式のステージだ。そして、開いたハコの中に人の姿が確認できる。
 中に居た人は三人おり、その全てがこちらに向かってロケット砲を構えていた。こちらがそれを認識した時には既に遅く、攻撃指示が飛び交ったのとほぼ同時にロケット弾がこちらに向かって飛翔する。
「撃ち落せ!」
「無茶言わないでください!」
 機銃でそんな曲芸は不可能だ。向かってくるロケット弾への対処は、仲間に任せて聖は次のロケット砲を構えようとしている三人の乗る、トラックのタイヤ付近に向かって弾薬をばら撒いた。

「プラヴァーを持って帰るつもりじゃないんですか!」
 トレーラーの助手席で志方 綾乃(しかた・あやの)はどっかの誰かに向かって突っ込んだ。
 爆発物を利用しないなんて考えていたわけではないが、彼らの目的はプラヴァーを手に入れることのはずだ。
 ロケット砲を出会い頭にぶっぱなすというのは、むしろ壊すのが目的としか思えない。よくよく狙ってトレーラーだけ壊すのではなく、すれ違いの瞬間にぶっ放してきたのだ。どれか一発当たりますように、といった投げやりな精度で。
「……待てよ、そういえば地雷も解除してくださいと言わんばかりの設置でしたし、このぐらいなら対処できるだろうと考えているのでしょうか」
「あの……考察はあとに回して、ルートから外れてないか確認を」
 運転手、天海 護(あまみ・まもる)が言う。このトレーラーは一番先頭だ。追っかける背中が無い以上、道は自分達で確認していくしかない。
「ちょっと待ってください……。少しずれてますが、誤差の範囲ですから修正は容易ですね。あれをなんとかできれば、ですが」
 前方、少し小高い丘の背後から、次々とバイクに乗った集団が飛び出していた。一瞥した限り、先ほどのような重火器を持った輩の姿は無い。くさり付きのフックを振り回したり、ボウガンを構えたりしている。
「いっそど真ん中を突っ切って、とは言えないのが難しいところですね」
 バイクに乗った雑魚の集団なら、突破するのが一番楽な選択肢だ。しかし、荒野に入ってからすぐに、こちらの先遣隊が地雷を見つけている。彼らは、地雷を用意しているし、その全てを使い切ったとは限らない。
「足を止めて迎撃する?」
「本当は私が決めることではないと思うのですが、志方ないですね……同じ賭けなら突破した方がリターンが大きいです。覚悟を決めて一気にいきましょう」
 などと威勢よく綾乃は言ってみる。護はブレーキに足を伸ばしてないし、止まるつもりなどは無いは明白だった。判断を下したというよりは、声援を送ったというのに近い。
 護は危機的状況に対して、むしろ燃えるとか言い出すような人間ではない。それが、ここで迷わず突破を選択しているのは、こういう場合のシュミレーションが行われていて、突破するように最初から決まっていると考える方が自然だ。
「僕達は…きっと大丈夫」
 その言葉は、綾乃は聞こえなかった振りをした。



 先頭のトレーラーは、予定通り問題が発生しても決してブレーキを踏まず、突っ切るつもりのようだ。
 その様子を空から見ていた黒乃 音子(くろの・ねこ)は、すぐににゃんネルに指示を出した。
 「にゃんネル! トレーラーに取り付こうとしているおばかさんを追い払うにゃ!」
 命令を受けて地上に向かって飛び込んでいく。ボーリングのピンのような兵器には、ニャンルーが乗っていて、あとは各自が頑張って戦ってくれる。
「吹き飛ぶにゃ!」
 さらに音子は鰹型サイコガン、鰹キャノン・アーマーを地上に向けた。
 うじゃうじゃいるバイクの集まっているところに向かって撃つ。榴弾のように着弾すると衝撃が広がり、蛮族を倒してはいないがバイクを転倒させてまとめて機動力を奪う。
 このまま上空から一方的に攻撃をし続けられれば簡単だろうが、そうはいかなかった。
 バイクから投げ出された何人かが、こちらに向かってボウガンの矢を放ってきた。
「そんなのに当たるわけないにゃ」
 最初は回避するのは容易かったが、だんだんボウガンの射手の数が増えてくるとそうも言ってられなくなる。攻撃の手数が減って、回避に専念してしまうようになれば意味がない。と、さっくりと見切りをつけて音子は地上に飛び込んだ。
 武器も鰹キャノン・アーマーから、にゃんこクロウに武器を持ち替える。
 飛び込んだ先は、敵のど真ん中だ。周囲を囲まれる形になるが、厄介なボウガンを相手が使えば、仲間に当たってしまう場所でもある。
「さあ、誰から先に爪の錆になりたいのかにゃ?!」
 ボウガンに持ち替えていた敵は、とっさに武器を切り替えられない。動揺と躊躇の中を駆け回って、とにかく敵を無力化していく。
 音子が暴れている間に、一台目と二台目のトレーラーの間に配置されていた契約者が追いついて、状況が乱戦へとシフトしていく。そうして、二台目のトレーラーが通り過ぎる頃には、待ち伏せ襲撃してきた集団は半分以下になっており、三台目がやってきた時にはもうほぼ鎮圧されているような状態になっていた。
 そして、いつまで経っても四代目のトレーラーはやってこなかった。



 兵器の進歩は、戦争があっても無くても進んでいくものだが、中でも装甲の進化というのは凄まじいものがある。その装甲の進化の速度に対して、攻撃する側である兵器の進化は一歩及ばない。
「まさか、盾になるために起動することになるとはな」
 地面に肩膝をついたプラヴァーの背後には、横転したトラクターの姿があった。
 プラヴァーに乗り込んでいる松平 岩造(まつだいら・がんぞう)が自嘲気味に言ったように、今現在守っているのは、プラヴァーではなく後ろのトラクターだ。
「また来るぜ!」
 ドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)がレーダーでこちらに向かってくる熱源を示す。それに反応した岩造は、機体の装甲の厚い部分でロケット弾を受け止めた。
「すげえな、さすが第二世代ってわけか」
 ロケット弾が直撃しても、プラヴァーにはせいぜい表面に傷がつく程度の損害しかない。蛮族が使っているロケット砲は、かなり昔から存在する古い対戦車用のロケットランチャーだ。進化を重ねてきた装甲に対して、その武器では効果的な打撃を与えることは不可能だ。
 プラヴァーの装甲であれば受けきれるが、しかしトレーラーはそうはいかない。直撃したら確実に壊れてしまうだろう。イコンに稼働時間という制限がある以上、こんな荒野の真ん中で移動のための足を失うわけにはいかないのだ。
「全く、運が無いぜ」
 トレーラーの運転席這い出したテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)は、盾になってくれているプラヴァーの背中を見て大体のことは理解した。振り返って、横転して割れた窓を丁寧に外して外に捨てると、手を伸ばしてまだ中に居る魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)を引っ張り出す。
「他の三台は敵の待ち伏せを突破したようですよ」
「そいつは朗報だ。あとはこっちだな」
 二人が運転していたトレーラーは、運転席の近くにロケット砲が着弾してしまい、トレーラーが横転してしまったのである。幸い、ガラスは割れてしまったがトレーラーそのものは酷い損傷があるようには見えない。動作確認をしないと何とも言えないが、それをするには周囲の敵が邪魔だ。
「大丈夫か?」
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が駆け寄ってくる。
「怪我はありませんよ」
「敵はあれだけか? デコトラは三台いたろ」
「二台は残りを追ってった。こっちに残ったのは一つだけだ」
「舐められてんのか?」
「どうだろ? 火力が強いのが残ってるみたいだけどな」
 ロケット砲は数がそこまで無いらしく、最初の三発と、その後二発は確認したがそれ以降はサブマシンガンと思われる武器での攻撃にシフトしている。
「イコンはあくまで盾なのですね」
「なんでだ? 突っ込めば終わりそうなもんだろ」
「輸送手段を失えば、プラヴァーを放置しなくてはなりませんから」
「……そうか、丁度この辺りは中間地点だもんな。進むにしても戻るにしても、稼働時間が持つかどうか」
 動かないイコンはただのお荷物だ。いや、お荷物と違って運ぶこともできない。
 足が壊されてしまえば、最悪プラヴァーを放置する選択をしなければならない可能性がある。
 もし足を失ったら、運ぶ手段を用意する必要がある。だが、前に進んだ仲間はそれぞれ一機ずつプラヴァーを運んでいるから、積載スペースに余裕は無い。となると援軍を呼ぶ形になるが、イコンの輸送手段を用意するのにかかる時間をずっとここで防衛しているというのも中々難しい。
 そのため最善の結果は、トレーラーを守りきった状態で、ここに居る敵を殲滅することになる。
「そのようなものでは、壁にもならんでござるよ!」
 武蔵坊 弁慶(むさしぼう・べんけい)武者鎧 『鉄の龍神』(むしゃよろい・くろがねのりゅうじん)の乗る小型飛空艇ヴォルケーノのミサイルが、トラックに直撃する。その少し前に、トラックの陰に隠れていた敵が逃げるように別々の方向に走っていく。
「情報を持ってるかもしれないわ。一人も逃がさないで」
 ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)の指示に、「承知」という弁慶の返事をすると逃げる敵の前に毒虫の群れを呼び出し足を止め、飛び降りて則天去私で倒した。
「まだ一人おるぞ!」
「任せてください」
 返事をしたのは、甲賀 三郎(こうが・さぶろう)だ。逃げる男の正面にさっそうと現れ、立ちふさがった。すると、逃げようとした男はその場にぺたりと座り込んだ。アボミネーションがすんなりと決まったらしい。
「これで全てですか?」
「ええ、敵の影はありません」
 ミカエラの言葉を受けて、倒した敵をとりあえず一箇所に集めて縛っておいた。ロープは、プラヴァーを固定するためのものを利用している。
「さすがに、あんな武器を用意してただの蛮族ということはないでしょう。詳しい尋問は情報局の仕事ですが、いくつかここで聞いておいた方がいいでしょうね」
 尋ねたのは、組織の規模、この先の罠、本当の目的。この三つだ。
 それぞれ返答は、俺たちにはわかんねぇ、ここで襲うように言われて準備してただけだ、教導団の奴らが痛い目に合うところが見たかった、と返ってきた。武器もトラックも全部もらいもの、詳しいことは知らないわからないの一点張りだ。
 あまり義理硬いようにも見えないし、本当に教えてもらっていないのが関の山だろう。それでも一応、あとで情報局にお願いすることにする。
 あまり収穫の無い尋問をしている一方、子敬とトマスとテノーリオは、プラヴァーに乗っている岩造にトレーラーを起こしてもらって点検を進めていた。
「あー、こりゃちょっと時間がかかるな」
「何か問題があったのか?」
 プラヴァーの岩造にも見えるよう、テノーリオは一歩さがってタイヤを指差した。
「完全にパンクしてるんだ。これだけじゃなく、あと一箇所な。今すぐ出発は無理だわ。予備はある。交換するから、ちょっと待ってくれ」
「そうか、了解した」