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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

リアクション


6,漆黒のパワードスーツ



 飛び交う銃弾に魔法攻撃。防弾仕様で、改造を施してあるといっても、トラックの運転手にとっては生きた心地がしない。
 教導団の輸送邪魔をする。もともと、彼らは好きではなかった、というより大嫌いだ。だから、この話しに乗った。武器と、少なくとも運転手にとっては綿密と思える作戦を見て、いけると確信していた。
 今になって、そんな事は決してなくただの無謀だったことに気づいたわけだが、もう遅い。いくらロケット砲があっても、当たらなければ意味がない。機関銃があっても同じ事だ。仲間というか、寄せ集めの連中はまだ頑張って攻撃しているだろうかももうわからない。鼓膜を震えさせる音が、敵のものか味方のものかなんて判断している余裕はなく、ただ本能に従ってハンドルを切って攻撃を回避することしかでない。
 無理だ無理だ、絶対死ぬってこれ。そう思いながらも降伏だけはしない、プライドが許さないからだ。
 そんな彼の耳に、こんこんとこの場にはふさわしくないノックの音が聞こえる。
 無視しても、こんこん、こんこんこんこん、ノックは止まらない。
「んだよ! うるせえ……な……」
 レナ・ブランド(れな・ぶらんど)と目が合った。運転手はもちろん、その名前を知るわけがないが、強そうな美少女はにこりと笑うと、運転手の襟元を掴んだ。
 後ろから、うわぁ、という情けない声が聞こえる。助手席にいた奴が、天津 幻舟(あまつ・げんしゅう)に同じように襟を掴まれて、ひきずり出されているのだ。大した時間の差なく、運転手もレナに運転席の外に引きずり出され、放りだされた。慣性で速度が残っているから、地面に落ちて終わりではなく、ごろごろと転がって、転がっているうちに意識を失った。

「やれやれ、随分手間がかかったものじゃ」
 トラックは運転手を失うと、地面のでこぼこに振り回されて左右に大きく揺れたあとに、横転して倒れた。残ったもう一台の方も、たった今ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)が同じように運転手を外に放り出しているところだった。
 そちらのトラックもハンドル制御を失って蛇行し、やがて横転して止まった。
「なんとかなったね」
 ゴットリープが幻舟とレナの二人に合流する。
「ちょっと厄介だったわね」
 トラックは防弾用の装備に加え、予想以上に運転手の技量が高かった。打ち合いをし続けていては、トレーラーに乗っている教導団の人間ならまだしも、バイクで護衛をしてくれている人には厳しいものがあった。
 そこで、一度トラックの背後にまわり、そこからトラックに近づいて運転手を攻撃することにしたのだ。幸い、空や地上に他の戦力は無く目の前に集中しているトラックにこちらを警戒する余裕は無かった。
「―――はい」
 通信が入る。途中で、爆風のあおりで横転してしまったトレーラーも無事敵を排除したというものだ。
「トレーラーの修理に少し時間がかかるけど、すぐに合流するって。捕虜もいると」
「だったら、こっちの奴らもまとめといた方がいいわね。トレーラーに乗せるには数が多いから……彼らのトラック使わせてもらいましょ」
 横転はしているが、トレーラーは壊れていない。荷物をいれるコンテナもあるので、そこに縛った敵を投げ込んでおけばいいだろう。
 ゴットリープらが敵をロープで縛っている間、ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)は空飛ぶ箒シーニュでトラックを引っ張って起こした。空飛ぶ箒シーニュにはパワーがあるので、簡単な作業だ。
「結構被弾してんだな」
 アンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)は改めて、トラックを見てそう言った。コンテナは銃弾による被弾をしているものの、貫通した様子は無い。こちらも防弾しようだったのだろうか。
「中にまだ誰かいるかもしれないわよ」
 天津 麻衣(あまつ・まい)が腕を組みながら言う。
「あんだけ派手に吹っ飛んだんだぜ。無事じゃねえだろうな」
 アンゲロは言いながら、コンテナの扉を開いた。完全に開く前に、隙間から黒い腕が伸びてアンゲロを掴む。
「がっ、こいつ……っ」
 内側から、蹴り開けられたコンテナの中から出てきたのは、漆黒のパワードスーツだった。
 アンゲロを片手で軽々と持ち上げると、それを大した力を入れている様子もなく投げた。三メートルぐらい上に跳んでいったアンゲロを、ケーニッヒと神矢 美悠(かみや・みゆう)の乗った空飛ぶ箒シーニュが受け止める。
「大丈夫か?」
「ああ、別になんともねぇが……」
「どうしたのよ?」
「二人いやがった……漆黒のパワードスーツは、一つじゃねえ!」
「なんだと!」
 コンテナの中から出てきたパワードスーツが三人を見上げ、飛び上がる。弾丸のように真っ直ぐ向かってくる。
「こんのっ!」
 美悠が焔のフラワシを用いて迎撃をおこなうが、片手で振り払うような動作をしただけで怯んだ様子すら見せない。
「二人は回避を」
 ケーニッヒが空飛ぶ箒シーニュから軽身功で飛び出す。言われた通りに、アンゲロは回避行動を取った。
 防御性能が高いパワードスーツだったとしても、全身隈なく同じ装甲を持つというわけではない。神速を持って行動し、心頭滅却し残心を用いて行動する。全身くまなくパワードスーツで覆われているため、仕様がわからない以上どこが弱点かはわからないが、人体と同じく間接部分には余裕が必要なはずだ。特に、首を守るのは難しい。
 交差の瞬間にパワードスーツの肩に手を置き、そこを支点にして回転つつ相手の首に向かって膝を叩きこむ。
「いい動きですね」
「前に居た奴の影に隠れてただと!」
 ほんの数センチの間隔をあけて、同じポーズでもう一機の黒いパワードスーツが空に飛び上がっていた。体格もほぼ同じ、隠れるには無理があるはずだ。ただ、時間をずらして飛んだだけではもっと早く視認できるはずである。
「これが噂の契約者……私達の開発した武器を持ってして何をしていると思ってましたが、これは認識を改める必要がありそうですね」
 いまさらケーニッヒの勢いは止まらない。狙いを二番目の漆黒のパワードスーツに切り替えて、踵を振り下ろすが腕で受け止められた。その足を掴むと、地面に向かってそのまま叩きつける。
「がはっ!」
「さて、我々へのプレゼントはどちらに……あそこですか、急ぎましょう」
 二体のパワードスーツは走り出しているトレーラーに向かって走りだした。
「まちなさい!」
 麻衣がその背中を追おうとするが、その間に仮面の男が立ちふさがった。パワードスーツは着ていない。
「おおっと。置いていかれちまった同士、せっかくだから仲良くしようぜ?」
「邪魔しないで」
「邪魔をしてるのはお互い様だろ? ま、どうしてもってんなら、俺を倒すしかないよなぁ? もっとも、俺一人倒せば万事解決ってわけでもねぇんだけど」
 コンテナの中から、ぞろぞろと人が出てくる。どいつもこいつも、いかつい顔した奴らばかりだ。
「あんまりだろ? あんまりだったんだぜ。ってなわけで、今日の俺はちょっと気分が悪い。怪我しない程度に本気で遊んでやるよ」



 一時的な隠れ家としてキマク郊外のバラックが利用されていた。明日行われる襲撃作戦が終われば、この隠れ家も用済みとなる。その為、撤収作業と襲撃の準備が同時に行われており珍しく騒がしくなっていた。
 そんな中、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)は誰の手伝いをするでもなく、バラックのすぐ近くを散歩していた。
「ちょっといいですか?」
 そんな彼に声をかけたのは、赤髪の旦那と呼ばれている、この作戦の責任者らしき人物だ。コードネームか何かなのか、全員がそう呼んでいるのでトライブもそれに合わせている。
「どうかしたのか? 手伝えってのは無しだぜ」
「作業は部下にやらせますよ。作戦参加者が作業で疲れてしまっては困りますからね」
「だったら、何の用だ?」
「明日の作戦について、個人的に相談がありまして」
「……俺なんかにか?」
「ええ、貴方でないと」
 どこか胡散くさい笑顔で言う赤髪の旦那に、少し思うところはあったが素直に従った。作戦会議室なんて名前の部屋はなく、撤収作業が終わった一室へと案内される。
 何も無くなった部屋の窓からは、鋼竜と焔虎が見える。傷一つなく奪いとってきたこのイコン達は、すなわち彼らの作戦能力の高さを示している。
「まさか、雑用をさせられるなんて思わなかったわ」
 部屋に入ってきたアウリンノール・イエスイ(あうりんのーる・いえすい)が、不満の篭った目で赤髪の旦那を見る。
「すみません。どうしても人手が足りないので」
「うん? 彼女は誰だ? 見かけない顔だが」
「ああ、彼女もまた善意の協力者です。イコンのパイロットとしてお手伝いをしてくれると」
「一応、よろしくね」
 あまり愛想なくアウリンノールが言う。トライブもああ、と簡単に答えるに留めた。
「けど、使わないんだろ。今度の襲撃にはさ」
「はい、イコンはここで浪費していいものではありませんから。まして、旧式のイコンでプラヴァーを相手にするのは厄介です」
「相手がプラヴァーだって断言できるよな」
「善意の協力者の情報ですよ。ありがたい話しです。そうそう、それで彼女ですが、イコンの輸送を手伝ってもらおうと。イコンを操作できる人なら、適任でしょう」
「もしもそのイコンで暴れだしたらとか思わないのかしら?」
「そうなったとしても、さして問題はありませんよ。ほぼ初期状態の鋼竜と焔虎でしたら、我々の敵ではありません」
「すごい自信だな」
「自分に自信がなければ、できる事でも失敗してしまいます。冷静な計算した結果、可能であると判断されたことは可能なのです。なら不安がる理由なんてありませんよ」
「それに、よく喋るわよね」
「ふふ、これは悪い癖です。ええ、それよりも、そうせっかくですからアウリンノールさんにも確認してもらいましょうか」
 赤髪の旦那は、指を鳴らすとあっという間に三人が部屋に入ってきて、横一列に並んだ。それぞれ、皆漆黒のパワードスーツを装着している。
「確認って?」
「声を聞いてもらいたいのです。パワードスーツに少し手を加えまして、全て私の声と同じ声が出るようにしてみたのですが……ご存知かと思いますが、自分で聞く自分の声と、他人が耳にする声というのには違いがありますから、確認してもらおうと」
「なんだよ、そりゃ。何の意味があるんだ?」
 全てのパワードスーツから、同じ声がでてくることへの意味がわからない。先日襲撃した時の声がサンプリングされているのだろうか。それにしたって、パワードスーツの見た目に手をつけていない以上、気にするところとしてはおかしい。むしろ、黒いパワードスーツを白く塗った方が意味があるだろう。
「そうですね、ここに居るお二人には正直にお話ししましょうか。これは、私の身を守るための用心です。私達の呼びかけに応じてくださった協力者は一人二人ではありません。その全てを徹底的に身元を確認している余裕も時間もありません。国軍のスパイが我々に潜り込んでいる……その可能性はゼロではないでしょう。いえ、潜り込んでいると考える方が自然です」
「鏖殺寺院の関係者だけを集めたわけじゃないからな」
「ええ、その通りです」
「そこで、どのタイミングで裏切るかまではわかりませんが」
「今回の作戦中に裏切って私を狙ってくる人がいるかもわかりません」
「戦力が不足している以上、指揮を執る私も前線にでる必要があります」
 黒いスーツが次々と、赤髪の旦那と同じ声で喋りだす。
「指揮官が倒れると、部隊は混乱してしまいます」
「寄せ集めの集団である我々にとっては致命的です」
「そこでこのような小細工を用意し」
「どこに私が居るのか、味方でもわからないようにすることにしました。その為、申し訳ありませんが貴方にも私の正確な居場所は教えられません」
 最後に喋ったのは、生身の本人だった。
「いかがでしたか?」
「完璧だったわね。喋り方まで同じだったわ」
「ちょっと気味が悪いぐらいだ」
 喋り方、発音の仕方までほぼ同じだった。声はともかく、喋り方は機械で補正したものではないだろう。
「長く共に戦ってきた仲間ですから、心の中まではともかく、そぶりを真似るというのは難しくありませんよ。当然、私も彼らの真似をするのは可能ですが、今は関係ありませんね。ふふふ、そのうち私と彼らの馴れ初めのお話でもしましょうか」
「遠慮しとくわ」
「連れないことを仰いますね。まぁ、いいでしょう。お二人が嘘をついているとも見えませんし、うまく機能しているようですね」
「それよりも、早くどこにあれを運べばいいか教えてくれないかしら? 私は作戦には参加しないんだから、こんな茶番に付き合う理由はないんだけど」
「そうでしたね。地図はこちらに」
 懐から、あまり質のよくない紙を取り出して、アウリンノールに手渡す。
「ふーん、了解したわ。それじゃ」
「頭の中に入ったら、その地図は燃やして処分しといてください」
「神経質な男ね、わかったわ。この場で燃やせばいいんでしょ」
 アウリンノールは目の前で地図を燃やすと、さっさと部屋から出ていった。
「確かに、自分の身を守る方法を考えたくもなるわな」
 彼女の足音が聞こえなくなってから、呆れたようにトライブは零した。忠誠を誓っているわけでもないのだろうが、それにしたって自由な人間を集めすぎている。多少の用心をしたって、何もバチはあたらないだろう。