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【創世の絆・序章】涅槃に来た、チャリで来た。

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【創世の絆・序章】涅槃に来た、チャリで来た。

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第八章 そして、誰もいなくなった家 1

 そして。
 ゲルバッキーらの本隊は、ついに地下三階へと辿り着いた。
 シャフト跡を下りた瞬間、明らかに地下二階までとは違った冷たい空気が満ちているのがわかる。
 本来ならば、人々が暮らし、最も多くの命が満ちていたはずの居住区。
 ところが、今のその場所は、軟体生物すら入り込もうとしない、生命の存在を拒絶するかのような沈黙に支配された空間となっていた。

「……いよいよ、っスね」
「ああ。いよいよこの先に『ギフト』がある」
 そうとなれば、いよいよもって緊張感が高まる……はずなのだが。
「それはそうと……お腹空いたっスね」
 主に長丁場の探索のせいで、戦力的な面以外で消耗していた。
「それもそうだね。『ギフト』を速やかに回収できる見込みがあるなら探索を続行すべきだと思うけど、そうでなければいったんここで休憩するのはどうだろう? 幸いここには軟体生物もいないことだしね」
 そう提案したのは黒崎 天音(くろさき・あまね)
 ぱっと見はただののんきな提案に見えて、これは天音流の「カマかけ」だった。
 すでに「探しているものがどんなものかわからず、手分けしての捜索が全く意味をなさない」というミスは地下二階でやらかしている以上、また「ギフト」の正体を知らないまま捜索に移る、ということは考えにくい。
 そして、この階層には軟体生物という危険がない以上、最も効率的な捜索方法は「全員に『ギフト』の正体を知らせ、手分けして捜索を行う」ことであり、これならば多少広い空間であると言ってもそう時間はかからずに発見できることだろう。
 ならば、もしゲルバッキーが「時間がかかる」と答えたとすれば、それはこれらの前提のどこかが崩れることを意味する。
 それはすなわち、「『ギフト』の正体は発見するまで話せない」か、「軟体生物以外の何らかの危険があって、手分けして探すことは難しい」かのどちらかであり、いずれにしてもその「ギフト」は相当厄介なもの、ということになるのだ。

 そんな天音の狙いに気づいているのかいないのか、ゲルバッキーはあっさりこう答えた。
「そうか。それならこの近くの住宅を借りて一休みするとしよう」

「どなたも……やっぱり、いらっしゃいませんね」
 壁の一角が壊れている、比較的大きな家の中を見回して、アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)は悲しげにため息をつき、その場に膝をついて祈りを捧げた。
「何を祈っていたんですか?」
 その祈りが終わるのを待って、非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)が尋ねる。
「ここに住んでいた方々の安寧を。そして、お家を使わせていただくことをお許しいただけるようにお願いしていましたの」
「なるほど」
 それを待って、一同が中へと入って行く。
「こんなこともあろうかと思っていっぱい用意してきたんだ。さ、食べてくれ」
 ここで、用意のよさを発揮したのは菊だった。
 もともと料理が得意な彼女は、今回の探索に参加するにあたって、大量のおにぎりとサンドイッチを用意してきていたのである。
 それに加えて、デザートとして「月見団子」と「月餅」という「月」にちなんだメニューを持ってきている辺りもなかなかにくい心遣いである。

 ニルヴァーナの住居であっても、テーブルや椅子といった基本的な家具の構造はそう変わらない。
 とはいえ、家の中にそんなに大量の椅子が常備されているはずもなく、必然的に休憩と言いつつ腰を降ろさない、あるいは降ろせないものも出てくる。
 そしてそういったものの多くは、この家の中を軽く探索しつつ、あるときはお互いの推理を披露しあい、またあるときはゲルバッキーから何らかの情報を引き出そうとしていた。

「……しかし、『婿殿』か」
 遺跡に入る前の様子を思い出して、司はそうぽつりと呟いてみた。
 今回のメンバーの中でもゲルバッキーへの興味というか愛着というかでは他の誰にもひけをとらない司であるが、残念ながら、ゲルバッキー制作かそうでないか以前に「剣の花嫁」とはこれまで縁がなかったのである。
(……まあ、それは今さら言っても仕方のない話だし、サクラコに「今から剣の花嫁になれ」といっても無理だしな)
 そんなことを考えながら、今回も「お世話係」としてゲルバッキーを抱えて運んでいたサクラコの方をちらりと見る。
(なったとしても、せいぜい「獣の花嫁」がいいところか……まあ、花嫁以前にあいつはまだ独身だが)
 もちろん、頭ではそんなことを思ってみても、さすがに口に出して言ったりしない。
 口に出して言ったりはしないが、そこは目が口ほどにものを言ったのか、あるいはサクラコの野生のカン、もしくは女のカンによるものか、いずれにしても当のサクラコには筒抜けであった。
(……なんて考えてるんでしょうね、あの視線は。後でネコクローの刑に処す)
 そんなことを考えながらも、それはおくびにも出さず。
「ところで司くん、司くんは『ギフト』って何だと思いますか?」
 そう話しかけてみると、司は肩をすくめた。
「さっぱり見当がつかん。それこそ子犬用ドッグフードか何かでも俺は驚かんよ」
「意外とありそうな気もしますけど、ここまで来てドッグフードはさすがにがっかりですね」
 苦笑しながら、サクラコは冗談めかしてこう続けてみた。
「あ、それとも、季節柄バレンタインのチョコレートか何かかも知れませんね?」
「チョコレートねぇ」
 司は少し考えるような顔をした後で、ぽつりと一言呟いた。
「一万年以上前のチョコレートか……」
「……うげ……」
 一瞬名状しがたきものを想像して、サクラコが瞬時に後悔したことは言うまでもない。