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リアクション
第七章 撮ろう! 「ニルヴァーナ来た」! 4
その後もさらに数人が撮影を行った後、最後にプリントシール機を使うことになったのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)である。
何故彼女が最後になったのか、というと、もちろん理由のある人や子供たちを優先した結果でもあるが、それより何よりパートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が止めていたことが大きい。
つまり、絶対最後にしないと後の人に迷惑がかかるくらい撮り続けるに決まっている、という判断である。
「一緒に撮りましょ! せっかくニルヴァーナまで来たんだし、せっかく伝説の人にも会えたことだし!」
そう言うや否や、まずは良雄を引き込んで二人で撮り、次はゲルバッキーを引き込んで二人(?)で撮り。
「ほら、セレアナも早く早く!」
そんなセレンフィリティの様子に小さくため息をつくと、セレアナはゲルバッキーたちに真顔でこう言った。
「もうこの辺りにはほとんど敵もいないみたいだし、急ぐようなら先に行っちゃって。それこそコインかバッテリーがなくなるまで撮影してそうだから」
確かに、この様子であればそれもないとは言い切れない。
一同はしばし考えた後、結局、地下一階のときと同じく、シャフト後及び退却ルート確保のために必要と思われる戦力を残して地下三階へと向かうことになった。
ともあれ、すっかりテンションの上がっているセレンフィリティにはそんなことはほとんど関係ない。
「何て言うか、箱の中だけだとやっぱり狭いわね」
「はぁ?」
いきなりの発言にセレアナが聞き返すと、セレンフィリティはロングコートのポケットから自前のデジカメを取り出した。
「せっかくだし、外でも記念写真撮りましょ!」
あまりのことに呆れ返るセレアナだったが、もうこうなったらどうやったって止まるものではない。
「えーっと……あ、ヴェルデ、よね?」
プリントシールならともかく、デジカメとなれば撮る人が必要である。
普段ならセレアナでもいいが、二人で写りたいとなるとそうもいかないのである。
そこで目についたのが、未だにここの入り口で地道な軟体アリ駆除を続けていたヴェルデとエリザロッテであった。
「ん?」
「記念撮影したいんだけど、シャッター押してくれる?」
「おう、任せな。エリザロッテ、そっちは頼んだ!」
「ええっ!?」
驚くエリザロッテだったが、すでに敵はかなり減っているし、何より十分な罠は仕掛け終わっている。
追い込むだけであれば、ヴェルデがわざわざ自分でやる必要はなかったのだ。
そんな感じで、まずは数枚撮り。
「ヴェルデ! ごめん、そっち行ったわ!」
討ち漏らしの軟体アリが入ってくると、セレンフィリティはこれもシャッターチャンスにしてしまう。
「任せて! あたしが片づけるから、撮影続けて!」
「あ? お、おう……?」
コートがうまくなびくようにわざと動きながら、熱線銃で軟体アリを撃ち抜く。
「撮れた?」
「あ、ああ。バッチリな」
「そう。ありがと!」
写真を確認して、満足そうに頷くセレンフィリティだったが、これでもまだ止まらない。
「セレアナ、せっかくだからもっといろいろ撮りましょ?」
「ああ、わかったわよ。それじゃあとは私が撮るから。気の済むまで言って」
すっかり呆れ返った様子のセレアナであるが、もちろんセレンフィリティは一向に気にせず、着ていたロングコートを脱ぎ捨てた。
「少し動いたらちょっと暑くなったし、グラビア撮影風に、ってことで」
これにはさすがのセレアナも言葉を失ったが、今さらどうこう言っても仕方がない。
セレンフィリティがこういう性格なのは、すでにずっと以前から知っていることだ。
セレアナは一度ため息をつくと、改めてデジカメを構え直した。
「よくやるな……っつーか、あのセレアナってやつも大変だな」
そんな二人の様子を遠目で見ながら、軽く苦笑するヴェルデ。
そんな彼の目に、プリントシール機の取り出し口に残ったままのプリントシールが目に入った。
最後に撮影したのはあの二人のはずだから、おそらくあの二人のものだろう。
「しゃあねぇな」
セレアナに渡そうと思ってそのプリントシールを取り出し……ヴェルデは思わず目を丸くした。
その写真に写っているセレアナは、先ほどから見ていたようなどこか冷たさを感じさせる表情ではなく、まるで花咲くような笑顔を浮かべていたからである。
「……ま、そうじゃなきゃやってられねぇよな」
そう何事か合点すると、ヴェルデはそのプリントシールを渡しに向かったのだった。