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リアクション
第五章 正しいアリの倒し方 4
「さて、それじゃ再開といこうか!」
敵がまた集まってくるのを待って、再び煉が氷雪比翼を使用する。
地下一階での戦闘でも証明された通り、こうして軟体ならではの柔軟性を殺してしまえば、後は単純な物理攻撃、特に打撃攻撃でも、大きな打撃を与えることは容易なのだ。
「おらおらおらおらぁっ!!」
嬉々として飛び出し、その拳を振るうのはギャドル。
「これでも……くらいなっ!!」
その後ろではエヴァが盾に内蔵されたパイルバンカーで軟体アリを貫いている。
「見たか、あたしの活躍を! お前にはこんな派手な戦いできないもんな!」
そんな軽口を叩くエヴァだったが、そちらに気をとられたせいか、死角からの敵の接近を許してしまっていた。
「しまった……!?」
遅ればせながらそれに気づくも、とてもかわし切れそうにない。
だが、そこにカイトシールドを構えたエリスが割って入った。
「まったく、いつも詰めが甘すぎますよ。私がいなかったら何度死んでいることだか」
苦笑するエリスに軽くイラッとしつつ、ひとまずエリスが止めてくれた軟体アリの顔面を至近距離から覚醒型念動銃で撃ち抜くエヴァ。
「キーッ! 別に助けてくれなんて一言も言ってねぇ!」
「そうですか。じゃあ今度から痛い目見てから助けてあげましょうかね」
「何だって!?」
「ああはいはい。ちゃんと前見てないとまたさっきみたいなことになりますよ?」
そんな感じで口喧嘩しつつも、なんだかんだでぴったりと息の合ったコンビネーションで戦っているのだから、実に不思議な関係と言わざるを得ない。
「大変じゃのう」
そんな二人の様子を見ながら、ルファンは煉にそう言った。
ルファンのパートナーであるギャドルとイリアもあんな感じでしょっちゅう口喧嘩をしているので、あまり他人事とは思えないのである。
「ああ、お互いに、か?」
「うむ」
苦笑するルファンに、隣のイリアがまた頬を膨らませる。
「何よダーリン、それどういう意味ー?」
「そのままの意味じゃが?」
そんな会話をしつつも、煉は離れた位置の軟体アリを射撃で倒し続けていたし、ルファンは近づいてくるものを三節棍で打ち砕いていた。
二人が後方に残っている理由は二つ。
一つは、かなり戦い疲れている様子の三人の護衛。
そしてもう一つは、この正体不明の三人組にも警戒を緩めぬため、であった。
ちなみにイリアがこちらに残っているのにはそんなに深い思惑はなく、ただ単にルファンが残っているからなのだが、それはまた別の話である。
ともあれ、そうこうしているうちに、軟体アリの数もかなり減ってきて、ルファンたちの周囲にはほとんどその姿は見られなくなった。
「後は、あの三人に任せておいても大丈夫そうじゃな」
そう言うと、煉とともに、後ろの三人の方に向き直る。
「もう大丈夫、と言いたいところだけど……一体何者だ?」
煉の問いに、セシリアはかすかに微笑みながらこう答えた。
「セシリア・ナート……鏖殺寺院の所属ですわ」
「鏖殺寺院……」
予期せぬ言葉に、三人の表情が険しくなる。
「隠したところで、どうせ調べればわかることでしょう?」
確かに、それは彼女の言う通りだが……だとしても。
「それでは、どうなさいます? わたくしを逮捕なさいますか?」
「これはまた、ずいぶんと往生際のいいことじゃな」
「そうよ、何を企んでるの?」
まだ警戒を解かぬルファンと、明らかに怪しんでいる様子のイリアの言葉に、セシリアは相変わらずの様子でこう答えた。
「別に何も。この状態であなたたち三人から逃げ切れるとは思えませんし、そうすると仰るのなら、無駄な抵抗はいたしませんわ」
その言葉に、煉とルファンは顔を見合わせる。
今回の調査目的から言えば明らかに「余計な収穫」だが、だからといって大人しく逮捕されると言っている鏖殺寺院のメンバーを見逃すわけにもいかないだろう。
「なんにしても、詳しい話を聞く必要がありそうだな。一応、拘束させてもらうとしよう」
少し考えた後、ルファンたちはセシリアらをいったん上に連れて行くことにしたのだった。