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【創世の絆・序章】涅槃に来た、チャリで来た。

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【創世の絆・序章】涅槃に来た、チャリで来た。

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第五章 正しいアリの倒し方 2

「待てーゐっ!!」
 近くの繭状施設の上に、すらりと立った影一つ。
「軟体生物といえば、桃色なゲームの定番……蒼フロの対象年齢を上げようとするあなたに遺憾の意を表明する! 私が成敗してくれよう!」
 あまりにもこの状況に合いすぎる決めゼリフとともに登場したのは、謎の魔法少女「ろざりぃぬ」――その正体は、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)である。
 かけ声一つ、そしてわざわざ一度宙返りしてから床に降り立つと、その横にどこからともなく執事服の、そして顔には炎をモチーフとしたハーフマスクを身につけた人物――「ザナドゥの墓堀人」ことシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)が現れた。
 予期せぬ乱入者に、軟体アリたちが警戒を強める。
 ろざりぃぬが何かを促すようにシンに視線を送ると、シンは少し考えた後、懐から何か書かれたメモを取り出した。
「……えーと。おい、アリ。お前オレのお菓子の味わかるのかよ? よく噛めよ」
 エクスクラメーションマークの一つもない所から察していただきたいのだが、完全にカンペを見ながらの棒読みである。
 そのまま「明らかに演技でやってます」とわかる動きでわざとらしく腕を振り上げる。
「ナイトメアー!」
 見ての通りここまで演出。で、その後おもむろに大量のお菓子をばらまき始めた。
 技と演出の相性以前の問題として、マイクとパフォーマンス、一言で言うなら演技力があまりにもダメダメである。
 そのことに渋い表情を浮かべていたろざりぃぬであったが、軟体アリたちがお菓子に気をとられ始めたのを見ると、とたんに目つきが鋭くなった。
「行くよ! マジカル☆スリーアミーゴス!!」

 説明しよう!
 スリーアミーゴスとは、高速ブレーンバスターを決めた後、相手を放すことなくさらに二度、つまり合計で三連続の高速ブレーンバスターを叩き込む技である!

 ……が。
 ここで、再度確認しておきたい。
 相手はあくまで「アリ型の軟体生物」であって、「アリ」ではない。
 つまり、そもそもの構造からして全く違うのである。

「!?」
 ブレーンバスターで投げれば、相手の頭部はマット、あるいは床に叩きつけられ、身体はそのまま投げた側から見て上方もしくは後方に倒れるはず。
 それが、「人間を投げた場合」の正しい結果であり、「人間と類似した身体構造の動物を投げた場合」の正しい結果でもあるはずなのだが……今回に限っては、相手が「軟体生物」であるため、そうはならなかった。

 では、どうなったか、というと。
 相手を抱え込む。ここまではいい。
 そこから高速ブレーンバスターで投げ……ようとするのだが、相手が軟体であるため、相手の身体が伸びたり、人間であれば決して曲がらないはずの部分で曲がったりして、うまく力が伝わってくれないのである。
 よって、そのまま相手の頭を床に叩きつけるように動くと、確かに頭部は地面に叩き付けられたもののぐにゃりと凹んで衝撃の大半を吸収してしまうし、相手の身体は真ん中辺りで180度近く曲がってしまう。
 その曲がったものをそのまま引っ張ったので、「二つ折りになった相手にのしかかられる」ような体勢となってしまった。
 相手も二つ折りになっているため、そこから直ちに何か仕掛けることができないのは不幸中の幸いではあるものの、これでは連続で投げるどころか、端から見れば完璧な自爆である。
 そして悪いことに、巻き込もうと思った周囲のアリは全て健在なのである。

「ええええぇぇ!?」
 軟体アリに押さえ込まれそうになるところを、どうにかシンがヤクザキックでカットに入る。
「お前まで対象年齢上げる側に回ってどうするんだよ!」
 全くもってその通り。無理に用意されたマイクより、自然なツッコミの方が相当ウケそうなのは気のせいだろうか。
「つーか、落ち着いて考えたんだが……『プロレス技』と『軟体生物』って、相性最悪じゃねーか?」
 これまた、まさにその通り。
「軟体なので打撃は衝撃が吸収される」「軟体なので絞めても極めても意味が薄い」「軟体なので投げにくい上、投げてもやっぱり衝撃が吸収される」と、相性的に最悪なのである。
「大丈夫! 私のは魔法だから! マジカルだから!」
「現に効いてなかったじゃねーか!」
 ヒーロー、というかヒロインとしてカッコよく登場したはずなのに、本当にどうしてこうなったのか。
 結局、ピンチに陥った人物が二人増えただけではないのか?

 ……と、そんな心配は実は無用であった。
「こちらは、だいたい片づきましたわ」
 軟体アリの半数近くがろざりぃぬに気をとられている隙に、ロザリンドとテレサが残りをあらかた片づけていたのである。
 数さえいなければ、そして、毒液十分の増援さえいなければ、この程度は敵ではない。
 かくして、残った半分もその後ほどなく殲滅されたのであった。