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【ダークサイズ】俺達のニルヴァーナ捜索隊

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【ダークサイズ】俺達のニルヴァーナ捜索隊

リアクション

「さーて、ここからがオレの本番だぜ! こういう時にケータリングが出せないで、何のためのエニグマだっ」

 『草津』退治より気合いの入る椎名。
 モンスターとの2戦を終えて、椎名率いる『喫茶エニグマ』の出張所を即席で作ってくれる。

「みんな、いい加減水分補給が必要だろ?」

 『草津』の尻尾からあふれる地下水を煮沸して、一部を【氷術】で氷にする。
 ナギも加わって、淹れたコーヒーに氷を落とし、即席のアイスコーヒーの出来上がり。
 ソーマが皆に配りながら、

「コーヒーは身体を冷やしてくれるからね! マスター(椎名)のおいしいコーヒーだよー」

 エニグマのドリンクなら文句はない。
 皆一時の休息を得る。

「『草津』を倒した上に水まで確保で来たぜ。思い通りにできて助かったよモモ!」

 足元にズタボロの総司を転がしたモモに、椎名が握手を求める。
 すっかり元に戻ったモモは、

「いえ、みなさんのサポートをするのも、私の仕事のうちですから」

 と、笑顔で答える。

「せっかくの水を、流れっぱなしにするのももったいないですね……うん、軽食でも作りましょうか」

 ナギがあふれる水を眺めて、ポンと手を叩く。

「ナギナギー、何作るの?」

 尻尾をふりふり、ソーマとフレイムたんが来る。

「暑いからと言って、冷たいものばかりとるのもアレですしね、ここは……」
『カレー』

 ナギとシンクロして提案してきた忍。

「おや、あなたも料理を?」
「ああ。もともとみんなに休憩所を作ろうと考えていたところだからな。暑い時には辛い物がいいだろ?」

 忍が【乙カレー】のルーを見せ、ナギも頷く。
 椎名がドリンクを提供する隣で、カレー作りを始める忍とナギ。

「おお、食料の確保もできたようじゃな。おい忍、これも使うがよい」

 信長が、細切れの肉を忍の前に置く。

「ずいぶん新鮮な肉だな。こんなとこに牛か豚でもいたのか?」
「いや、さすがにそういう便利な畜生はおらんのう」
「じゃあ何の……」

 と言いかけて、忍とナギは言葉を詰まらせる。
 信長がやってきた先には、無残な『草津』の変わり果てた姿が。

「の、信長。おまえ、本気か?」
「なに、蛇や蛙も食べられるのじゃ。いわんやモンスターをや、じゃ」
「こんなの食べられるのか……?」

 疑い濃厚な中、忍は『草津』の肉を鍋に入れる。

「え、入れてしまうのですか?」

 ナギは慌てる。

「いやあ、思いのほか色味がよかったもんで、つい」
「……では、せめてこれで、臭みと雑菌を消しましょう」

 ナギが香辛料を多めに加え、最終的に激辛カレーができてしまう。

「ソーマちゃん、できましたよ。食べてみますか?」

 ナギはソーマに毒味を兼ねた試食を勧める。
 何も知らずに一口含むソーマ。

「……辛ぁ〜い……」
「そうですか。肉に毒はないようですね……」

 ソーマのリアクションを見て、ナギと忍は頷く。
 忍は早速ダイソウにカレーを渡して見る。

「ダイソウトウ、即席だがこの『モン(スター)カレー』を食べてみてくれないか」
「ほう、熱い時には辛い物を、だな」

 ダイソウは『モンカレー』を口に含んで汗を拭きながら、

「辛さはまあよいとして……肉が多少筋張っておるな。気になるほどではないが」
「そうか。『草津』の肉はもっと煮込まなきゃだめか」
「なに……?」

 『草津』の肉と知って一瞬手が止まるダイソウだが、ソーマの毒味の話も聞いて、

「皆に提供するのはかまわんが、『草津』の肉であることは伏せた方がよかろう」
「そうだな。俺もそう思う」

 と、二人が口裏を合わせた傍から、

「皆の者! 『草津』の肉入り『モンカレー』じゃ! 私からの下賜をありがたく受けるがよい!」

 信長が速攻でみんなにばらす。
 あの毛むくじゃらの肉と聞いて最初は躊躇するものの、

「うん、まあ、悪くないかな。ちょっと筋張ってるけど」

 と、体力補給には役立ったようだ。
 中でもカレンは、

「く、草津たん……何て姿に……」

 泣きながらモンカレーをほおばり、お腹一杯になるまで『草津』を弔った。

「カレーですかぁ! いいですねえ。辛いの苦手な人はいませんかあ? おにぎり、唐揚げ、サンドイッチ! 卵焼きもありますよう!」

 シシル・ファルメル(ししる・ふぁるめる)が、お弁当を包んだ大荷物をほどく。

「急な休憩だけど、こういうところで食べるのも、また乙かもしれないね」

 五月葉 終夏(さつきば・おりが)は、【氷術】を解除し、暑さで傷まないように凍らせていたお弁当を解凍する。

「さあ、サンフラワーちゃんたちもどうぞ」

 終夏は、お弁当をチームサンフラワーにも渡す。

「あ、ありがと……」
「じゃあ、チームサンフラワーは一緒に食べよう。冷たいドリンクは任せて」

 天音が即席のカウンターを立てて椅子を並べ、グラスを並べる。
 チームサンフラワーが天音の青空バーに並ぶと、何だか会社の愚痴でも言いだしそうな妙な雰囲気に包まれる。

「まずいわ……モンスターが両方ともダークサイズに倒されちゃった。2ポイント向こうが先取ね」
「戦力はおろか、俺達の妨害工作もしてくるとは……予想外だったな」

 永谷はなおさら悔しそうに、淳二を見る。
 ゲブーも口惜しそうにミーナを見、

「この俺様が、色仕掛けにかかるとはだぜ」
「ゲブーさんはまんまと引っ掛かりすぎじゃないか……?」

 涼介が諌める。
 天音がバーテンダーよろしくシェイカーをふりながら、

「そうだね。まさかこの僕が、フレイムたんの足止めで戦闘に加われないとは。ギフトの魅力を利用するとは、敵もさる者だね」
「いや、おまえの場合はおまえ個人の問題だろう……」

 ブルーズの顔は諦めの色が濃くなりながら、またため息をつく。
 ノーンはフォークをくわえながら、

「みんなで一緒に仲良くしようよぅ……」

 と、控えめに向日葵の裾を引く。
 ノーンの言うこととはいえ、未開の土地で共闘すべきというのは的を射た発言である。
 それを汲んだ涼介も部分的に同意して、ノーンの頭を撫でる。
 いつもノーンに甘い向日葵だが、

「いくらノーンちゃんの言うことでも、今回ばかりは……」

 負けるわけにはいかない、いや、負けたくない、いや、いつものように勝敗を曖昧にして終わりたくない、というところが本音だろうか。
 バーの雰囲気も手伝って、何だかこのまま夜が更けていきそうである。

「よーし、次次! 後は『別府』とイレイザーだね。とにかくフレイムたんと遺跡とラピュマルを手に入れる!」

 向日葵は思いなおしてシシルのお弁当をかきこんだ。

「アルテミスさん、お弁当ですよう」

 一方でシシルはアルテミスにお弁当を渡している。

「おお、シシル。ご苦労……なぜ二つも渡すのだ? 魔力の解放はせぬ。弁当は一つでよいぞ」
「ぷぷーくすくす。違いますよう、アルテミスさん!」
「何がおかしい?」

 シシルは口を手でふさぎながら、向こうにいるダイソウを指さす。
 お弁当とダイソウを見比べて、顔が赤くなるアルテミス。

「なっ、シシル! まさかこれは……」
「そうですよう! 『はい、あーん♪』くらい、たまにはしてあげないとダメですよう!」

 色々あって、ダイソウに恋心を抱いたのを動機にダークサイズに合流しているアルテミス。
 とはいえ、二人の間は一向に進展しないし、その兆しもない。

「い、今は重要なニルヴァーナ探索中なのだぞ。そのような浮ついた……」
「いいから行ってきてください!」

 シシルがアルテミスの背中を押し、終夏と一緒に岩陰に隠れる。
 終夏はここぞと【マイク】を持ち、

「さーて、降ってわいたように始まった新コーナー『ねるとん紅終夏団』。アルテミスさんは、ダイソウトウと距離を縮めることができるのか!?」

 戦闘の実況より少しばかりテンションの高い終夏。
 アルテミスは終夏たちを振り返りながら、お弁当を二つ抱えてダイソウの元へ進む。

「ああーっと、アルテミスさんの歩みが遅いっ。いきなり牛歩戦術か? どう見ますかシシルさん」
「ふふーん、これは『照れ』ですねえ。アルテミスさんは予想以上に奥手みたいですよう」
「なるほど。何と言うことか、恋の前には神でさえも乙女と化す! おおっ、選定神改め乙女アルテミス、勇気を振り絞ってダイソウトウに話しかけ、ああーっ! クマチャンがダイソウトウに話しかける! さすがです、あの男、全然空気を読まないーっ! そしてアルテミスさん、それとなく引き返してきたーっ」
「負けちゃダメですよう!」

 シシルが必死にゴーサインをアルテミスに送る。

「厳しい戦いになってきましたね、シシルさん」
「時間が経てば経つほどハードルが上がりますよう。スピード勝負ですよう!」

 行ったり来たりするアルテミスを、見てるシシルの方が身をよじらせる。

「ここでクマチャンが去りました。さあチャンスです、アルテミスさん」
「邪魔がいないのは今しかないですよう、アルテミスさん!」
「行くか? 行くか、アルテミスさん? お、行きます! 行っ……あっと、ダイソウトウが立ちあがった! 出発? ああっと、出発の号令です! タイムアーーーーーーーーップ!!」
「ああああああーん!」

 頭を抱えて残念がるシシル。
 その先では、ぽつんと残されたアルテミスが、サンドイッチを一口かじるのが見えた。