天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

【ダークサイズ】俺達のニルヴァーナ捜索隊

リアクション公開中!

【ダークサイズ】俺達のニルヴァーナ捜索隊

リアクション


5 『別府』戦



 遺跡の住宅街よりも奥、長の邸よりも手前に分布する自衛施設跡地。
 ニルヴァーナの詳しい歴史はやはり謎だが、他勢力やモンスターとの戦いはあったのかもしれない。
 イリス・クェイン(いりす・くぇいん)が見る限りでは、

「自衛程度の規模だね……」

 とのこと。
 火山帯という厳しい環境のせいか、ここのかつての住人達は自然との戦いの方が優先事項だし、ここが侵略されるような状況はなかったように想像できる。

「イリスー! これなんだろう?」

 クラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)が手招きする方にイリスが向かうと、そこには砲身のような筒があり、その土台は何やら複雑な機械仕掛けの装置がある。

「迫撃砲みたいなものですね。やはりあくまで、ここの兵器は迎撃を目的としているみたい」
「これ、動くかなぁ? 発射できたらイレイザーもイチコロかもだよ!」
「そうですねぇ。ニルヴァーナの兵器を使いこなせたら、私たち一気にダークサイズの上位幹部入りだわ」

 と、イリスがくすくす笑う。
 砲身の下にある装置を、早速クラウンが適当にいじり始める。

「うーんと、えーっと、これかな? ぽちっとな」

 電源と思われるスイッチを押すものの、装置に反応はない。
 そこに十六夜 白夜(いざよい・はくや)が、詰所と思われる建物から古びた機晶端末を手に持って来て、

「ふむ……おそらくはこれが仕様書のようじゃが……」
「どれどれー? あっ」

 クラウンが本を手に取ったとたん、それはもろくも崩れ去る。

「これ何をする! せっかく注意深く持ってきたというのに」
「あははー、ごめーん」

 頭をかくクラウンを叱る白夜だが、それほど腹を立てず、

「裏面の文字はかすれておる上に、やはり解読はおろか、画面の表示もできぬ。ニルヴァーナ人特有の手順もしくは、アイテムが必要のようじゃ」
「ニルヴァーナ人にしか起動できない仕掛けがされているのですね……残念」
「ぅがあぁおぅ……ぐげがおぅ」

 突然獣が唸るような声が聞こえ、警戒する3人。

「な、なにっ!?」
「もしや、フレイムたんの言っていたモンスターか? ここにもおったのか!」
「ハハハハハ。おいテラー、やはり貴様の声は化け物と認識されるようだな」

 不遜な態度でチンギス・ハン(ちんぎす・はん)が姿を見せる。
 彼女の隣には何故か恐竜の着ぐるみを着たテラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)がうがうが言いながら従っている。
 ハンは高飛車な態度を崩さないまま、

「おい貴様ら、我様(おれさま)の兵器を勝手に触るのはやめてもらおうか」
「? 何を仰ってるんでしょう」

 イリスはハンの態度が気に入らないようで、のっけから敵意を覗かせる。
 ハンはフンと鼻で笑い、

「これは先ほど、我様が触れた砲である。従ってこれは我様のものだ」
「?」

 イリスたちはキョトンとするが、ハンはお構いなし。

「この兵屯施設は先ほど我様が闊歩し、触れたものである。我様が踏んだ土、我様が触れたもの、それらは全て我様のものであることが決定するのだ。したがって、ここはすでに我が『モンゴル帝国・ニルヴァーナバージョン』の版図である。ひれ伏すがよい!」

 何やら無茶苦茶なことを言っているが、英霊であるハンはかつてユーラシア大陸を席巻した皇帝。馬で大地を駆け抜けた栄光から、やはり今も侵略王たる振る舞い。
 イリスも負けじと、

「あら、何のことかしら。私もあなたも、ニルヴァーナに来れたのはダークサイズのおかげ。この遺跡を見つけたのもダークサイズ。この迫撃砲もダークサイズのものとして、ダイソウトウさんに献上します」
「ふん、ダイソウトウだと? あの訳の分からん中年か。あれにここを統べる器があるとは思えぬな」

 ああ言えばこう言う。
 イリスはイライラが溜まっていくが、その雰囲気をぶち壊すような、

ぼっぼっぼくらは ぱいおにあ〜
ダークサイズの 先鋒た〜い


 と、間の抜けた歌声が聞こえてくる。
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は、ペンキの缶とハケを手に持ち、軽快に歩き回り、

エロネタ 無茶ぶり お手の物〜
閃きゃ 何でも やってみる〜
つじつま合わせは 後付けで〜
仲良く 楽しく 美しく〜
後で困るは 自分自身〜
追いつめられて 華が咲く〜


 と、思いついたフレーズを口ずさみ、迫撃砲に、

『ダークサイズ』

 とでかでかとペンキで書き入れる。
 そして腹を立てるハン。

「貴様! 我様のものに落書きをするな!」
「落書き? ちゃうちゃう、名前や。自分のものには名前をきちんと入れんとなぁ」

 と、泰輔はハケを振る。

「何だと? これは我様のものだと言っておろうが!」
「あっははは! そうですね、自分のものには名前を書いておかないといけません」

 イリスは嬉しそうに泰輔のハケを取り、詰所に走って

『だーくさいず』

 と書く。
 ハンは歯ぎしりしつつ、

「ぬうう、無礼者どもめ! ならばこれでどうだ」

 ハンは地面に【侵略スル龍撃槍砲】で線を引き、

「ふっふふ。ここからこっちは我様の陣地である。我様に従わぬ者は何人も入ることあたわぬ!」

 と、胸を張る。
 そこにフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)がトコトコ歩いて来て、

「よいしょ」

 と、『ダークサイズ私有地』と書かれた立て札を打ち込む。

「な! そこの白人! 貴様この辺りを『モンゴル帝国ニルヴァーナバージョン』と知っての……」
「あれ、何か線が引いてあるね」

 フランツは、ハンが引いた線をざざっと消してしまう。

「な、なんだとー!」

 ハンを超える傍若無人さのフランツ。
 ハンは、着ぐるみのテラーに指示を出す。

「テラー、この無礼者に鉄槌を下せ! 我様の武威を示すのだ」
「うがぁうう!」

 テラーは『了解』の敬礼をするが、さらにレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)が、

「あら、かわいい怪獣さんですね」

 と、テラーのあごを撫で、手に持った焼き鏝を尻尾に当てる。
 着ぐるみが焦げる音と匂いの跡には、『ダークサイズの。』という焼き印が残る。
 レイチェルはとびきりの優しい笑みで、

「これであなたも、立派なダークサイズです」
「ぅがあー♪」
「こらー! 何を気に入っておるのだテラー!」

 ハンが戸惑う隙に、イリスはおろかクラウンと白夜も手伝って、辺り一帯が『ダークサイズ』のサインだらけに。
 ハンの周りに現れた、『モンゴル帝国包囲網』。
 陣地はおろかテラーまでダークサイズに取られたハンだが、

「ふ、ふん! 貴様らがいくら名前なぞ入れたところで、何の拘束力もないわ!」
「この御仁の言うとおりであるぞ。そなたら、名前を書けば何でもよいと思うでない」

 突然ハンの助け船のように現れる讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)
 サインや立て札、そして焼き鏝とやりたい放題の泰輔たちに、顕仁はため息をつく。
 これに調子づくハン。

「ハハハハハ! この者はよく分かっておるのう。勝手な主張など通らぬ! 必要なのは権威と法! その元でなければ……」
「なので、権利書と実印を作ってみた」
「ええー!」

 顕仁は書類と印鑑を出し、

「一応、日本の国内法に基づいたものだが、いざニルヴァーナに法整備がなされた折には、落書きよりは説得力を持つであろう」
「おおー、さすが顕仁や! 実効支配と法手続きの両面があれば、誰も文句はいえへんでー」
「フランツもレイチェルも。陣取り遊戯のような子供じみたことをするでない……」
「ふふふ。でも名前を書き入れるのは、とても効果的で平和的ですし、私は良いアイデアだと思いますよ?」
「そうだよ顕仁。大きく名前を書けば、ダークサイズの宣伝にもなるよ。あ、そうだ泰輔。さっきの歌だけど、歌詞はともあれメロディはもっとキャッチーに……」
「お、おのれ……世界史上最も広大な領土を支配した我様を無視するとは……ダークサイズめぇ〜」

 ハンが目に怒りを宿す中、追い打ちをかけるように、

「テラーくん、『ダークサイズ』って書いてみて」
「うが?」
「そうそう。上手だよー」

 クラウンがテラーに字を教え、
 白夜が自分の尻尾をねこじゃらしのように振り、

「ぅがっ。うがあー」

 テラーが白夜の尻尾をてしてし弾く。

「テラあああああ! 遊んでもらってどうするのだー!」

 ハンはちょっとだけ泣きそう。
 そんな中、クラウンがまた名前のかけそうなものを見つけ、

「おおっ、何だか怪しいものはっけーん。名前書いちゃうよー」

 と、ペンキでダークサイズと書きこむと、そこからぐるぐるとくぐもった音が聞こえる。

「?」

 クラウンが見上げると、上には猿のような顔がある。

「ひ!!」

 クラウンは慌ててイリスに飛びつく。

「かかか、怪物だぁー!」
「きっと『別府』ですね。これまた異形なモンスターですね……」

 『別府』が太く長い両腕を振り上げ、金切り声に近い不快な叫びをあげて威嚇する。
 さらに、異常な跳躍力で飛び上がった『別府』は、遺跡の天井にしがみつき、大きく息を吸う。
 火山から湧き、遺跡上部に溜まったガスを思い切り吸いこみ狙いを泰輔たちに定める。

「あのモンスター、フレイムたんは何て言ってたっけ?」
「確か火を吹くとかどうとか……」
「えっと、イリス、やったっけ? どうやって戦う?」

 泰輔が『別府』を見ながらイリスに聞くと、イリスはくすくす笑い、

「私たちの目的は遺跡の調査です。無駄な戦闘はしないに限りますね」
「うん、その辺は僕も同意見や。じゃあみんな、逃げるでー」

 ちょうど『別府』が炎を吐きだすのと同時に、一斉にダークサイズ本陣へ走りだす泰輔たち。

「皇帝の我様を置いていくなーっ」

 と、ハンも泰輔たちを追う。