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リアクション
「そういえば、お話はしたのに、ご挨拶がまだだったわ。私、パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)と申します」
「え? あ、ご丁寧にどうも。秋野向日葵です」
パビェーダは向日葵に頭を下げ、つられて向日葵もおじぎをする。
「ダークサイズを倒したい体(てい)なんでしたっけ? わざわざニルヴァーナにまでやってきて、正義の味方の体も大変ね」
「体じゃなくてマジなんだけどね。ダイソウトウのやつにはすっかり人生狂わされちゃったよ」
「ダークサイズを追っかけてると、環境もいろいろ変わるでしょう? お肌の手入れなんか大変そう」
「そうなんだよー。空京のショッピングもしばらく行ってないなぁ」
一応言っておくと、これは敵同士の会話である。
「そういえば、ダークサイズと仲良くケンカしてるとお仕事も疎かになって大変じゃないかしら。ダークサイズはネネさんのご実家が資産家らしいから、酔狂で援助受けてるみたいだけど……サンフラワーちゃん、職業は?」
「えっへん! こう見えても『空京放送局特派員・秋野向日葵』なのです!」
向日葵は胸を張り、パビェーダは目を輝かせる。
「特派員! かっこいいー」
「ふっふっふ」
「素敵だわ。それに空京放送局って懐が深いのね。こんなに長い有給取らせてくれるなんて」
「うん!……ん? あれ? そういえば……」
向日葵が首をかしげる。
横で聞き流していた菫がぽつりと、
「あんた……ちゃんと有給の延長申請してんの?」
「……あ」
向日葵の膝が小刻みに震えだす。
菫は追い打ちをかけるように、
「あとさー、これ散々言ってきたから分かってると思うけど、ダークサイズって空京放送局の筆頭株主なのよね。名義は確かダイソウトウにしてたかな」
「……」
「一社員が株主様に立てついてるわけだけど、まぁそれはいいとしましょ。社会人としてデスクくらいには報告入れてるわよね?」
「いい、い……いれ、いれ……て、な……」
向日葵は慌てて携帯電話を取り出すが、電波は当然圏外。
続いて振り返って遺跡の方へダッシュする。
それを永谷が慌てて羽交い絞めにして止め、
「サンフラさん! 危ない!」
「離してえー!」
「ここはフレイムタンの中なんだぞ! 何の防御もなしに遺跡に生きて着けると思うのか!?」
「帰るううう! 空京に帰るうううう!」
「サンフラワーちゃんいじめちゃだめー!」
ノーンが菫をとがめるが、
「精神攻撃は基本……!」
と、菫は右の口角を上げる。
「あのー、サンフラワーさん。よかったら六本木通信社と共同取材、やってみますか?」
見るに見かねた六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)が、向日葵に声をかける。
「局への連絡はこれが終わってからするとして……イレイザーやフレイムタンの映像素材を提出すれば、長期取材を理由にお咎めもだいぶ軽くなると思いますけど」
「うおー! 神様仏様六本木様あー」
向日葵は泣きながら優希に抱きつき、
「ちっ、助け船が入ったか……」
菫はこっそり舌打ちした。
☆★☆★☆
「いい加減にするのだ。リリの箒から降りるのだー」
リリは、『亀川』をぶら下げた【空飛ぶ箒シーニュ】に向かって手を振り上げる。
『亀川』からは溶岩の熱をはじくほどの強い冷気が出ているため、さすがのリリも箒に乗れない。
従って、箒に紐をくくりつけて凧の要領で引っ張っていたのだ。
ところが、その箒に一人の問題児が跨っている。
「ぅがっ! ぅぎががぎぁぐげぅげぅ!」
こんな調子で人間らしい言葉を吐いてくれないテラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)は、リリの怒りをまるで気にしないで、箒に跨って身体を揺らす。
恐竜の着ぐるみで全身をすっぽり覆っているテラー。
その分厚い生地のおかげなのか、またモンゴル育ちの野性児特有の強さも加わってか、下から『亀川』の冷気を受けつつも、結構元気である。
テラーは身体の揺れ具合から、どうやらはしゃいでいるらしい。
箒から垂れ下がった『亀川』も、ぶらんぶらん揺れている。
「おおーい、エージェント・T! あちき特製の着ぐるみの着心地はいかがでありんすかー?」
着ぐるみの製作者であるらしいグランギニョル・ルアフ・ソニア(ぐらんぎにょる・るあふそにあ)が、テラーに手を振る。
さらにサー パーシヴァル(さー・ぱーしう゛ぁる)が口元に手を当て、
「かっこいいよテラー! まるで大魔法使いみたい!」
と、テラーを囃したてる。
そして一人冷静なクロウディア・アン・ゥリアン(くろうでぃあ・あんぅりあん)は【荷馬車】に腰かけて、
「テラー……そなたが気にせぬのなら我輩(わたし)は言わぬが……下半身が少し凍っておらぬか?」
と、少し心配そうである。
「ふふふふっ。どうだ、うちのテラーは可愛いだろう?」
サーは近くにいた東雲に、肩をぶつけんばかりに近寄って自慢し始める。
東雲はフレイムタンの熱に当てられて顔を赤くしながら、
「ふふ、ふ。そうだね、着ぐるみのデザインもとてもかわいいね。でもフレイムたんだって負けてないよ?」
と、今は炎に包まれているフレイムたんを、目を細めて眺める。
リキュカリアは東雲に寄り、
「ちょ、ちょっと東雲? 顔真っ赤だよ?」
「だ……大丈夫さぁ〜……」
「ぼーっとしてきてるよ! やっぱりマグマ地獄なんて無茶だったんだよぉ」
「平気さ、ちゃんと、暑さ対策で、【ミニ雪だるま】を、あ、溶けてる……」
「ダメじゃん!」
いよいよ足元がおぼつかなくなってきた東雲。
ンガイが駆け付け、
「なに、【ミニ雪だるま】が溶けてしまったと? まったく仕方のない……」
「シロ、【シルバーウルフ】で冷やしてくれない……?」
「よし、我の【シルバーウルフ】だな……おや?」
見ると、暑さに弱い【シルバーウルフ】も、フレイムタンの熱でまんまとへばっている。
「ダメじゃん!」
リキュカリアが、熱から遠ざけようと東雲を『亀川』の方へ引っ張ると、東雲の顔がみるみる青くなっていく。
「東雲―! そんなに反応早かったっけー!?」
「大変だ、大丈夫かい?」
今にも倒れそうになっている東雲を、超人ハッチャンが駆け寄っておぶってあげる。
「ああ……あなたは、ハッチャン、だね……」
と、東雲は超人ハッチャンの背中でぐったりする。
「ぅぎがぁ! ぐぉぅぎ、がぅがぅ!」
上から見ていたテラーが叫び出す。
とその直後、テラーは箒から跳びおり、東雲に続いて超人ハッチャンの背中にのしかかった。
「うぐぅぅ……」
テラーにジャンピングボディプレスを食らった形になる東雲。
「あ……背中がひんやりするね……」
という言葉を残し、フレイムタンの冒険という特別な環境にすっかりはしゃいでいるテラーに巻き込まれ、東雲はのびてしまった。
「し、東雲―!」
顔を手で覆って叫ぶリキュカリア。
「あら大変♪ ほらツカサ、おぶってあげて」
シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が月詠 司(つくよみ・つかさ)に東雲を預ける。
「え、ちょ、シオンくん? 何で私が?」
「決まってるじゃない。ワタシたち、『ハッチャン直属メイド隊』よ? このあとハッチャンはマグマイレイザーで大変なんだから、体力温存させてあげなきゃね」
「いや、だからって何で私が」
「率先してハッチャンの負担を軽くするのもリーダーの仕事でしょ♪」
「リーダーって指示するのが仕事でしょー? これじゃ私、下っ端じゃないですかー。ていうかまた【メイド服】ですかー?」
そんな司のすぐそばで、アイリス・ラピス・フィロシアン(あいりす・らぴすふぃろしあん)が超人ハッチャンに【リカバリ】をかけはじめる。
逆に超人ハッチャンが戸惑い、
「いや、アイリス。僕まだ全然疲れてないから」
「……回復と……補助……ワタシの仕事……」
アイリスはいつものようにぽつぽつとしゃべる。
「ハッチャン……大事な戦士……少しも疲れちゃ……ダメ」
「あのー、アイくん。それって過保護じゃないですかー?」
と、司がツッコミを入れるが、
「あら、アイは立派に仕事をしてるじゃない。それに比べてリーダーったら文句ばっかりねー♪」
と、シオンが野次る。
司は困った顔をしながら、
「リーダーったって、シオンくんが勝手に……まぁそれはいいですけど……【リカバリ】ならこの東雲さんにかけてあげたほうが……」
「ワタシ……メイド隊……ハッチャンの……」
と、アイリスが真顔で【メイド服】をヒラつかせて拒否すると、司はさすがに、
「ええー……ひどいですよ……」
「……冗談……」
と、真顔で東雲に【リカバリ】をかけてあげるアイリス。
「アイくん……分かりずらいですよ……あ、ところでイブくんは?」
「大丈夫よ。ちゃあんと前の方で道案内(囮)させてるから♪」
「あのー、シオンさーん! なんでボクだけ前で道案内係なんですかー? ちゃんと意味あるんですよねー?」
と、前の方からイブ・アムネシア(いぶ・あむねしあ)の声が空しく聞こえた。
「うんうん、テラーは元気が一番!」
サーは、いまだにはしゃいで走りまわるテラーを、嬉しそうに見ている。
グランギニョルはテラーや東雲の心配よりも、
「凍ってるのに動いたら着ぐるみが破損してしまうでありんすよー。あ! 言わんこっちゃない、足もとがやぶけちゃってるでありんす」
と、テラーの着ぐるみをなでつける。
破けた着ぐるみの隙間からは、テラーの纏う波動であろうか、黒い煙のようなものが漏れ出している。
クロウディアはそんな様子を見ながら上を見上げ、
「ふむ、『亀川』がずいぶん派手に揺れておるな……紐がもてばよいが」
と、分析した直後、『亀川』を吊っていた紐が冷気とテラーが加えた負荷により、あっさりと切れてしまう。
「あ、アイスたんが!」
「タートンが!」
リリと菫が同時に叫ぶと共に、『亀川』が落下をはじめ、超人ハッチャンにかまってもらおうと走り回るテラーの頭に直撃する。
「ぐげぅ!」
「て、テラあああああ!」
と、取り乱すのはサー。
というか、『亀川』の周囲にいた者は全員取り乱す。
「テラー……はしゃぐことに命をかけるやつがあるか……」
というクロウディアの言葉が、皆の気持ちを代表している。
テラーが、したたかにぶつけた頭を振る。
「ぅげがぁ……ぐるぐる、ぐらぐら、がぁぁ……」
「え……? テラー、今何て?」
サーとグランギニョルが、テラーに聞き返す。
テラーは脳しんとうを訴えているのか、頭を指しながら、
「ぅぐぅぅ。ぐるぐる、ぐろぅぎぃぃ」
「て、テラーが……テラーが……『ら行』を……」
『シャベッタアアアアア!』
「でありんすー!」
テラーが新しい発音を手に入れたことに、驚愕しつつ喜ぶ二人。
一方で、『亀川』組は急いでフレイムたんとの位置を調整して、フレイムタンの熱を最小限に抑えようと動き、
「アルテミスー! 助けてー!」
超人ハッチャンが慌ててアルテミス組に叫んで戻ってもらい、アルテミスの加護の影響下で『亀川』とフレイムたんを離して『亀川』の冷気を鎮め、再度箒に搭載し直し、フレイムたんとの距離を再調整し、ようやく再出発という、面倒な手間をかけて事故の修復を行った。
「ダークサイズらしいっちゃらしいけど……無駄に疲れたわ……」
冷気の管理を行っていた菫辺りは、早速疲労困憊な様子である。
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