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【ダークサイズ】灼熱の地下迷宮

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【ダークサイズ】灼熱の地下迷宮

リアクション

「さてと……クマチャン、お酒はイケる口かな?」

 火山帯遺跡にある、『亀川』が納まっていた神殿内。
 天音は、【施工管理技士】を使って商業地区から移設したバーカウンターに立ち、シェイカーを振っている。
 彼は、カウンターの椅子に座って頬杖をつくクマチャンに、バーのマスターよろしく注文を聞く。
 【リボン】【薔薇のドレスシャツ】【スラックス】でまとめた彼の出で立ちを見ると、バーボンと葉巻が欲しくなる。
 頭は取ったがクロスの着ぐるみを着たまま、クマチャンはひょいと顔を上げる。

「え、お酒あるの!? イケるイケる!」
「そうかい」

 天音はそう言ってシェイカーから液体をグラスに注ぎ、クマチャンに出した。

「さ。ミネラルウォーターだよ」
「水かよ!」
「冷蔵の問題があるから、今日は持ってきてないんだ」
「じゃ何で聞いたんだよ」
「リサーチだよ。皆が欲しい飲み物を揃えたいからね。ネネは何が飲みたい?」

 クマチャンの隣に座るキャノン ネネ(きゃのん・ねね)は扇子を止めて一考し、

「そうですわね。わたくしはシャンパンかしら」
「なるほど。暑い場所ではスパークリングがいいよね。考えておくよ」

 神殿の奥から、ブルーズが戻ってくる。
 天音はブルーズに水を出しながら、

「ブルーズ、あったかい?」
「いや、さすがにないな」

 と、ブルーズはクマチャンの隣に座る。
 クマチャンはグラスに口をつけ、

「何探してたの?」
「神には酒がつきものであろう。お神酒でもあれば、天音が酒を出せると思ったのだがな」
「仮にあったとしてもさ……お供え物だろそれ……」

 ブルーズはグラスの水を飲み干して、ふと違和感を感じる。

「ところで天音……何故この二人が、ここにおるのだ?」
「君には言っただろう。皆が一息つける場所にしたいと」
「それは聞いたが……サンフラたちの居場所にするのではなかったのか?」
「ん? どういうこと?」

 クマチャンが天音に顔を上げると、天音は、

「ああ。とりあえずこの神殿の半分は、チーム・サンフラワーで使わせてもらうことにしたから」
「えー! 勝手に陣地作っちゃったよ」

 クマチャンが驚いていると、【施工管理技士】が、

「遺跡の有り物を利用したんで仮施工ですが、大体こういう感じでいかがでしょう」

 と、いつの間にか神殿天井から幕を垂らし、石材を組み上げ、何となく神殿の区分けが出来上がっている。

「あれー! いつの間にー!?」
「あらあら、ではわたくしはお邪魔でしたわね」

 ネネは気を使って席を立とうとするが、

「ああ、別に居ても構わないよ。女性の生活と着替えスペースとして利用してもいいと思っているから」
「まぁ、そうでしたの。では衣裳を持ち込まなくてはなりませんね」
「どの道、俺はいられねえんだな……」

 ネネに代わってクマチャンが席から立ち上がると、ブルーズが振り返る。

「ところで、我が見回った限りでも、ダークサイズは拠点設営を進めているぞ。大幹部であるおまえは手伝わんでいいのか?」
「あー……俺、力仕事じゃあんまり役に立たないし。みんな自分でやってるからさ、かえって邪魔になるかなって」
「ずいぶんと存在感を失ったものだな……」
「言わないでよ……」
「ぬっふっふっふ……」

 どんどん悲しそうな顔になってくるクマチャンの後ろから、全てを見透かしたような笑いが聞こえた。

「聞いたぞ〜、クマチャン? 今回は戦力外はおろか、お留守番を申し出たそうじゃないか〜」

 夜薙 綾香(やなぎ・あやか)は今や笑いが止まらないといった感じで、目を細めて白い歯を見せる。
 クマチャンは今回ばかりは綾香を警戒し、

「出たな、詐欺師め」
「そういう言い方はなかろう。まぁ、こないだ現物を忘れたのは私のミスだが」
「そうだぞ。母様の侮辱は我が許さぬ」

 綾香の隣では、夜薙 焔(やなぎ・ほむら)が左に【ミニ雪だるま】を抱き、小さい身体を張ってクマチャンを右手で指して糾弾する。
 クマチャンは二人の顔を見て復讐心に火が付き、焔の両脇に手を伸ばす

「出たな焔! 予告通り仕返ししてやる!」
「何をするのだ」
「ほらほらー、たかいたかーい。どうだ、子供扱いされて悔しいだろ!」
「うわーい。やめろー」

 焔の反応は、喜んでいるのか怒っているのかよく分からない。
 綾香は額に汗を流しながら、

「何なのだその報復は……とにかくクマチャン、私の開発したアレはだな」
「へん! そんなこと言ってまた持ってきてないんだろ。『釣られたクマー』とか言わねえからな! クマだけに!」
「ずいぶん機嫌が悪いのう……」
「では」

 と、アンリ・マユ(あんり・まゆ)が、たかいたかいで飛ばされた焔を空中でキャッチし、一回転して着地する。

「実物を見れば、信じてくださいますでしょう?」

 アンリが焔を降ろして指を指すと、そこには【パワードアーマー】【パワードヘルム】【パワードアーム】などパワードシリーズを勢ぞろいして組み上げ、クマのぬいぐるみの外観を被せた、3等身のパワードスーツが立っている。
 クマチャンの目が釘付けになる。

「こ、これは!」
「だから言ったであろう、次は持ってくるとな。というわけで見よ! クマチャンのためにカスタマイズした、これが『クマード・スーツ』だ!」
「く、くまーどすーつ!」

 ついに全容を現したクマード・スーツ。
 ぱっと見は、クロスの着ぐるみより3回りほど大きいクマの着ぐるみ。
 しかしそのふさふさの毛皮の中には、頭からつま先まで覆う形の、全身鎧のシルエット。
 普通の人間であるクマチャンには実にまぶしい。
 アンリがクマード・スーツの毛を撫でる。

「仕様は基本的に前回お話したとおり。パワードスーツに魔術強化を加えたものですわ。かわいいクマの外観にも関わらず、物理防御はもちろん、対魔法防御も折り紙つきですわ。耐熱、耐圧もできる限り考慮してますから、フレイムタンの溶岩にも、短時間なら耐えられるはずです」
「おお……」

 クマチャンは思わずクマード・スーツの腕をもふもふし、その先の鉤爪を見る。

「このすげー痛そうなクローは?」
「クマ・クローですね。【狂血の黒影爪】を転用したものですわ。基本の物理攻撃はこれで。頭部には【パワードレーザー】の改造品を取り付けていますので、遠近両対応の二パターンがあれば、あらかたの敵には対応できるかと」
「き、着てみていいかな?」
「うむ、うむ。試してみるがよい」

 ようやく機嫌も良くなって目を輝かせるクマチャンに、綾香は満足そうにうなずく。

「すげー! 【パワードインナー】付きか。中も快適だー!」
「ふっふっふ。私に感謝するのだぞ。これで戦闘はおろか、皆の拠点設営にも一役買えるというものだ」
「みなぎってきたあああ!」

 クマチャンは今までサボっていたのを取り戻すため、神殿を出て皆の手伝いに走り去って行った。
 嬉しそうにクマチャンを見送る綾香に、アンリがふと思い出してささやく。

「大丈夫でしょうか。詳細部分の説明がいくらか抜けてしまいましたが……」
「ん? こないだリミッターについても説明したではないか。それにおぬしが説明書を渡しておいたしな。私はクマチャンの機械操作の勘の良さは買っておる。今日中に使いこなせるようになると、私は思うが」
「しかしアヤカ、【狂血の黒影爪】。あれは、ともすれば使用者の精神を侵す、強力な力を秘めていますわ。戦士でないクマチャンには危険では?」
「それはそれで、面白いではないか!」
「そ、そうですか……」

 クマチャンへのスーツの引き渡しが済んで、綾香はふうと息をつく。

「やれやれ、それにしても此処の暑さには辟易だ。天音、水を一杯くれぬか」
「お疲れ様。クマチャンが活躍できそうになって、何よりだよ」
「うらやましいですわ。クマチャンはあんなにも愛されて」

 天音が綾香にグラスを出し、ネネがクマチャンが出て行った神殿入口を眺める。
 その入口から、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)がやってくる。

「あっ! やっぱりこんなところでサボっていたのですねぇ、ネネさん」
「あら、レティさん。どうしましたの?」
「どうしましたの、じゃないですねぇ。あちきたちには大事なお仕事があるじゃないですかぁ」
「何かありましたかしら」

 ネネが人差し指をあごに当てる。
 ミスティがネネをまっすぐ見据え、

「以前も誰かが言ってましたけど、ダークサイズは女性が多いでしょ? そんな悪の組織に一番大事なのは、アメニティじゃないですか」
「アメニティ……快適さですわね。まあ、わたくしとしたことがすっかり忘れておりましたわ。温泉ですわね」
「そのとぉーりですねぇ。モモちゃんも探してきますから、すぐ出発ですよぉ」
「出発? どこかあてがあるんですの?」

 ミスティは、レティシアの言葉をついで、

「私たちも忘れてましたけど、商業地域に水源がありましたよね。それが使えると思いますよ」
「そうでしたわね。あそこなら水は豊富そうですわ」

 と、ネネは早速席を立つ。
 続いて天音がグラスを拭き終わり、

「ちょうどいい。僕も水を確保したいところだったんだ。ブルーズ、行こう」

 と、連れだって商業地域へと神殿を出た。