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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ

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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ
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 ■ 闇に射す光 ■
 
 
 
 ――気が付くとあたしは建物の中のようなところにいた。
   いた、と言っていいのかどうかは分からない。
   あった、というほうが正しいだろうか。
   そこにあるのは光条兵器だけで、あたし自身はまだ実体を持っていなかったのだから。
   ここはどこなのだろう。
   あたしは確か封印されたはず。
   光条兵器の形に封じられて……それからどうなったのかは知らない。
   
   そのあたしに、どうして意識が戻ったのかも分からない。
   封印が緩みでもしたのだろうか。
   だけど意識が戻っても、実体もないあたしは何も出来ない。
   ……少し怖かった。
   意識無く封印されているのなら、まだいい。
   意識を保ったまま永遠に封印から解かれずにいるのはあまりにも……永い。
   
   でもだからといって、私にはどうすることも出来ない。
   暗い建物の中で、ただこうしているだけしか――

 
 
 
 それは冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)が光を失って1年とちょっとが過ぎたころ。
 退院はしたけれど、日奈々は学校はおろか家の外にすら出ようとせず、自分の殻に引きこもっていた。
 日奈々を養ってくれている親族は、外に連れ出そうとしたり、点字を覚えてはどうか、と勧めたけれど、そんなことはとてもじゃないけれど考えられなかった。
 外には何があるのか分からない。自分の部屋の空間ならまだいいけれど、何も見えない真っ暗闇がどこまでも続いている外になんか怖くて出られない。
 点字で何かが読めるようになってどうなるというんだろう。もう読みたいものも、何も無いのに。
 日奈々がずっと拒否し続けているうちに、親族も何も言わなくなった。
 気持ちが落ち着くまでそっとしておいたほうが良いだろうとの配慮だったのだが、日奈々にはそれも伝わらない。これで本当に見捨てられたのだと思った。
 
 ああ……みんなにとって、目が見えない自分なんてお荷物なんだ。
 足を引っ張るだけ、邪魔になるだけ。
 だったらずっとここにいた方がいい。
 人に迷惑をかけて、自分も嫌な思いをするような外になんて出ない。
 
 だからずっと日奈々は自分の部屋にいて、何もせずただじっとクッションを抱き続けていた。
 ずっとこんな生活が続くのだと思っていた。
 ――その日までは。
 
 
 ふと、日奈々は人の気配のようなものを感じた。
 親族はすでに仕事で家を空けている時間だ。家には誰もいないはずなのに。
 見えていた頃の記憶を頼りに場所を探ってみると、どうやら気配は蔵にあるらしい。
 日奈々は少しだけためらった後、ずっと抱いていたクッションを置いた。立ち上がり、部屋を出て壁を伝いながら歩き出す。
 泥棒かも知れないとは思わなかった。
 部屋の外に出ることの恐怖も感じなかった。
 ただ、あの気配のある場所へ行かないと後悔する。そんな想いに急き立てられるように、日奈々は蔵へと向かった。
 
 蔵に近づけば近づくほど、気配は大きく強く感じられた。
 そういえば蔵には丈夫な閂がかかっていたはず……と手探りしてみれば、蔵の扉は何の抵抗もなく開いた――。
 
 
 
 ――扉が開いて光が射した。
 その光の中に、ふわふわしたピンクの髪の女の子が立っている。
 なんて可愛い子なんだろうと、あたしは思う。可愛いだけでなく、今にも消えてしまいそうに儚げだ。
 女の子は恐る恐るあたしがいる建物に入ってきた。すぐ前にある荷物にぶつかって、驚いたように後退る。
 もしかして、見えてない?
 そう思ったけれど、女の子の顔はあたし……というか、あたしが封印されている光条兵器にまっすぐ向けられていた。
 荷物にぶつかって少しひるんだ様子だけれど、女の子はまたそろそろと前に進み始める。
 その危なっかしさを支えてあげたくて……あたしは今、実体でないことをとても悔やんだ――

 
 
 
 蔵に入るとはっきり分かった。この気配は自分と同じくらいの少女のものだと。
 思わず足を速めようとしたら何かにぶつかって、どきんと心臓が跳ねる。
 それでもその気配に近づきたいという気持ちのほうが勝って、日奈々は蔵の奥へと進んでいった。
 そう、あそこにいる。
 でもどうして蔵の中にいるんだろう。一体何者なんだろう。
 知りたい――そう思った日奈々は問いかけた。
「……誰?」
 自分の口からさらりと言葉が出たことに、日奈々自身が驚いた。口下手な上に、この頃は人と関わることなど考えられなかったのに、この少女のことは知りたいと思ったのだ。
「あたしは冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)だよ」
 その答えに、正確には千百合が答えたその声に、日奈々は引き込まれた。
 凛とした何処までも通るような透き通った声。
 綺麗で強いその声を聞いた瞬間、日奈々は一目惚れしていた。
 こんな気持ちは久しぶり、いや初めてだった。
「私、は……如月日奈々……」
「ここの人なの?」
「……はい……あの、あなたはどうして……ここに……?」
「それが良く分からないんだよね。気が付いたらここにいたの。キミは何か知ってる?」
「いいえ……ついさっき……急に、気配を……感じて……」
 もうずっと親族以外の人と会話していなかったから、日奈々は上手く話すことが出来なかった。けれど千百合は気にする様子もなく、日奈々と話をしてくれる。
 それが嬉しく、また千百合のことが知りたくて、日奈々は夢中で話をした。
 彼女に触れたい、もっと親しくなりたい。
 そんな感情、とうに無くしたと思っていたのに、湧き上がる気持ちは止めようもなかった。
 
 どのくらい話をしただろう。突然千百合は、
「ね、あたしと契約しない?」
 と日奈々に持ちかけた。
「契約?」
「地球人とパラミタ人のパートナー契約だよ。一生切れることない絆の契約、あたしと結んでくれないかな?」
 その申し出はとても嬉しかった。けれど日奈々はうなだれる。
「でも私……何も出来ない……きっと、迷惑……かけてしまう……から……」
 そんな自分には価値がない。千百合のパートナーになることなんて、望んではいけないのだと。
 けれど千百合の声が、日奈々が大好きな声が、こう言ってくれた。
 
「何か出来るとか出来ないとか、そんなの関係ないよ! あたしはキミが、日奈々がいいの! 日奈々と一緒に歩いていきたいんだよ」
「私でも……いいの……?」
「違う。日奈々『が』いい!」
 千百合からは、その言葉が真実であることが感じられた。
 彼女は本当に日奈々を必要としてくれている。それが分かったとき、久しく忘れていた感情が日奈々に戻ってきた。
 
「うれし……い……です……」
「あたしも日奈々に逢えて嬉しいよ。契約を結んで、これからずっと一緒にいよう」
「……はい……」
 そして2人は契約を結んだ。これからずっと一緒に歩んでいく為に。