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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ

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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ
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 ■ 永遠の別れと、永遠に繋がる出会いと ■
 
 
 
 一緒に来てくれとガイ・アントゥルース(がい・あんとぅるーす)に頼まれて、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)は龍杜へとやってきた。
 にも関わらず、ガイは自分だけで見たいからと、ラルクが水盤を覗くのを拒否した。
「俺は見ちゃいかんのか?」
 自分との出会いを見るのに何故、と不思議には思ったが、まあ何か理由があるのだろうとラルクはガイの意思を尊重することにした。
 
 
 
 ■ ■ ■
 
 それは未来。けれどガイにとっては過去の地球。
 ニルヴァーナ探索が失敗し、パラミタが滅んでしまってから数十年。
 明るいニュースは少ないけれど、それでも何とか日々は流れ、人々の営みは続いている、そんな未来。
 
 まだまだ現役、とはいってもラルクももう70歳を超えた。
 今は医者を引退し、修行をしながら曾孫の誕生を楽しみにする日々だ。
 どんな世界にもそれなりの幸せはある。
 それを拠り所に残りの人生を送ってゆく、子、孫、そしてもうすぐ曾孫が産まれるこの家族の中で。
 ついこの間まではそう思っていたラルクだったのだけれど。

 過去に行ってこの未来を変えたい。そうガイが言い出した時には驚いた。
 確かに、現在では時間跳躍が可能になっている。
 が、莫大な費用がかかる上、一方通行。跳躍にかかるリスクは高いのに、それに見合う結果が手に入れられるとは限らないというシロモノだ。
 ガイにも家庭があるし、孫ももうそろそろ産まれようとしている。けれど、時間跳躍をすれば、ガイのここから先の人生は消える。代わりに、見知らぬ世界である過去で人生を紡いでいかねばならないのだ。
「なぁ、ガイ。本当に行くのか?」
 思いとどまってくれないかと願いながらラルクは問いかけたが、ガイに迷いは無かった。
「ああ。俺は親父やお袋が見てた夢を実現させたい。その為には、過去に戻ってニルヴァーナの沢山を成功させ、パラミタを救わなきゃいけないんだ」
「砕音や俺の為なら気にしなくていい。皆で努力した結果がこれなんだ。誰も怨んじゃいねぇさ」
「誰も怨んじゃいないのはわかってる。俺が納得できないだけだ。相方には結婚しておいてなんだが申し訳ないと思ってる。だがそれでも……俺はこの結末を認めたくはないんだ」」
 ガイの返事にラルクは唸る。息子が今の生活を手放して過去に行くのに、はいそうですかと簡単には頷けない。
 もうすぐ孫が産まれようというのだから、このままこの世界で孫の成長を楽しみに生きていって欲しい、というのが父としてのラルクの本音だ。
「確かにこの世界は暮らしにくいが……帰ってこれなくなるんだぞ? もう、ここには戻ってこられねぇんだぞ? それでもいいのか?」
 時の流れは複雑で、ましてやガイは未来を変えようとして行くのだ。この時間に戻ってくることはまず無いと考えて良いだろう。
 そう念を押してみたが、ガイの決意は固かった。
「分かってる。その為に、子供がちゃんと大人になるまで見届けた訳だし」
 ガイの覚悟はすでに決まっている。こうなったら自分の言葉なんかで止まらないということは、ラルクには分かりすぎるくらい分かっていた。
 止めることは出来ない。ならば自分に出来るのは、僅かばかりの助言だけだ。
「わかったわかった! ただ、これだけは言っておく! この時代を引き摺るな。過去の俺を親父だと思うな。確かに俺は父親だが、俺と過去の俺は別存在だ。あと未来のことは絶対言うなよ! せっかくの楽しみがなくなっちまうだろうしな」
 そう注意を与えた後、ラルクはガイに笑顔を向けた。
「最後に、その時代をうんと楽しめ! 恋をするのもよし、冒険をするのもよし! こんな老いぼれじゃねぇ俺を超えるのもいいんじゃねぇか? 兎に角宿命とか使命とかは二の次だ。俺が感じた胸の高鳴りを感じろ。あの時のことをお前も楽しめ。じゃねぇと俺はお前を許さねぇからな」
 ラルクにはガイの為に何もしてやれなかったという思いがある。自分に出来たのは精々、格闘術の稽古をつけたりとかちょっとした知識を与えることぐらいだろう。
 だからこそ、ガイには楽しんでもらいたい。今の地球にはない、パラミタやニルヴァーナという未知に溢れた、限りない可能性を含んだ世界を。
「な……何馬鹿なことを言ってるんだ。俺はこの悲惨な未来を変える為に行くだけであってな……! そんな冒険とか、ましてや恋愛する為に行くわけじゃねぇよ」
 ガイは目をむいた。
「それに、老いぼれだと? 今まで1回も勝てなかったのにか? 白髪は生えちゃいるが、まだまだ筋肉も衰えてねぇし、あらゆる意味で現役な癖に何言ってやがるんだ!」
 猛然と反論した後、ガイはつと視線を落とし、
「……だが、まぁ……親の言いつけを守るのが子供の役目って奴だ。参考程度には聞いてやるよ」
 と付け加えた。
 そんなガイにラルクは行ってこい、と顎をしゃくる。
「過去の俺に会ったら……まぁ、よろしく頼む。今もヤンチャなつもりだが、あの頃は輪を掛けてヤンチャだったしな」
「馬鹿野郎。親父は今も昔もヤンチャだ。精々減らず口を叩きながら、あと数十年は生きやがれ」
 滲みそうになる涙をぐっと堪えている姿のガイに、ラルクも感傷的になりかかったが、そんな様子は一切見せることなく最後まで笑顔で送り出す。
 どうか。
 ささやかではあるけれど今まで築いてきたこの暮らし、それを捨てて過去へ旅立つガイにより良い未来があるように。そして、今よりも良い未来がこの地球にも来てくれるように――と願いをかけながら。
 
 
 そうしてガイは過去にやってきた。
 若干腹いせという意味もあって、ラルクと契約してやるぜとばかりに、まずは聖アトラーテ病院に向かった。
 砕音が入院していたらしいし、ラルクもほぼ毎日通っていたと聞いている。
 ラルクに会う為に病院に向かったのだし、過去の世界ではラルクは若いというのも頭では分かっていた。けれど、いざ実際にラルクを見付けると、やはり驚かざるを得ない。
 がっしりした体躯も雰囲気も、未来のラルクとそう代わりはない。けれど、白髪もない金髪、皺のない顔、そして何より全身から感じられる若さに、相手がラルクでありながら自分の父であるラルクとは違うのだと思い知らされるようだ。
 ラルクの方は、目の前にいるのが未来の自分の息子であることなんて知るよしもない。すたすたと病院の廊下を歩いてゆく。
 声をかけずにおけば、そのまま通り過ぎるだろう。
(未来の親父とこの時代の親父は別存在……か)
 父であるラルクの言葉をしっかりと思い起こしてから、ガイは今目の前にいるラルクにひらひらと手を振った。
「すまないですぜ。そこのお兄ちゃん、俺と契約する気はないですかい?」
「なんだお前は……?」
 いきなりの申し出に、ラルクは警戒するように目を細めた。
 それももっともだろうが、自分の素性を明かすわけにはいかない。自分が未来の息子だということがバレないように気を付けながら、まずは頼み込んで契約にこぎ着けねば。
「おっと、自己紹介がまだでやしたな。俺はガイ。シャンバラ人で丁度契約者を探してたんですよ。強い人を探してやしてね。俺も是非その旅に同行願いたいですな」
 ラルクの警戒を解くように話しかけつつ、ガイは心に誓う。
 
 ――俺は絶対にあんな悲惨な未来にはさせない。
   あの未来だけは絶対に回避してやる。それが俺の生きる意味だ。