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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

リアクション






【激戦】



 前方で行く手を阻むアールキングの根を、根こそぎ吹き飛ばそうかと言うような、艦隊からの暴力的な荷電粒子砲や各艦隊の砲撃が続いていたが、勿論、それはその周囲で戦っている仲間達の協力があってこそである。
 砲撃の最中も、方向の前後左右、そして上下を問わず、樹化イコン部隊や樹化虚無霊たちは、アールキングの内部への侵攻を阻止すべく襲い掛かってきていた。
 特に、樹化イコンはそこそこに組織だって行動するだけの判断力も有るためか、まずは最大の攻撃力を持つ艦を落とすべきとばかり、砲の射線から逃れながら急接近をかけてきたのだ。

「来たか……」

 伊勢から、吹雪が指揮しているイコン部隊達が、まず接触して開かれた戦端を、半ば観察するようにしながら、中距離からのプラズマライフルで接近を牽制していたのは柊 真司(ひいらぎ・しんじ)ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)の駆るゴスホークだ。
「BMIシンクロ率82%を継続中――現在戦闘中の樹化イコン部隊後方より、新たに機影が接近しています」
「了解。パターンは粗方掴んだ……そろそろ、行くぞ」
 ヴェルリアの言葉に応えて、イコン部隊の情報収集から一転。プラズマライフル内蔵型ブレードの、刃の部分へとパイロキネシスで炎を纏わりつかせると、それが灼熱化したのを待って、真司は激突しようかと言う勢いで、イコン部隊の中心――指揮機へ向かって急接近をかけた。
「進路上に、樹化イコン三機。接触まで二秒……!」
 ヴェルリアが声を上げたが、警告ではなかった。ただ「事実」を告げる声が、接触のタイミングとポイントを真司に精神感応で、正確、かつ最速で指示し、それを受け取った真司は、速度を緩めぬままにブレードを構えなおした。
「押し通る!」
 直進し、ブレードを振り上げ、下ろす動作は二回。進路を邪魔する小型のイコンを、すれ違い様に撫で斬るように溶断し、剣先を翻す動きで二機、そして再び振り下ろす動きで三機と、目前の障害をただ取り除いたと言わんばかりの動きで横をすり抜け、最後の集団をショックウェーブで弾き飛ばすと、指揮機へと正面から突撃した。
 直進する推力をそのまま載せた突きの一撃が、迎撃の手より早くイコンの装甲を割って奥を抉る。そしてその次の瞬間には、ブレードを這うサンダーグラップが、その内部から電流を流して機体を感電させた。
 バチバチ、と機体の内部が焼け焦げるような音がしたが、その時には既に、真司はヴェルリアの指示する次の小隊へと、その意識は動いていたのだった。

「……よし、次だ」



 ブヅンッという嫌な音と共に、機体から煙をあげながら、数体のイコンと共に指揮機が落ちていくのを確認し、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)バンデリジェーロの操縦席で息をついた。
「おお、流石エースはんやね」
 その傍から、次の得物を狙って戦場を渡るゴスホークを一度眺め、泰輔は視線を自身の戦場へ――指揮機を失って、その統制を失った残りの樹化イコンの群れを見やった。あちらが大物を狩るのが役目であるなら、こちらはその露払いだ。
 讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が表示させる、機体周辺の細部情報と、広域マップの戦況表示を見て、泰輔は再び息を吐き出した。
「数が多いなぁ。まあ、それでも有限個なら、一個ずつ片づけて行ったら、そのうちなくなるんやろけど」
「そうそう。全部やっつけちゃえばいいよ」
 溜息交じりのようで、案外に好戦的な声色の泰輔に、応じたのはウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく) と共にウィンダムへ搭乗する高崎 朋美(たかさき・ともみ)だ。
 イコン戦において、いつも通り泰輔とコンビを組むこととなった朋美は、そのコンビネーションへの自信からか、単純に素直なだけか、
「ボクたちが頑張っちゃったら、ゴスホークのやることなくなっちゃうかもねー?」
 その声を拾ったようで、真司が通信機越しに少し笑うような声が聞こえ、泰輔もつられるように口元を緩めると、気持ちを切り替えるように「さーて」と手を叩いた。
「朋美ん、いくで。顕仁、いつでもワープ、スタンバイしとってな」
「承知」
 応えた顕仁は、喜色に声を弾ませた。ワープ機能のためとは言え、泰輔が自分を必要としてくれたことが嬉しいのだ。
(ふ。一歩リード、じゃの)
 そう内心でほくそ笑む顕仁の心を知ってか知らずか。泰輔と朋美は、付き合いの長さで互いに簡単な合図だけで飛び出した。
 曲芸めいた動きで、パンデリジェーロとウィンダムの二機がその視覚を混乱させながら動くと、指揮官を失った樹化イコンは、数はあっても一体一体を相手にするのと大差ない。混乱を導き出すのにはわけなかった。乱れたその中へ、パンデリジェーロが接近戦に挑みかかろうと距離を詰め――たように見せかけて、直前で、絶妙なタイミングでその機体が掻き消える。
 突然の敵の消失に、樹化イコンの動きの乱れた次の瞬間、その後ろに隠れていたウィンダムの急接近と同時、ワープ先から身を翻したパンデリジェーロの攻撃とが重なって、見事に小隊は壊滅した。
 落ちていく機体の確認と、次の敵の接近までに機体のダメージ率を確認しながら、わざとらしく「今思い出しました」とばかりに、顕仁は、ウィンダムの操縦席へ通信を投げて寄越した。
「おお、そういえば……シマック殿、その後朋美殿とは?」
「ぶ……っ」
 唐突にふられた場違いなおせっかいに、ウルスラーディが思わず噴出した。
(チキショウ、変なタイミングでふってきやがって。俺のことをなんだと思ってるんだ!?)
 心中で呟いたが、口にすればしたで、ろくなことにはならないと判っているので、ウルスラーディは口を噤む。だいたい、他人の関係に口を出すのは野暮にも程があるではないか。
(俺と朋美は!てめーらみたいに、爛れた関係じゃねぇっ!!)
 そんなやり場の無いウルスラーディの叫びと怒りは、ウィンダムの狙う次なる樹化イコンへと向けられたのだった。


 そんな、ゴスホークやウィンダム達の戦いから僅かに離れ。
 ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)アリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)の乗るソプラノ・リリコは、彼等が討ち漏らした、あるいは討ち落とされたものの、まだ諦め悪く足掻こうとする敵への対処を行っていた。
 ロレンツォにとっては、戦いの中にぶつかっていくことよりも、自分の愛するイコンが傷つかないことが重要なのだ。和風を目指し、漆塗りを施しているそのイコンは、戦闘用と言うよりは、レーシングカーにキャラクターのプリントをなされた例のアレを連想とさせるものではあったが。
「傷、いかせると塗装費用バカにならないヨ。保険も効かないし……っていうか、そもそもイコンのために設計されてる保険存在してないしネ」
 そういうわけで、白兵戦も遠慮被るとばかり、基本的には遠距離射撃だ。そんな消極的なロレンツォに、サブパイロット席から息をついたのはアリアンナだ。
「もう、みんなを手伝いに来たんだから、もっと前へ出なさいよ」
 勿論、ロレンツォが口で言うよりは真面目に、与えられた役割をこなそうとしているのは判っているが、思わずそう言わずにいられなかった様子のアリアンナだったが、そんな中で突然、ソプラノ・リリコが敵へムカて急接近をかけた。ようやく戦う気概が出たか、とアリアンナが息をついたが、それを裏切ってロレンツォの声が響いた。
「この……っ、私の機体に、傷入れてくれるとは、何事ネ……!!
 愛着が有る故に、傷つけられればこうなるのか……と、途中まで納得しかかっていたアリアンナだったが、直ぐに気を取り直して首を振ると、突撃しかねないスプラノ・リリコを、何とか一撃離脱のヒットアンドアウェーらしい操縦に切り替えさせた。
「ちょっとくらいの傷はいいでしょ、ロレンツォ! 頑張って防ぎなさい!」
 不満げに自分を見るロレンツォに、アリアンナは頭を抱えたくなりながら続ける。
「あとで湊川さんに、修理費用持ってもらえないかかけ合ってあげるから!!」
「……は?」
 その声を通信で拾った亮一が、思わず首を傾げて呟いた声が、各艦の通信機から聞こえたのは、恐らく空耳ではなかっただろう。
 そんな場合ではないと知りつつも、それを耳に拾った艦隊の仲間達からは、僅かに笑う声が混じったのだった。