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こどもたちのおしょうがつ

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第1章 いじめっことゆきあそび

 イルミンスールの森の中に、古代シャンバラ時代から生きている魔女リーア・エルレンが暮らす家が存在する。
 東シャンバラ政府主催の合宿に引率者として参加をしていたリーアは、発見された薬や道具をいくつか預かってイルミンスールに帰還した。
 その中の一つ。肉体を一時的に子供化させる薬を使って、彼女は契約者達に楽しいひと時を過ごしてもらおうと計画した。
 そして、2021年の正月に、旧知のアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)や知り合いと共に、イルミンスールの生徒、互いの知り合い、要人までをも誘い込み、子供化をさせたのだった。
「順番に家に入るですぅー!」
 外では、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が大声を上げているが、やんちゃ盛りの子供達は遊びに夢中で家に戻ろうとはしない。
「こうちょーせんせー、わたし、おしごとてつだいます。なにをしたらいいですか?」
 そんなエリザベートの元に外見年齢7歳のまことちゃん(沢渡 真言(さわたり・まこと))がとてとてと近づいてきた。彼女のストレートロングな髪には左右の一房だけリボンが巻いてある。
 まことちゃんは執事のお父さんを真似て、お手伝いに興味津々なのだ。
「ちみっこい子供たちをとっつかまえて、ふんじばって家の中に引きずり入れますぅ。手を貸しなさぁい〜」
「はい、わかりましたぁ!」
 まことちゃんが、幼児捕獲に向かった直後。
「ん?」
 物陰から飛び出した幼子が、エリザベートに体当たりするように飛びついた。
「明日香、ですかぁ〜?」
 胸の中の小さな女の子が、エリザベートの問いにこくんと頷いた。
「どうしました〜? お家に入って着替えてご飯食べますぅ」
 こくん、と外見年齢3歳のあすかちゃん(神代 明日香(かみしろ・あすか))はうなづいた。
「くっついてたら、まっすぐ歩けないですぅ」
 エリザベートがそう言うとあすかちゃんはエリザベートの体から離れて、片腕をぎゅっと両手でつかんだ。
「明日香は甘えん坊さんですかぁ?」
「ちがうの、おなかすいたですぅ」
「先に家の中に行っていいですぅ。着替えて待っててください〜」
 エリザベートの言葉に、あすかちゃんは首をぶんぶん横に振る。
「いっしょがいいですぅ。いっしょじゃないとダメですぅ……」
 あすかちゃんは、すっごく不安気な表情だった。
 人見知りが激しくて、一人で家には行けない。
 大好きなエリザベートと一緒がいい。一緒じゃないとダメなのだ。
「しょうがないですねぇ〜」
 自分より小さなあすかちゃんを、エリザベートは可愛いと感じて。
 自然と手を伸ばして、彼女の頭を撫でてあげていた。
「えりざべーとおねーさん〜」
 嬉しそうな声を上げて、外見年齢3歳のソアちゃん(ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす))が駆け寄ってくる。
 ソアちゃんは腕の中に、白いぬいぐるみを抱えていた。
「あきゃっ」
 エリザベートのすぐそばで、ソアちゃんはぬいぐるみと一緒に転んでしまう。
「ほらほら、何やってるんですかぁ〜」
 エリザベートは屈んで、ソアちゃんに手を伸ばした。
「ありがとうごじゃいましゅ」
 泣き出しそうだったソアちゃんは、エリザベートの腕をつかんでにっこり微笑みを浮かべた。
「あのあの、おねーしゃん、まほーみせてくだしゃい、まほー!」
 起き上がって、ぴょんぴょん跳ねながら、ソアちゃんがエリザベートにねだっていく。
「魔法ですかぁ〜。ここでの使用は禁止と言われてますぅ」
「きんし……つかっちゃだめなのでしゅか? みたいでしゅ……」
 ソアは一変してすっごく悲しそうな表情になる。
「泣いたらダメですぅ! 駄々っ子は嫌いですぅ」
 エリザベートはそう言うが、じわりとソアちゃんの目に涙がたまっていく。
「せんせ……」
 まっすぐな黒髪、長髪の日本人形のような少女が俯き加減で近づいてくる。
 外見年齢5歳のケイちゃん(緋桜 ケイ(ひおう・けい))だ。
「わたしも……何か魔法がみたいです……」
「おねーしゃん、みせてくだしゃい、みたいでしゅー……」
「お願いします……」
 目に涙をにじませるソアちゃんと、紫の御着物を着たケイちゃんは一生懸命エリザベートにお願いをする。
「仕方ないですねぇ〜。危なくない魔法なら大丈夫でしょう〜」
 エリザベートは自分になついている子供達を前に、怒ることはなかった。
「こうちょーせんせー、つれてきましたー!」
「まにすんだよ! はなせよっ! はなせー!」
 まことちゃんが男の子を一人、羽交い絞めにしながら連れてきた。
「あっちで、あばれてた子ですー。たたかれて、ないちゃった子もいました。いえの中につれていきますか? おしおきしますか?」
「いえになんかはいんないよっ! あっちがさきにゆきをぶっつけてきたんだ。おれわるくないよっ! はーなーせーよっ!」
 まことちゃんの手の中で、ばたばた暴れているのは、外見年齢5歳のだいすけくん(四谷 大助(しや・だいすけ))だ。
「いっしょにゆきであそぼうとしただけでしゅ?」
「ゆきをなげるのは……あそびです……てをだしたらいけないです……」
「……ひっ……」
 ソアちゃん、ケイちゃんがそう言う。あすかちゃんはエリザベートの後ろに隠れて、びくびく怯えている。
「おれとあそぼうとするやつなんて、いるもんかっ。おれともだちいなかったもん。あそんでくれるのは、おっさんたちだけだった」
 だいすけくんは足で雪を蹴って、子供達にかけていく。
「これもあそびだっていうのかっ」
「つめたい、やめてくだしゃい……ふ……ふぇっ……ひくっ」
 ソアちゃんは雪を手で避けながら、泣き出しそうになる。
「ほら、ちがうんだろっ! じゅうのつかいかたとかおさけののみかたならわかるけど、あそびかたなんてしらないよっ」
「それじゃ、ゆっくり見るといいですぅ〜! 真言は離れるですぅ」
「はい!」
 まことちゃんは、だいすけくんを離して、後ろに下がった。
 同時にエリザベートはあすかちゃんとソアちゃんを庇って前に出ながら、魔法を放つ。
 雪がふわりと舞い上がったかと思うと、だいすけくんの体にぐるぐると巻きついていく。
「うぐぐっ、はなせーっ。あいつらにしかえしをするんだー!」
「そこで見てるといいですぅ」
 それから、エリザベートは子供達が見守る中、空に魔法を放っていく。
 炎の魔法、雷の魔法。
 光の魔法、闇の魔法。
 空に絵を描くかのように、花火のように。
「すごい……です……」
 ケイちゃんが興奮して声を上げる。
 それは特別な魔法ではなかったけれど、小さな体、小さな心の契約者達には、とても感動的な光景だった。
「えりざべーとおねーさん、しゅごいでしゅー!」
 ソアちゃんはクマのぬいぐるみを上下に振りながら、大喜びでエリザベートを絶賛していく。
「みんな、おねーしゃんのまほー、すごいでしゅよー!」
 庭で遊んでいた子供達も空に目を向けていく。
「派手にばーんと……は、やめたほうがいいですかー」
 エリザベートは子供達が驚いて泣き出すかもしれないと考え、大技は控えた。
「明日香、見てますかー? 怖くないですぅ」
 片手で魔法を放ちながら、自分の腕をつかみ続けているあすかちゃんを少しだけ前に出させる。
「みえてますぅ。きれいですぅ……」
 あすかちゃんはエリザベートの腕に頬を寄せながら、空を眺めて笑顔を浮かべた。
「ふんっ、たいしたことないな」
 そう言いながらもだいすけくんの目も空に釘付けだった。