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これが私の新春ライフ!

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●空京神社にて――神社でハッピーニューイヤー

 神が実在するかどうか、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)にはわからない。
 だが、初詣の意義ならば、わかる。
「年の初めに想いを新たにして願うというのは、素敵な事だと思います」
 メイベルは同行者たちに微笑みかけた。仲間とともに過ごした一年、多くの出逢いもあった一年……昨年は実り多い年だったと彼女は思う。その感謝を捧げ、今年も良い年でありますように、と祈りたい。
 今年のメイベル一行は六人、うち三人とは、昨年に絆を得た間柄だ。新たなパートナーシャーロット・スターリング(しゃーろっと・すたーりんぐ)、それに、イルミンスールの友人、イースティアとウェスタルのシルミット姉妹だ。
「セシリアお姉ちゃん、手をつないでー」
「わたしも、わたしもー」
 姉のイースティアは12歳、妹のウェスタルは10歳、初対面のときは人見知りしていた姉妹も、今ではすっかりメイベルの家族のように懐いている。二人をそれぞれ両側につかまらせながら、
「よし、放しちゃだめだよ」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が声をかけた。
 そんなセシリアとシルミット姉妹を見て和みつつ、「携帯電話でキャッチしたニュースによると、午後になってますます人が増えてきたそうですわ」とフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は告げた。「やはり混雑とは切っても切り離せないのですね」
「これはちょっと、想像以上ですね……」
 シャーロットは緊張した面持ちで息を吸い込んだ。見渡す限り人、人、人、人の波の大混雑なのである。これほど人が集まっている光景を、これまでシャーロットは見たことがなかった。ただ、これほど集まった人々が、押し合いへし合いしているわけでもなく整然と行列しているのは驚異的だ。やはり神様の前だからだろうか。
「では、行きましょうか。さぁ、シャーロット」
 メイベルはシャーロットの手を引いて歩き出した。容姿がそっくりということもあり、メイベルとシャーロットも姉妹のように見えた。
 やがて手水舎にたどり着く。メイベルは柄杓を取って一同に説明した。
「まずはこのお手水で、手と口を清めますよぅ」
 冷たい水だが、人いきれでほてった肌には心地良いくらいだ。
「ひゃー」
 シルミット姉妹は声を上げて水を使い、シャーロットはそれを横目で見ながらも、自分のほうがお姉さんであるので、冷たくとも声を上げずにそっと水に触れた。(そもそも、七百歳を超えるシャーロットは、どうあがいてもこの中で一番のお姉さんになるわけだが)
「さあ、次はお参りですよ〜」
 メイベルに従って一行は行列に並び、やがて拝殿にたどり着いた。
「作法は、二礼二拍手一礼でしたわね?」
 フィリッパはメイベルに確認し、正しく合掌した。
 シャーロットも見様見真似で行い、メイベルはもちろん美しい姿勢で祈った。シルミット姉妹とセシリアも続いた。彼らはそれぞれに、新年の願いを合掌に込めたのだった。
 拝殿から離れ、一同は空いた場所で記念撮影をすることにした。
「集合写真に限らず、初詣客で賑わう境内の様子を撮影するのも良いでしょう」
 数枚フィリッパが撮影した。一瞬、おみくじ売り場に向けたファインダー内に黒い服の少女が入ったものの……
(「あの人、どこかで……?」)
 とフィリッパが思ったときには、すでに彼女は姿を消していた。
「それでは、みなさん集まって下さい。撮りますわ」
 メイベルもセシリアも、シルミット姉妹、シャーロットも一列に並んだ。
「セシリアさん、笑顔が硬いですわよ」
「え? そ、そう……?」
 セシリアは自分の頬を、ぐにーっ、と引っ張った。
「シャーロットさんはもう少し顔を上げて下さいね」
「はい。ではこれくらいで」
 今日の楽しい経験に、シャーロットは良い笑顔を見せていた。
「セシリア様はもう少し右に寄って下さいまし……では、セルフタイマーをセットして……」
 フィリッパは駆け寄って、フレーム内に収まった。
 この写真はきっと、メイベルの私室に飾られることになるだろう。

 エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)は、拝殿の行列半ばで足を止めた。
「ぅゅ……知ってるけはいが、するの」エリシュカは声をひそめ、同行のローザマリア・クライツァールに囁いたのだった。「はわ……くろいお人形さん……」
 ローザは動じなかった。ただ、
「上出来よ、エリー」
 とだけ告げ、同行の上杉菊、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)に目配せした。

 葉月 可憐(はづき・かれん)アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)は、空京神社にずらっと軒を並べる屋台の一つを経営していた。二人揃って巫女姿、甘酒や雑煮を忙しく売っている。無事に空京神社の許可も得、公式の巫女服まで貸してもらえたのだ。
「お雑煮と甘酒、こちらで販売しておりますよっ♪ 暖まっていきませんかっ♪」
 可憐の優しい呼びかけは、氷の心すら溶かすような魅力があった。
「えへへ、久しぶりに穏やかな気分で楽しいねー」
 アリスも彼女と美を競う。彼女が巫女装束になるのは初めてのことなので、新鮮な気分で嬉しくて仕方がないのだ。神社提供の貸衣装にもかかわらず、巫女の服は二人にとって、あつらえたかのように良く似合っていた。
 甘酒は作るのに時間が掛かるのであらかじめ作ってきた物を温め直すだけだったが、雑煮はこの場で作成していた。凝り性の彼女たちは、出汁ひとつにしても昆布、煮干、塩、醤油、味醂と様々なものを用意し、具にしたって、三つ葉、大根、鳥のもも肉と皮、里芋……と豪華なのだった。寒い中来てくれた参拝客へのサービスとして営業していたので価格も控えめ、正直に言えば微妙に原価割れしているくらいでやっていた。それでも構わない。とても好評、たくさんの人に喜んでもらえるだけで二人とも幸せな気分だった。
「さて、そろそろ追加のお餅をつきましょうか」
 お客が途切れたタイミングで、『お餅つき中』という立て札を下げていったん店を休止し、二人は屋台の前の広場に杵と臼を設置した。そしてぺったんぺったん、リズミカルについていく。可憐が杵、アリスは手水だ。
 つきたての餅をまるめて、可憐はさっと雑煮に仕上げた。
「さあ、できたできたっ♪ アリスちゃん、ひとつ味見してみて」
「いいの〜?」
「もっちろん! ただ、気合いの入った謎の隠し味を入れているから、バッドステータスがかかっちゃうかもしれないよっ♪ 名づけて、『超☆謎料理雑煮』っ! さっきまで普通の料理だったじゃないかとかそんな無粋な突っ込みはもちろんしないですよね?」
 もちろん普通の雑煮もあるというが、迷わずアリスはバッドステータス味を選んだ。彼女は大喜びで食し……しばし沈黙した。そして、
「ん〜、おいしい……♪」
 満面の笑顔を浮かべたのだった。超がつくほどの味音痴というアリスの事情もあるのだろうが、最高の笑みだったのは事実だ。
「……あ、なんだか私がおいしそうに食べてたからかな? いつの間にか結構皆並んでるね」
 そう、二人の周囲には黒山の人だかりができていたのだ。
「さぁ、ただのバステが掛かる謎料理雑煮と、とっても気合の入ったより深いバステが楽しめるかもしれない超☆謎料理雑煮、どちらをご所望ですかっ♪ 普通もありますが、やはりここはチャレンジ精神を発揮して今年初の運試しといきませんかっ♪」
 可憐はそうやって売り出していた。といっても子どもには、普通バージョンだけを渡しているのでご安心あれ。
「可憐の料理、私的には好きだけど、他の人的にはちょっと危ない気が……」
 アリスの危惧もどこへやら、皆、正月で気分が高揚しているのか、謎料理雑煮も超☆謎料理雑煮も飛ぶように売れた。
「うん……皆、頑張れー」
 アリスは小声で応援した。
 さすがに、毒や死のようなバッドステータスはないものの、恍惚としたりうつらうつらしたりと、様々な効果が人々に現れていた。
 それはそれで、ハッピーニューイヤーということで。