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●蓮見家の新年会 その3

 その後は、真珠から子どもたちへお年玉が渡されたり、真珠と子どもたちがユフィやティナを交えて遊んだり、似た境遇にあるアインとガランが杯を酌み交わしたりして場は盛り上がっていった。
 子どもたちのいるグループはすごろくを遊ぶことにした。ティナは子どもになれていないので、恐る恐る、という感じで相手を観察しながら口を利いていた。
「このルーレットを回せばいいのですね……あれ、あれ、回りません」
 ティナが、反対側に回している、ということに気づくのにさらに数秒を要した。
 ユフィもこの未知なるゲームに興味津々である。
「『落とし穴に落ちた。一回休み』、か。ここで寝ればいいのだな?」
 などと枕を取り出し頭を乗せるという、派手に間違ったルール解釈をして健勇に笑われている。
「なんだ、寝るのではないのか? ……まさか、自分の番が回ってくるまで封印されていろというのではあるまいな!?」
 さらに大真面目な顔でユフィが言ったので、それがますます皆に受けていた。(全員、ユフィが冗談を言っていると思っているようだ)
 つぐむと鴉も、数々の料理を楽しみながら武器や光条兵器の話を熱心に語り合っている。
「銃撃や砲撃は確かに強力だが、乱戦のときはやはり刀剣が強いのだろうか」
「俺はたしかに刀剣使いだが、乱戦では刀が強い、とは一概にはいえないな。たとえば、昨年従軍した戦いでは……」
 やはり男同士、戦いの話になると互いに血がたぎるようである。身振り手振りを交えて二人は言葉と情報を交換していた。
 珍獣、といっては大変申し訳ないのだが、言いつけ通りこたつから首と腕だけ出している不思議な状態のミゼには、朱里があれこれと世話を焼いていた。食べ物を運んだり水をあげたりしている。しかしミゼはそんな状態でも幸せそうだ。
「つぐむ様にお酌して差し上げたいのですが、この状態ではそうもいきませんね……ああ、しかし、なんという放置プレイでしょう。ぞくぞくしますぅ」
「そ、そういうものなのかなぁ……」
 朱里には理解できない世界である。ただ、愛する者に尽くしたい、というミゼの気持ちだけは痛いほどわかった。

 すごろくが終わった後、逃げ回るピュリアを中腰で追いかけ、くすぐって遊んでいた真珠だが、ある程度で『休憩っ』と宣言してテーブルに手を伸ばした。
「あー、遊んだら喉が渇いたなぁ」
 置いてあったジュースをぐっと一息で飲み干した。ところがこれがカクテルで、
「@%☆▲#!?」
 謎の声を発して彼女は倒れ、突っ伏したまま眠ってしまった。
「なによ真珠、あんたこんなところで寝たら風邪ひくよ!」
 手近な場所にいたユベールは、仕方ないので「これ、借りるわよ」と言って毛布を借り受け、真珠の身にかけてやった。
「変な子……はしゃいでいたかと思いきやいきなり寝たりして」
 ふとユベールが眼を上げると、いつの間にか健勇とピュリアも、それぞれアイン、朱里の膝の上に抱かれて寝息を立てていた。
(「あれが家族、かぁ……」)
 吸い寄せられるようにユベールの眼は、蓮見家に向かったまま動かせなくなってしまった。自分もいつかは鴉と、家庭をもちたいと彼女は思う。子どもはやっぱり、二人はほしい。彼に似た女の子と、自分に似た男の子だったら嬉しいな――とも思った。
「……トゥーナ、どうかしたか?」
 家族の姿に憧れ未来を夢想していた彼女は、この声で急に我に返った。鴉の声だった。
「わっ! うっさい! いきなり近くで大きな声を出すな!」
「大声を出しているのはトゥーナじゃないか。ボーッとしているから眠いのかと……」
「眠いのはそこの子だ!」
 アホ毛をつんつんさせながらトゥーナは眠る真珠を指した。
「それから、あたしが間抜け面しているとか言うな!」
 彼女は、ぷくぅと頬を膨らませていた。鴉にそんなつもりはなかったものの、
「そうか。悪かった」
 と謝ってそこを離れたのだった。
 もう少し鴉が彼女を観察していれば、それがただの照れ隠しだったと判ったに違いない。

 かくて宴の夜は更けていく。遅くなったので皆、蓮見家に泊めてもらい一晩を過ごしたという。
 ……夜中、ユフィンリーがつぐむに夜這いをかけたが、真珠が飛び起きて事なきを得たとりともう一騒動あったのだが紙幅が尽きた。それはまた、別の話として本章を閉じよう。