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リアクション
イルミンスールに温泉が整備されていると聞き、いてもたってもいられないネネ。
早速モモを連れて、そこへ向かう。
脱衣所に入ったネネを、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)と、ビデオカメラを持ったミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が追ってくる。
「ネネさん、あちきも一緒に入りますぅ〜」
「あら、あなたは確かダンスの」
「ふふ、覚えててくれたんですねぇ」
「もちろんですわ。ねえ、モモさん」
ネネがモモを振り向くと、モモはバスタオルを胸に当てて顔を逸らし、
「ええ……もちろんです……」
と、ネネとはまったく逆の意味の反応をする。
ネネとレティシアはそろって服を脱ぎ、二人はバスタオルでそのこぼれそうな胸をおさえ、湯船に向かう。
「ふふふ。あのダンス大会は、楽しかったですわ」
「ホントですかぁ〜。じゃあまた今度勝負しましょうねぇ」
「ええ、次は負けませんわよ。ねえモモさん」
「……ええ、そうですね、お姉さま……」
(あらあら、モモさんったら……)
なぜかテンションがだだ下がりのモモ。
レティシアはダークサイズと対決した過去がありながら、今回独自に温泉グルメ番組を作り、何故かダークサイズの財政の一助にしようとミスティにカメラを持たせている。
「ネネさんモモさん、あちきの『ダークサイズぶらり旅』に、ゲスト出演してほしいのですぅ」
「まあ、わたくしたちをゲストに? かまいませんわよ」
「じゃあ早速、温泉のシーンを撮影しますよ」
ミスティは三脚でカメラを固定し、レティシアを中心にネネとモモを両脇にして、温泉につからせてみる。
ミスティは画を見ながら、
「あれ? イマイチ決まらないわね……どうしてかしら」
と首をひねる。
考えた挙句、モモを中心にレティシアとネネを両脇にしてみると、
「あっ、この方がバランスいいわ。こうしましょう」
ミスティがカメラを回し、本番開始。
しかし……
「あ、ストップ。モモさん、すみませんがせっかくの温泉なので笑顔を……」
「あ、ごめんなさい……」
モモもやはり女の子。レティシアとネネの間に挟まれると、無意識に自信を喪失する。
当然ネネはとっくにモモの様子に気づいており、
「モモさん。いけませんわよ、わたくしたちとあなたの体の違いに優劣を感じては。わたくしとあなたの体格には『違い』があるだけですわ。そんなことで劣等感を覚えるのは、殿方の嗜好のせいです。女のわたくしたちがそんなものの影響を受けてどうします?」
と、珍しくネネが女性観を披露する。
ミスティもそれを見て、いい話が撮れそうだと、カメラを回す。
「はい……それは分かっているつもりですが」
「そうですよぉ。最近はモモさんを好きな人が多いくらいなんですからぁ」
レティシアは頬を膨らませて、男に不満を漏らす。
ネネはモモの肩を指先で撫で、
「ほらご覧なさい。あなたは、わたくしよりこんなに透き通るような肌をお持ちじゃありませんか。わたくしの肌はもちもちしてしまって」
「そうそう。あちきもネネさんとおんなじですよぉ」
と、励ましてるのか自慢してるのかよく分からない話をする。
レティシアはポンと手を叩き、
「でもモモさん、もしもう少し胸をおっきくしたいなら、ラッキーですよぉ」
「どういうことです?」
「この温泉の効能は、おっぱいをおっきくすることですぅ〜」
「きゃ! ちょっと」
レティシアは隙を突いて、モモの胸を揉み始める。
(イルミンスールの温泉にそんな効能はありませんけど……)
ミスティはビデオを回しながらツッコむ。
しかしそれにネネもそれに乗り、
「そうですわ、モモさん。健康的な豊胸は、マッサージが一番ですわ」
と、レティシアと一緒になってモモの体をいたぶり始める。
「な、ちょっと待、お姉さま、そんな趣味はお持ちでなかったはず、ああんっ、いや……」
と、モモの口から変な声が漏れ始めるころ、
(えーっと……このシーンは全部カットってことで……グルメコーナーの準備しよ)
ミスティはビデオを止め、データを消去した。
☆★☆★☆
「ふう……私たちの商売、ここからが本番だね」
霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は、チャリオットとゾンビ馬から霧雨農園の収穫物を下ろし、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)に渡す。
「シャンバラ大荒野ではあまり売れませんでしたしね」
陽子は透乃からケースを受け取り、その場に作った八百屋棚に野菜を並べる。
カリペロニアに霧雨の名前を冠した農場を持っており、その作物で行商を営みながら旅についてきた二人。
旅の道程でいくらか売れてはいたものの、シャンバラ大荒野での小さな集落程度では、さばける量はたかが知れていた。
おまけにトラブルで店が開けない日もあり、イルミンスールでようやくそれ相応の売り上げを期待できそうである。
二人はできるだけ人通りの多い場所を選び、さっそく開店。
イルミンスールからはるか南に離れた地の食べ物、という物珍しさもあって、徐々に客足も伸びてくる。
「そういえば、トウちゃんはどこに行ったのかなぁ? お店手伝わせたかったのに」
「服がどうとか言ってましたが、とっくに出来上がってもいいですよねえ……」
と、二人がふとダイソウの噂をしながら、休憩にお茶を入れていると、後ろからきゅうりか何かをかじる音がした。
「ほう、美味いではないか」
「泥棒は許しません……っ」
と、陽子が反射的に光条兵器「緋想」で、音のする方に拳を叩きつける。
がしいっ!!
陽子の左手を紙一重でかわして、ザッと後ずさるダイソウ。
「危ないではないか」
「あら、トウちゃん」
「お父ちゃんみたいな感じで呼ぶでない」
犯人がダイソウであるのを見て、透乃が声をかける。
陽子も拳を収め、
「危うくアボミネーションを発動することろでしたよ」
「つまみ食いにそこまでやるか」
「何を言うのです! 私と透乃ちゃんの愛の結晶ですよ!?」
「いくら地主のトウちゃんでも許さないよ! この野菜たちを育てるのに、私たちがどれだけ愛し合って、特別な愛の液体肥料をまいたことか!」
と、二人にしかできない特別な製法で産まれた野菜への想いを語る。
透乃は、ダイソウが相変わらずポンチョ姿なのを見て、
「あれ? 服を買いに行ったんじゃないの?」
「うむ。さすがにイルミンスールでは、軍服は売っていなくてな……」
「色も特殊ですしね……」
「えー! どうするの?」
「最悪、エリュシオンまでこのままだな……」
「急場しのぎに違う服で我慢してはいかがですか?」
「……いやだ!」
「あっそ、何かこだわりがあるのね……あ、それより野菜売るの手伝ってよ」
「私がか」
「当り前でしょ。地主だからって楽して分け前もらえるなんて思わないでよね」
と、透乃と陽子とダイソウが売り子となって、八百屋のまねごとを続ける。
「透乃よ。せっかくだから、野菜にブランド名をつけようではないか」
「あ、いいね! じゃあ『霧雨印の』……」
「『ダーク野菜ズ』」
「ダーク野菜ズーー!?」
そんなことをしてる間にも、いつの間にか隣では、終夏がバイオリンで『幸せの歌』を奏で、販売に一役買っている。
「……お前は何者だ?」
「気にしないで。通りすがりのヴァイオリン弾きです」
と、終夏はダークサイ座の時と同じようなことを言う。
(ふふふ。こうやってそれとなくお手伝いをしていけば、エリュシオンに連れて行ってもらえるかな? 『よく分かんないけど手伝ってくれてるから、まあいっか』ってなってくれれば大成功……)
終夏はイルミンスール内を歩き回り、ダークサイズと思しき人を見つけると、それとなく手伝って回っているようだ。
いつもの適当ネーミングをまたしても気に入ってしまったダイソウ。
通りがかりの子供にも野菜を勧め、
「霧雨印のダーク野菜ズだ。ダークサイズのように賢く強い大人になれるぞ」
と、子供だましも甚だしい宣伝をする。
「野菜は好きくないですぅ……」
「何を言う。痩せている上に顔色も良いとは言えん。明らかなビタミン不足だぞ」
見た目の事を言われてカチンときたらしい少女は、むすっとして、
「わ、私だって野菜くらい!……食べれないことはないのですぅ!」
「うむ。では、これは私からのサービスだ。もう日が暮れるから帰るのだ」
と、子供好きな一面を見せるダイソウ。
しかし少女は、ダイソウからの扱いに、むしろ腹を立てる。
「ば、バカにしてぇ〜! あなたに子供扱いされる覚えはないのですぅ〜!」
少女の怒りと共に、世界樹全体がゴゴゴと揺れる。
「むっ、何だこの揺れは。避難するぞ。こちらへ来るのだ」
と、ダイソウは少女に近寄り、抱えて避難しようとする。
「触るんじゃないですぅぅぅ!!」
と、さらに揺れは大きくなる。
「エリザベートちゃあああん! 落ち着いてぇ!」
そこに明日香が走って来て少女を抱きしめ、怒りを鎮めさせる。
「ふぅ〜、ふぅ〜……」
と、少女が落ち着いたところで、明日香はダイソウに振り返る。
「もうっ、ダイソウトウちゃん! エリザベートちゃんに何をしたんですかっ!」
「野菜をあげただけだぞ……」
「え、野菜?」
明日香の仲介でお互いに紹介されることになった二人。
少女の名前はエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)。このイルミンスール魔法学校の校長先生。
ダイソウは名前は聞いたことはあっても全く面識のない彼女に、
「うーむ。このような見た目だったのか」
と、驚く。
エリザベートはそれにまたムッとするが、明日香が抑える。
エリザベートは明日香に、ダイソウトウとは何者か、ここで何をしているのかと聞き、明日香は隠さず報告する。なぜなら明日香にとって、ダイソウよりエリザベートの方が圧倒的に優先度が高いから。
「ラピュマル、ですかぁ。名前は面白いですぅ。でも、ダークサイズ遅れてるですぅ」
「何だと?」
「いいものを見せてあげるですぅ」
エリザベートはその類まれな魔力で空間にビジョンを作り、世界中の外の様子を映してみせる。
「な……と、飛んでいる……」
マ・メール・ロアという前例はあったものの、浮遊要塞獲得はかなり先進的な挑戦である自信があったダイソウ。
しかし、世界樹イルミンスールが空に浮かぶのを知って、キマクの一件以来、この旅二度目の大きな挫折感を味わう。
何にせよ、ダイソウにとっては初めて学校長と出会う形になったが、お互いの第一印象は決して良くないものとなってしまった。
エリザベートが去った後、ダイソウは透乃と終夏に、
「何故あれがエリザベートだと教えてくれなかったのだ」
と言うが、二人とも
「いやー、てっきり知っててやってるのかと思って……」
との答え。
有名人なのだから知ってて当然という前提もあるので、
「うーむ、そうか……」
と、それ以上文句は言えなかった。
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