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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・前編

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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・前編

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 夜のシャンバラ大荒野は危険がいっぱい。
 夜盗の恐れもあるし、夜行性の野獣や毒虫なども寄ってくる。
 集落を間借りできる日もあれば、キャンプを張らねばならない夜もある。
 多少のリスクはあるが、やはり一行は一か所に固まって、大きな野営を張ることを選ぶ。
 夜盗に目をつけられるのは覚悟の上で、火も大きく焚くことにしている。

「さー、メシだメシだ」

 幹部達のたくさんの物資のおかげで、幸い寝食に不自由のない旅が続くダークサイズ。
 ある程度バラエティに富んだ食卓が続く。
 如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は、今夜は満を持して豪華な食事会を企画する。

「ダイソウトウ! ダークサイズの新人として、挨拶代わりに今夜は俺が肉料理をごちそうするよ」
「ほう、何の肉だ?」
「焼き肉とかすき焼きとか、そんなベタなもんじゃない。なんとジンギスカンだ!」

 正悟は、用意してきたジンギスカン鍋や、羊の肉を並べてみせる。
 これにはダイソウも感心して、

「羊の肉など、パラミタに渡って来て食べていないな。いただこう」
「じゃあ適当に待っててくれ。皆の分もあるよ。今夜は俺のおごりだ!」
「おおー!」

 というわけで、にわかに正悟のジンギスカンパーティとなる。
 が……
 正悟は肉の量を指さし数えて、ゾッとする。

(全然足りない……え、うそ。何で?)

 正悟が周りを見ると、無害そうに近づいていたハイエナが、羊の肉を素知らぬ顔でむしゃむしゃ食っている。

「うおーいっ!!」

 慌ててハイエナを追い払うものの、食い散らかされて使えない肉がずいぶん出てしまった。
 愕然とする正悟。肉は確実に足りないが、みんなに言ってしまった手前後には引けない。

(ど、どうする……お肉足りませんでした、なんてカッコ悪いのはごめんだ。考えろ俺!)

 正悟は周りを見渡し、あるものに目をとめる。

 ダークサイズの幹部でありダイソウの愛馬、エメリヤンは夜もダイソウのそばを離れない。ダイソウがたき火の前でコーヒーをたしなむ隣で、彼もマネしてお茶を飲む。
 エメリヤンのパートナーである結和も、仕方なしにダイソウの近くにいる羽目になっている。

「おーい、たかみーん」

 正悟は手を振り振り、二人の元にやってくる。
 結和は正悟を振り返り、

「正悟さん? 何ですかー?」
「いやー、実は人手が足りなくてさ。ほら、皆の分となると量も多いじゃん? エメリヤンに肉運んでほしいし」
「そっかー。大変ですよねー。エメリヤン、手伝ってあげよっか」

 こくりと頷くエメリヤン。
 正悟は手を合わせ、

「助かったー。たかみんは向こうで野菜を切ってほしいんだ。エメリヤンはこっち」

 と、それとなく結和とエメリヤンを別れさせる。
 正悟はエメリヤンを連れて羊肉を積んだ幌に連れていく。

「ほら、すごい量の肉だろ。ちょっと山羊になってくれないか?」

 山羊の獣人であるエメリヤンは、またこくっとうなずいて、大きな山羊に姿を変える。

「で、ここに寝っ転がってもらって」

 羊肉を背中に積むのかと思い、エメリヤンは地面に伏せる。

「おっけー」

がちゃり、がちゃっ……

「?」

 正悟は何故かエメリヤンの四肢に拘束具を付け、大きな板に彼を固定する。
 正悟は背中を向けて、大きな肉切り包丁を研ぎ始める。

しゃっ……しゃっ……

「実はエメリヤン。ここだけの話、肉が足りないんだ。君の大きな体を見込んでの頼みだ。君の立派な肉体を、是非食べさせてほしい……」

 と、正悟は振りかえる。たき火の明かりに反射して、彼の瞳と包丁がギラリと輝く。

(ひー!!)

 状況を理解したエメリヤンは、涙目になってガタガタと震えだす。

「で、でも僕……山羊……」
「羊も山羊も似たようなもんだ。細かいこと気にしてたら、オンナノコニモテナイゾ」
(死んだらもてても意味ないよー!)

 迫る正悟。動けないエメリヤン。

(た、食べられちゃう! 結和と大総統殿に助けてもらわなくちゃ! 助けを呼ばなくちゃ!)

 普段無口なエメリヤン。大声を出すのは苦手だ。しかし生命の危機に、そんなことは言っていられない。
 とにかく声を出そうと、エメリヤンは口を開き、

「あうあうーーーー!!」

 言葉でも鳴き声でもない、変な大声を出してしまう。
 しかしさすがパートナー。結和が不思議に思ってやって来て、

「エメリヤーン! 何してるんですか正悟さんー!」
「大丈夫だ。エメリヤンは実に美味そうだと思わないか?」
「美味しそうだけどダメー!」
(美味しそうなのーー!?)

 あまりに慌てた結和は、思わず正悟の美味しそうをオウム返し。
 思ってもみない結和の美味しそうに、エメリヤンもショックを受ける。
 この騒ぎに人が集まってしまい、正悟の目論見は失敗に終わる。
 解放されたエメリヤンは、結和を押しつぶすようにしがみついて震える。
 正悟から話を聞いたダイソウは、

「ハイエナに食べられたのでは仕方がない。野菜多めのジンギスカンにしよう」

 と言うが、そこにネネがやって来て、

「でもダイソウちゃん。今夜はジンギスカンと聞いて、わたくしのお腹はジンギスカンモードになっていますわ。今夜のわたくしのお腹は、野菜など受け付けませんわ」

 と、意外な食いしん坊っぷりでわがままを言う。
 壮太もネネの脇で、

「そうだぜダイソウトウ! ここまで来てネネ姉さんにジンギスカン食わせねえなんて、冗談じゃねえぞ!」

 と文句を言う。
 するとモモが、

「この辺は街もないようですし、それこそ狩りをするしかないですね」
「しかしこんな所に羊など生息しているのか?」

 と、モモとダイソウは、ネネのわがままをどうやって叶えるか、という思考回路になっている。
 弥涼 総司(いすず・そうじ)は、

「ま、幸いまだ夜も浅いし旅のメンバーも多いからよ、グループ分けして思い切ってハンティングイベントも面白いぜ。つーか、ネネだけじゃなく、俺たちの腹もジンギスカンモードだしよ」

 と、皆の気持ちを代弁する。
 ダイソウもそれを聞いて、

「なるほど。変態の言うとおりだ。私もジンギスカンを食べたい」
「変態ってお前……」

 ダイソウは総司を幹部名で呼ぶが、総司もさすがに『変態』とだけ呼ばれるのは抵抗があるようだ。
 というわけで、戦力となる者で、シャンバラ大荒野の中心でパラミタヒツジを求めて、夜の狩りイベントが始まった。